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【前編】携帯はネット連携がさらに強まるデータ通信は定額制を避けられない

販売奨励金やSIMロックといった現行ビジネスモデルの見直しで大きく揺れる携帯電話業界。携帯電話事業者から無線設備を借りてサービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)を促進させる動きもある。最大手のNTTドコモは一連の議論をどう見ているのか。第4世代携帯電話やNGN(次世代ネットワーク)への取り組みも含めて,今後の戦略を中村社長に聞いた。

総務省のモバイルビジネス研究会で販売奨励金やSIMロックの見直しを議論している。携帯電話会社の立場から見て今後のあるべき姿をどのように考えているか。

 販売奨励金は,携帯電話の普及を目的としていた初期の段階では良かった。だが,今は買い替え需要がほとんど。買い替え比率が毎年高まってくると,経営的には苦しい状況になってくる。

 確かに「端末を安くした分,月額料金を高くしているのではないか」という指摘は一理ある。各事業者は販売奨励金を投入して端末を実際よりも安く販売しているので,その分をどこかで回収しなければならない。この構造は否めない。しかし,要は程度の問題ではないのだろうか。

 これまではうまく運用できていたが,2006年から番号ポータビリティ制度が導入され,販売価格の競争が一段とエスカレートしてきた。今,新規契約はほとんどの端末が0円になっている。事業者自らが状況をひどくしている点は問題と感じている。

端末は高いが,月額料金は安いメニューを併用する可能性もあるのか。

 一つの解としてあり得る。ただ,現状を見ると0円の端末を選ぶユーザーが多く,端末を高くして料金を安くしたメニューを用意しても実際にどうなるか分からない。また,2年や3年の長期利用を前提に端末を購入してもらうことで,料金をある程度安くする方法も考えられる。これは販売奨励金の問題とは関係なく,あり得るだろう。

SIMロックの解除についてはどう考えているか。

写真●中村 維夫氏
撮影:細谷 陽二郎

 販売奨励金とは別の観点で多くの問題がある。第1の問題は,現在の端末ではSIMロックを解除しても各事業者で共通に利用できる機能は通話とSMS(ショート・メッセージ・サービス)ぐらいということ。iモードなどのデータ通信は全く使えない。将来に向けて共同プラットフォームを構築して事業者間の互換性をパソコン並みにするという話はあるかもしれないが,その場合にしても実現には時間がかかる。

 第2の問題は,そもそもKDDI(au)は通信方式が異なるので,SIMロックを解除しても他の事業者では使えないことだ。国内の携帯電話の通信方式は,当社やソフトバンクモバイルが採用するW-CDMAと,KDDIのCDMA2000に分かれている。W-CDMAを採用する事業者だけで競争させるつもりなのか。

 第3の問題は,端末が海外に流出してしまうことだ。特にW-CDMAグループでは,海外でも利用できるようにGSM対応のデュアルバンド端末を増やしているが,端末が0円なら海外で転売されてしまう。これを避けるには端末価格を高くしなければならず,ここで販売奨励金と関係してくる。

 もちろん海外ではSIMロックを解除している国もある。しかし,海外と日本とでは状況が大きく異なる。例えば欧州では各事業者が同じ端末を販売している。同じ端末なので必然的にSIMロックを外せとなる。これに対して日本は各事業者で端末が異なり,一つとして同じものはない。この状況でSIMロックを解除しろというのは疑問だ。

 販売奨励金とSIMロックのほかに,端末メーカーの国際競争力もこれに絡めてぐちゃぐちゃに議論されている。一連の流れを見ていると,何か答えありきで進んでいるように思え,不満だ。

海外では端末メーカーが独自に端末を開発して販売し,事業者を選ぶスタイルになっている。一方,日本では事業者がメーカーと共同で端末を開発し,事業者自らが端末を販売してきた。今後もこのスタイルを継続していく方針か。

 やはり現在のスタイルが正しいのではないかと考えている。なぜなら,今後はネット側に機能を集約して持たせ,端末側では必要に応じて使うという形態が増えていく可能性が高いからだ。例えばセキュリティ。特に企業からは,端末側に情報を持たせない仕様の端末を提供してほしいとする要望が増えている。

 今後はこれまで以上にネットと端末の結び付きが深くなり,ネットと端末のそれぞれで受け持つ役割が分かれてくる。むしろ,明確に分けていかなければ駄目だろう。つまり,今のスタイルを捨ててメーカーが独自に端末を開発すべきとする方向とは,少し違ってきたのではないか。もし欧州のようにネットと端末を切り離してしまうと,ネットと連携したサービスは提供できなくなる。

>>後編 

NTTドコモ社長
中村 維夫(なかむら・まさお)氏
1944年生まれ。69年に東京大学法学部卒業後,日本電信電話公社(現NTT)に入社。95年に労働部長。98年にNTTドコモ取締役経理部長。その後,99年に常務取締役財務部長,2001年に常務取締役MM(モバイルマルチメディア)事業本部長を歴任。2002年に代表取締役副社長兼営業本部長。2004年6月に現職の代表取締役社長に就任した。趣味は登山,釣り。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年3月6日)