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「つくばエクスプレス」の無線LANサービスを支援したり,電子マネー事業を手掛けるビットワレットに出資したりと,多様な展開を見せるインテル。最近はヘルスケア事業にも進出した。近年,プロセサ・メーカーからプラットフォーム・ベンダーへと変わる旨を宣言した同社にとって,これら一連の策の狙いは何か。同社の町田栄作 事業開発本部取締役に聞いた。 (聞き手は高下 義弘=ITpro)
8月,インテルが関わっている「つくばエクスプレス」の無線LANサービスがいよいよ始まります。(つくばエクスプレスの関連記事)。一方,今年は電子マネー事業を手掛けるビットワレットに出資したり,ヘルスケア事業に進出するとも発表しています(ビットワレット出資の関連記事,ヘルスケア事業の関連記事)。こうした多様なサービスや事業に出資したり,進出する理由は何でしょうか。
ITのマーケットを広げ,新しいビジネスチャンスを作ることが狙いです。ITを誰でも,どこでも使える環境をいち早く整えてITの需要を喚起し,マーケットを広げます。マーケットが広がると,参入企業が増え,商品が多様化するので,さらにユーザーの利便性が高まります。そうなれば最終的には,プロセサやプラットフォームを製造・販売しているインテルのチャンスが増えるわけです。
インテルだけでなく,業界内外で同じ考えを持つ企業と協力すれば,マーケットは効果的な形で拡大します。事業開発本部は全世界共通のグローバルな組織として2005年7月に発足しましたが,そうした考え方のもと,さまざまな事業を展開しています。
インテルはパソコンに関わるさまざまな標準化とオープン化に幅広く携わってきました。そのインテルの経験が,マーケットの拡大とユーザーの利便性向上に役立つのではないかと思います。
社会や生活のデジタル化を進め,需要を喚起
最近,インテルは「デジタル・ライフスタイル」と称して,ユーザーの利便性を向上させる取り組みを進めています。代表的なものは,先ほども話題に出たつくばエクスプレスです。世界で初めて,動く列車内での商用無線LANサービスを実現しました。最大速度が3Mbpsの無線LANサービスを利用できます。
また,大阪では2004年から「デジタル・シティ大阪プロジェクト」を進めています。ホテル「ハイアット・リージェンシー・オーサカ」やフードコート,トレードセンターといったさまざまな場所に,無線LANの通信環境を整備してきました。
無線LANの環境を整備したことによるビジネスのインパクトは非常に大きかったようです。ハイアットでは,開催されるカンファレンスの数が一気に増えました。つまり,無線LANの環境を用意したことが,ビジネスの拡大につながったわけです。カンファレンスに出席するいまどきのビジネスパーソンは,無線LAN機能付きのノート・パソコンを持ち歩いていますからね。
インテルは,無線LAN機能を搭載したモバイル・パソコン向けのプラットフォーム「Centrino」を提供しています。インフラと機器を用意し,使える環境を用意することで,ユーザーは増加します。個々の企業における取り組みはもちろん大切ですが,デジタル・シティのように複数の企業が協力して仕組みを作り上げると,マーケットは一気に拡大します。
ビットワレットへの出資も,デジタル・シティと同様の狙いがあります。電子マネーを使う場面が増えれば,オンライン・コンテンツの流通にも弾みがつきます。そうなれば,「Viiv(ヴィーブ)」のようなデジタル・コンテンツを楽しむためのプラットフォームの普及を後押しできます(Viivの関連記事)。
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電子マネーはかなり普及してきましたが,インテルが出資しているビットワレットの「Edy」は特に,ネットとの親和性が高い。自分の家でEdyのカードに金額をチャージし,そのカードを使って実際の店舗でモノを買う。Edyのカードでコンテンツを購入し,それを自宅のパソコンや出先の携帯電話で楽しむ。今後,こうした利用形態が広まると思います。
ただ,電子マネーの需要を喚起し,マーケットを広げていくためには,電子マネーを決済手段に使うバーチャルな店舗の増加や,コンテンツやサービスの充実が不可欠です。また,電子マネーが使えるパソコンやモバイル機器,バックエンドの仕組みも整備する必要があります。インテルとしては「テクノロジー・ニュートラル」,つまり標準的で開かれた“民主的な”技術で支援していきます。
ヘルスケア事業は,いま望まれている医療のIT化を促進するものです。機器接続の標準化など,インテルとして実績のある分野で貢献しつつ,マーケットの幅を広げます。
(米)インテルは6月,ヘルスメーターなど医療機器の相互接続を可能にする全世界的な組織,「コンティニュア・ヘルス・アライアンス」を立ち上げました。このアライアンスには日本からも数社,医療機器メーカーが参加しています。また日本国内では,地域の病院や診療所などを互いに結ぶネットワーク構築のプロジェクトを支援する計画を立てています。
信頼される助言者としてユーザーにアドバイス
デジタル社会に対するユーザーのニーズを発掘するうえでは,企業・個人の区別なく,まずユーザーのあり方を知ることがポイントだと思います。それを知るためにインテルはどんな姿勢や考え方で臨んでいますか。
私の組織(事業開発本部)では「トラスティッド・アドバイザー」という言葉を打ち出しています。そのまま訳すと,信頼される助言者ということです。顧客に直接モノを納める立場にはないけれども,それと同様の価値を提供できる,信頼される立場になろうと考えています。
コンピュータはまだまだ多くのユーザーにとって操作しづらい。パソコンに慣れていないお年寄りにとっては,ネットでショッピングすることでさえ,非常に大変な作業です。
パソコン・ユーザーは以前よりも増えたとはいえ,世界レベルで見ればまだ全人口の一部に過ぎません。中長期的な視野で,ITの利便性を高め,より多くのユーザーに使ってもらう策を打つことが必要です。そのためにも,多種多様な業界が協力して,使いやすいITのあり方を提示していくことがポイントだと思います。