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 私は、ITとは電子的なメディアに人の形が投影されたものだと捉えている。自動車を例に説明すると、内燃機関の動作原理に人の要素はないが、運転席には人にとっての運転しやすさが投影されている。

林 浩一 氏
ピースミール・テクノロジー 代表取締役社長、ウルシステムズ ディレクター。富士ゼロックス、外資系データベースベンダーを経て現職。現在、企業や公共機関のシステム発注側支援コンサルティングに注力する

 運転席に座り前方を確認しながら、ハンドル、アクセル、ブレーキで操作する。これら昔と変わらない仕掛けは、人の身長、骨格、視覚、両手両足といった身体的・認知的な制約を前提にしたユーザーインタフェース(UI)である。

 コンピュータも同じだ。電子回路の動作原理に人の要素はないが、ディスプレー、キーボード、マウスといったUIや、使いやすいWebサイトの構成には、人の身体的・認知的な制約が投影される。この意味で、ITは人の形を投影したものといえる。

時間が経過しても変わらないもの

 いきなりIT論をぶったのは、これが技術の「本質」に大きく関わるからである。私は技術の本質を、時間が経過しても変わらない不変性と定義する。ITは急速に進歩するが、そのなかに変わらない方向性や繰り返しの構造を見いだせる。投影される元の人の形が急速には変わらないためだ。

 不変性を見いだす箇所は人それぞれだが、次の一歩を決める上で仮説を立てることが大切だ。そんな仮説の例を挙げる。「ITはその存在がユーザーから見えなくなっていく」である(図1)。

図1●ITの進化の流れから不変性を見いだし仮説を立てる
図1●ITの進化の流れから不変性を見いだし仮説を立てる
ITの進化の流れから、時間が経過しても変わらない方向性や繰り返しの構造を見いだすことができる。この「不変性」が技術の本質であり、自分なりの仮説を立てることが重要だという
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 道具は人の手の延長といわれる。 ITはそれに加え、見たり伝えたりする能力を、時間と空間を超えて延長するものだ。この延長の仕方はより自然になり、ユーザーにとって存在が分からなくなっていくという意味だ。

 コンピュータが、ホストコンピュータ、PC、スマートデバイスへと移り変わってきたのは、この不変の方向性であると捉える。メガネ型や腕時計型のウエアラブルコンピュータも過渡的なものであり、人の感覚器官と一体化するまで進化は止まらないだろう。

 「汝なんじの足元を掘れ。そこに泉が湧く」という、詩人・ゲーテの言葉を心にとどめたい。みなさんが今取り組んでいる技術を対象に、不変性を捉える試みを始めてほしい。技術に極限まで集中できるのは、いつ使うか分からない技術を勉強するときではなく、現実の課題に直面しているときだ。