PR

ハイテク職場に学ぶアナログ仕事術

 小惑星に着陸し、サンプルを採取するミッションに世界で初めて成功した探査機「はやぶさ」。あれから4年たつが、大気圏再突入のシーンを昨日のように覚えている人も多いだろう。この偉業を成し遂げたJAXA(宇宙航空研究開発機構)で、どのように仕事が進められているのかを描いたのが本書である。

 最先端の技術を駆使する仕事だけに、さぞかし高度なIT技術に支えられているのでは――と思いきや、意外にもJAXAではアナログな手法が多用されている。宇宙という厳しい環境においては、ささいなミスが飛行士の生死に直結する。原因は様々だが、その1つが指示の取り 違いだ。宇宙開発という仕事は、コミュニケーションの積み重ね。そこでは100パーセント正確な意思疎通が図られなければならない。

 特に日本人同士の場合、指示が明確でなくてもおおよその意味が通じてしまうため、細かな部分での勘違いに気づかぬまま作業が進められる危険性がある。そこでJAXAでは、指示を受けたときには「それは○○ですね」と自分の言葉で言い直し、認識のギャップを修正するように指導しているそうだ。

 これはごく簡単な工夫のように思えるが、1992年に向井千秋氏が宇宙実験の運用管制員を務めた際、「送られたメッセージに直ちに了解と言わず、把握した内容を別の言葉で再確認する」というやり方が、NASAから高く評価されたとのこと。高度な技術を操る職場でも、最終的には人間同士のやり取りをどう高めていくかが重要になるのだ。

 本書では他にも、JAXAがフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを重視していることが描かれている。「近くの人にメールするなら、すぐにコーヒーを持って会いに行け」というアドバイスや、「電子メールを使わずに会議をセッティングしてみよ」といった指導も行われている。ハイテクの職場にアナログな工夫というギャップが面白い。

 最近はテレワークやモバイルワークを導入し、社員が世界中に分散している会社も珍しくない。そんな会社ほどフェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションを大事にしていることが多い。バーチャルなコミュニケーションが中心になるからこそ、リアルの重要性が際立つのだろう。むしろリアルで仕事するのが当たり前の会社の方が、コミュニケーションの質を高めることの大切さを忘れてしまうのかもしれない。

 どの業界でも、コミュニケーションの積み重ね度合いが、製品やサービスの品質を左右する。宇宙開発という究極の業務に携わるJAXAの仕事術は、あらゆる職場において参考になるはずだ。

 評者 小林 啓倫
日立コンサルティング シニアコンサルタント。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、外資系コンサルティング企業、国内ベンチャー企業を経て現職。ビジネス書の翻訳も手がける。
宇宙に挑むJAXAの仕事術


宇宙に挑むJAXAの仕事術
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 著
日本能率協会マネジメントセンター発行
1620円(税込)