PR
【後編】IPではユーザーに決定権あり,これが電話との最大の違い

昨年のひかり電話のトラブルの会見で,「人知を超えた範囲」という表現をしていたがその真意は。

 あれは社員を処分するかという質問への回答だった。

 リアルタイムに処理をするIP網はまだ世界のどこにもない。設計の前提条件が結果として間違ってはいたものの,これは誰にも予測ができなかった。これで社員を切り捨てたら,新しいことをやる社員は誰もいなくなってしまう。だから経営責任について説明した後で,「人知を超えた範囲」なので社員は処分しませんと申し上げた。

FMC(fixed mobile convergence)など,携帯電話との連携はどういう形になるのか。

写真●森下 俊三氏
撮影:山田 哲也

 現在はIPセントレックスなど法人系のサービスが中心だ。大規模なネットワークとして大阪ガスを構築したが,現在は中小向けにも展開している。

 企業向けソリューションは,ユーザーが求めているものを提供しないと成り立たない。ユーザーがこっちを使いたいと言えば,それを尊重する。例えば,携帯電話がauで固定網がNTT西日本という形態も否定しない。

 将来は確実に,携帯電話網と固定網が一緒になる。これはFMCサービスが便利で,法人のユーザーがこれを望んでいるからだ。

 電話とIPの最大の違いは,ユーザーが決定権を持つということ。電話は我々が提供するものだったが,IPではユーザーがサービスを選択する。

 現在,総務省で議論されている「新競争促進プログラム2010」に不満があるのは,ユーザーの視点がないこと。事業者が公平競争をするかとか,オープンにするかなど供給者の論理ばかりで,ユーザーを置き去りにしている。

NTT東西の競争も変わってくる。東西の正しい競争の形というものはあるのか。

 1999年にNTTが東西に分かれたとき,前提となったのは電話だった。電話に競争相手がいなかったから,NTT西日本も東京に進出してサービスをやれと言われたものだ。

 しかし電話の競争は収束する段階に入った中,電話を維持しながらIPにどう取り組んでいくかが問題になる。

 トランスペアレントな電話の場合は,簡単につなげられたが,IPではそうは行かない。例えばNTT西日本のIP網はIPv6ベースで,東日本はIPv4だ。こうした問題に戸惑っているのは実はユーザーだろう。

ユーザーの意見では,東西で同じようなサービスでも,名前が違うのが分かりにくいという指摘がある。

 ユーザーに迷惑をかけているのはよく分かっている。できる限りサービスの仕様を,名前も含めて合わせようとしている。NTT再編の経緯で,サービス名も仕様も結果的に別のものになってしまった。フレッツ網では,東西で別のメーカーの機器を使って構築していた。

  同じIPでもメーカー間には微妙な違いがある。IPでは技術が少し異なるだけで,つなぐのが難しい。このために後々苦労する羽目になった。

NTTが東西二つに分かれたのは,もう意味がないということか。

 組織をマネジメントする経営規模の面では,意味があるかもしれない。ただ,電話の世界で競争相手がいないから分けているという論理はもう成り立たない。

 IPでは,いまやどの地域でもCATV事業者から地域通信事業者,インターネット接続事業者まで競争相手がいる。固定電話を持たないユーザーも増えている中,携帯電話だって立派な競争相手だ。

 IPが中心となる世界では,NTT西日本を電話会社と呼ぶのはなじまなくなっている。だから私は,2010年にIP会社になるんだと言っている。

 2010年にNTTの組織を検討するという話があるが,私は組織論から入るのは誤りだと思う。ユーザーが求めるサービスをどうすれば最も効率よく出せるかを考えるべきだ。

 ネットワーク上のアプリケーションを考えるには,いろいろな企業と組む必要がある。NTTグループ内でまとまるだけでは,こういった問題を解決できない。

 つまり経営のやり方をどうするかが問題で,組織論とは別。NTTグループは特殊な会社なので,組織論が議論されるという要因はあるのだが。

>>前編 

NTT西日本代表取締役社長
森下 俊三(もりした・しゅんぞう)氏
1945年生まれ。70年3月に名古屋大学大学院修了。同年4月に日本電信電話公社(現NTT)に入社。94年7月NTT移動通信網(現NTTドコモ)理事・通信技術システム部長に就任。96年6月に日本電信電話(NTT)理事・設備企画部長,98年6月に取締役・設備企画部長に就任。99年1月に取締役・東日本会社移行本部技術部長,同年7月にNTT東日本常務取締役・技術部長,2000年6月に代表取締役常務・法人営業本部長,2002年6月に代表取締役副社長に就任。2004年3月にNTT西日本代表取締役社長に就任。趣味は俳句。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年3月6日)