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横井 伸好氏

 米Microsoft社は,統合ソフト「Office」の大幅な機能強化を図る。現状のOfficeはワープロ・ソフトや表計算ソフトなどの統合パッケージという印象が強い。次期版の狙いは,Officeを企業情報システムのプラットフォーム技術に仕立てることにある。Office製品の日本における責任者に,企業システムにとってのOfficeの強みを聞いた。
(聞き手=ITpro発行人 浅見直樹)


「Office」といえば,アプリケーションの統合パッケージというのが多くの人が抱く印象だと思いますが。

 歴史を振り返ってみると,Office製品は1993年に誕生しました。「Word」と「Excel」をただ一つの箱に入れただけで8万円,それがOfficeだったわけです。フロッピー版で,マニュアルも分厚くて,大きな箱に梱包されていました。WordとExcelをそれぞれ別に購入するよりは,まとめて買っていただいた方がお得です--これが最初のコンセプトでした。

 次に,リレーショナル・データベース「Access」やプレゼンテーション・ツール「PowerPoint」も統合パッケージとして仲間入りし,ようやく「スイートらしさ」が出てきました。この時点で,単に同じ箱に入れるだけではなく,ユーザー・インタフェースを統一したり,OLE(Object Linking and Embedding)といった技術によってアプリケーション間連携が可能になりました。デスクトップに必要な品揃えが豊富になり,アプリケーション間の機能連携が始まったのがこのころです。

そもそも,なぜMicrosoft社はこうしたパッケージ化を進めようと考えたのでしょうか。

 当時,一つ一つのアプリケーションは極めて高価だった。もちろん,ユーザー数が少ないうちは単価を高く設定しなければならなかったわけですが,普及するにつれて単価も下がりつつあった。ならば,単価の下落を加速させることで,使っていただくユーザー数をもっと,もっと増やしたかった。特に,文書作成や表計算に留まらず,データベースやプレゼンテーションもパソコンの標準機能としてオフィス環境で利用できるようにしたかった。その後,Windows 95の爆発的なヒットに後押しされる形で,Office 95の出荷本数は大きく伸び,Office利用者の裾野がぐっと広がりました。

 Office 97の時代は,ジャストシステムと激しいワープロ戦争を繰り広げている時期でした。実は,このパッケージに入っていたWord 98はワープロ競争に勝つためだけに用意された日本独自製品です。シアトル本社とも多くの議論を重ね,日本向けの製品を開発してもらったのです。特定地域向けの製品を作るなんて,今では考えられないことですが。

 Office 97では,ファイル・フォーマットも変更しました。これは大きな変更点でした。Office 97で作成した文書はOffice 95で開けなかったのです。多くの方にご迷惑をおかけしたのは事実ですが,統合パッケージ・ソフトの将来を考え,その時点でフォーマットを変えざるを得なかったのです。そして今回,その時以来,維持してきたフォーマットを再び変更します。つまり,さらに将来への進化を見据えてた10年ぶりのフォーマット変更に踏み切るわけですから,Office次期版がもつ意味はそれほど大きいのです。

Office 97までは個人のデスクトップ環境に向けたツールでしたが,その後,企業システムに向けた機能強化を図るようになりました。

 Officeの利用者数が拡大したことで,みんなが同じツールを使い,その文書がオフィス間,さらには企業間を流通するようになりました。オフィスがビジネスの共通ツールになったのです。これにより,Microsoft社の開発ポイントも,「コラボレーション」あるいは「コミュニケーション」へと移ります。

 Office 2000で,サーバー用コードも同時に発表し,ユーザー間での簡単な情報共有を可能にしました。つまり,企業における情報システムの中でOfficeを利用してもらいたいというメッセージを込めたわけです。それと同時に,文書を一度HTML化した後で,それを再度,Office文書に戻せるような機能を導入しました。HTML文書にも,元の文書情報を残しておきました。今のXML相当の技術をこの時点で導入していていたのです。

 個人のツールからチームのツールへの転換点,それがOffice 2000です。当時,「今回のOfficeは個人ユーザーにとって全く魅力がないね」とご批判をいただいたくらいです。どうも,企業ユーザーと個人ユーザーの両方を同時に満足させるのは簡単ではなく,その後の機能拡張も,どうしても企業よりになったり,あるいはコンシューマよりになってしまったのは事実です。

Officeの次期版では,エンタープライズ・システムを強く意識しているようですが。

 Office 2000では,部門におけるグループ・ユーザーを対象にしていましたが,Office 2003から企業システムを意識するようになりました。そして,クライアント・サーバ環境におけるOfficeの集大成,それが次期版「2007 Microsoft Office system」です。今回はこの名称にこだわりたい。

 Officeブランドが広く浸透されていることから,どうしても「Office 2007」と呼びたがる方が多いのですが,できるだけ正しい呼称を利用していただくようにお願いしています。できれば「system」か「システム」を付けて呼んでいただきたい。もし,「Office 2007」という呼称を認めてしまうと,ユーザーが既存の製品の延長だと思い込んでしまう。

 パソコン利用者の間でOfficeは「水や空気」のような存在となりつつあります。無色透明で,なくてはならないのは確かですが,それ以上の存在ではない。次期版Officeの新機能を正しく理解していただくためにも,まずは名称の認知度を高めたい。やはり,デスクトップにおけるイメージの脱却を図らないと,その先に展開する私たちの世界観を伝えられない。「スイート・パッケージ=Office」ではないことを,いかに認知してもらえるか。そのためにも,これまでの「Office」とこれからの「Office system」を区別していただきたい。

 そういう意味で,「2007 Office」という略称は認めています。少なくとも,リリース年が前に付くことで,これまでとは呼び方が異なっていますから。この啓蒙活動には,相当に時間が要すると思いますが,Microsoft社にとっては極めて重要なことです。

 次のOfficeは,システムキッチンのようなものです。引き出しはいくつにするのか,調理台の素材は何にするのか,それをお好みで選択することが可能です。Officeも,コンポーネントの集合体ですから,必要なものをビルディング・ブロックのように組み合わせることで,最適な情報システムを組んでいただきたい。どうしても今回,ユーザー・インタフェースが大幅に変わりましたから,そこに注目が集まりがちですが,サーバ側に革新的な技術が豊富に組み込まれていることに大きな意味がある。

 ではなぜ,システムを重視するのか。それは,もはやクライアント環境だけに技術を投入しても,ユーザーの問題を本質的には解決しきれないようになっている。サーバ環境と組み合わせてこそ,初めて解決できる問題が多数ある。

Officeの次期版では,具体的にどのような機能が入るのでしょうか。

横井伸好氏

 世界レベルで「Always on , always conneted」は当たり前となり,Wordを使えないとか,Excelを利用できない,というパソコンの基本的な使い方を懸念する声はあまり聞かれなくなりました。どこでもパソコンはある。情報もある。次は何が問題になるか。膨大な量の情報から,いかに自分に有効な情報を探し出すかが大切になる。

 ある調査結果によると,私たちは業務時間のうち,15%~30%の時間を,必要な情報を探し出すのに費やしている。しかも欲しかった情報にたどりつける確率は50%くらいだという。自分に意味のある情報をいかに効率的に探し出すかが,これに対してOffice次期版に入っている「SharePoint」では新機能「エンタープライズ・サーチ」を提供する。単に,イントラネット内にあるHTMLやOffice文書を検索するのではなく,ERPのデータベースに格納された各レコードまでも検索対象に含める。

 SharePointには,「人」を検索する機能も加わった。もちろん,自分で情報にたどり着くことができれば,それにこしたことはないわけですが,むしろビジネスの上で手っ取り早いのは,その分野に詳しい人に聞くことです。その人からアウトプットされた文書は,社内で共有できるかもしれませんが,まだまだ文書の形式で「見える化」されていないことが多い。つまり,人にアクセスできることで,より多くの情報を共有できるようになります。SharePointには,それぞれの分野に詳しい人を社内から探し出すのを支援する機能を追加します。もちろん,社員それぞれが自分の詳しい分野を登録してくれないと,話が始まらないわけですが。

みんな,ちゃんと登録しますか。本当なら,自らが宣言しないまでも,情報システムが自ら知的に人を探し出してくれるべきかと思いますが。

 現時点では,そこまでの機能はありません。ただ,それでも,社員が自分を自発的に自分を売り込んでもらうように啓蒙するのは,それほど困難なことだとは考えていません。

横井伸好氏

 Officeに加わる,もう一つの機能として「コンプライアンス向上への対応」を挙げられます。Officeには,ワークフロー管理の機能が入ります。Office文書をSharePointに受け渡すと,ワークフローの対象になります。承認プロセスを管理した上,このワークフロー対象となった文書は,すべて認証管理されます。

 以前のSharePointは,みんなで情報を共有することが最大の目的でしたが,コンプライアンスという点では,人から情報を隠すために,SharePointで管理するようになるわけです。権限を持った人だけに閲覧・保存・印字を認めるなど,詳細な設定が可能になります。一定期間のみ保存し,それが過ぎたら破棄する,あるいは別のアーカイブ用ストレージに保存するといった使い方もあり得ます。文書の作成から廃棄まで,別の表現をすれば「文書の揺りかごから墓場まで」をOfficeで面倒みようというわけです。

 こうしたコンプライアンスの視点でも,またはプロジェクト・マネジメントという視点でも,クライアント単独のソフトウエアだけに技術革新を及ぼしても意味をなしません。だからこそ,サーバーも含めたシステム・レベルでソフトウエアを機能強化することが,今まで以上に重要になるのです。フロントエンドに一般利用者になじみの深いOfficeスイートを使用しながら,バックエンドでは,SharePoint上に各種のアプリケーションを構築する。そしてSharePointが各種の基盤システムと連携する--これがMicrosoft社が描く企業システムのプラットフォームの姿です。ようやく,こうした図式を提示するところまで来た,というのが素直な実感です。

ユーザー・インタフェースが大きく変わります。今まで慣れたユーザーは当初,戸惑いを感じるのではないでしょうか。既存の熟練ユーザーのためにも,既存の「クラシック・メニュー」を用意する予定はないのでしょうか。

 今回は大幅な機能強化となります。新しい機能を前提としたユーザー・インタフェースとなっているので,既存のクラシック・メニューではどうにも対応し切れなかったというのが実情です。Microsoft社内でも,いろいろな実験を実施しています。これまでのユーザー・インタフェースと,新しいユーザー・インタフェースでどれだけ生産性が高まるのか--なかなか定量化しにくいですが,かなり短い期間で,新しいユーザー・インタフェースに移行していただけるものと確信しています。