パソコン周辺機器の開発・販売や「OnTrack」ブランドでデータ復旧サービスを手がけるワイ・イー・データは2006年11月,いち早くUWB(Ultra Wide Band)製品を製品化し販売に踏み切った。USB接続を無線化するワイヤレス・ハブとドングルで,価格は3万円を超える。既に研究機関などに販売した実績がある。数GHzの広い周波数帯を使うUWBは,日本では2006年8月からローバンド(3.4G~4.8GHz),ハイバンド(7.25G~10.25GHz)の2つの帯域で屋内に限り利用可能となった。ワイ・イー・データに今後の製品計画やUWBの普及に向けた取り組みを聞いた。
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写真●ワイ・イー・データ マルチメディア事業部 西野雅博・事業部長 |
なぜワイ・イー・データはUWB機器を開発・販売したのか。
ワイ・イー・データはUSB接続のフロッピー・ディスク・ドライブを日本国内で初めて開発・販売したメーカーで,各種カード・リーダーなども開発しOEM供給している。パソコン周辺機器を開発していくうえで,次の展開としてもともとIEEE 802.11bや同802.11g,802.11nなどの無線LAN製品に取り組むことも考えた。だが台湾のメーカーが競合になるため,コスト面でとても太刀打ちできない。そこで付加価値があり,自社の技術力も高められる技術ということで,2005年からUWBを検討し,2006年春にはUWB機器の試作を開始した。
2006年11月13日に発売したUWB製品の販売実績は。
700台から800台程度。数万円と価格が高いので,研究所や大学の購入が多い。一般消費者の割合は10%程度だ。現在販売している機器は日本国内での使用しか想定していない。今はローバンド(3.4G~4.8GHz)を採用しているが,将来的にはより広帯域が期待できるハイバンド(7.25G~10.25GHz)を採用する製品が多くなると考えている。
利用シーンとして想定しているのは,LANではなくパーソナルなネットワークであるPAN(Personal Area Network)。現在有線で接続しているUSB機器を無線化することだ。UWBで通信できる距離はせいぜい届いて10mで,実用的な距離は7m程度。パソコンの周辺機器を無線化する使い方がメインとなる。将来的にはUSBケーブルをなくせると考えている。
現在の製品の性能は。
今は実測値で30Mビット/秒くらい。ハブを介さなければ60Mビット/秒程度だ。今後はハブを介さない場合で100Mビット/秒を狙いたい。現在ボトルネックとなっているのはMAC(Media Access Control)層の部分で,ファームウエアの改良が必要だろう。また,USB自体もボトルネックになっている。
とはいえ,技術的にはUSB2.0では最大480Mビット/秒まで出せるはずである。UWBという技術だけで見るとさらなる高速化が可能だ。ワイ・イー・データはUSB製品とは別に,プロジェクタにHD(high definition)画像を送信する装置を9月ころに試作する予定だ。アナログで画像データを伝送し,映像信号用コネクタである「D-Sub」を置き換えることを考えている。
国内の規制は厳しいようだが。
日本では屋内でしか使えない。そのうえ,UWBは他システムとの干渉を防ぐため,最大送信出力が-41dBm/MHz以下という規制がある。
この低出力が長所になる。UWB機器の出力は微弱で自然界のノイズとあまり変わらない。現在販売している製品は100μW程度。無線LANは10mW程度,携帯電話はさらに大きい。UWBは携帯電話の1万分の1程度の送信出力であるにもかかわらず,10m程度の距離を無線化できる。病院など電子機器への影響にシビアな環境でも使える。
もともとUWBは,高出力で壁の内側の様子を探るといった軍事目的で開発されたが,民生化する過程で出力が弱くなり,USBの無線化といった用途が浮上した。出力が弱くなり,いまやUWB製品は壁を超えるような通信をすることが難しい。使用エリアが限定されるようになったため,情報漏えいなどの心配も少なくなった。
普及の見通しは。
まずは製品の価格を下げなければならない。例えば外付けHDDなどに内蔵するにはモジュールを5000円以下にしなければならないだろう。ドングルだと1万円以下にしないと普及は難しいと思っている。ワイ・イー・データはカード・リーダーなどをOEM供給しており,パソコン周辺機器メーカーとは以前から関係が深い。こうした周辺機器メーカーにUWB機器の採用を働きかけていく。
その際に重要なのが相互接続性だ。現在,USBの仕様を策定する非営利団体であるThe USB Implementers Forum(USB-IF,http://www.usb.org/)の中に「Certified Wireless USB」(CWUSB,http://www.usb.org/developers/wusb/)という作業部会があり,相互接続性試験などの話し合いが進んでいる。
今後はW-iFiのように,製品共通の相互接続性を示すロゴなどが使えるようになるだろう。ワイ・イー・データはUSB機器も開発しておりUSB-IFとは関係がある。またUWBの普及団体であるWiMedia Alliance(http://www.wimedia.org/en/index.asp)にも参加している。
UWBは,USBがなければこれから先の展開が見えなかったかもしれない。UWBという言葉は一部の人しか知らないが,USBだと多くのユーザーが知っている。UWBの普及のためにはUSBと結びついてよかったと思っている。