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営業の「後工程」のリスクに着目“プール化構想”こそ当社の将来

原社長が日立情報システムズの社長に就任してちょうど1年。増収減益となった2007年7月期決算の場で、新たな対策として「プロジェクトアシュアランスセンタ」の新設や「システム安定化プロジェクト(問題解決SWAT)」の設置などを打ち出した。2010年度に売上高2400億から2700億円を狙う中期経営計画達成に向け、何をどう変えようとしているのか。

昨年11月に、プロジェクトの受注前審査を行う「プロジェクトアシュアランスセンタ」を設置しました。この背景は。

写真●原 巖 氏
撮影:柳生 貴也

 私は営業活動のプロセスを非常に重視しています。お客様と接触してから契約までの間には、実に多くのリスクが潜んでいる。それを洗い出すことで、受注後に火を噴くようなプロジェクトを徹底的に排除するのが目的です。

 当社の営業人員は約600人と強力です。売上高1800億円の規模の会社からすれば、その数は膨大でしょう。しかし当社は新規顧客の獲得、つまり営業そのものを特に重視しているので、このくらいの人員が必要なのです。

 だが従来は、これだけ重視している営業活動の中に、本格的なリスク管理手法を持ち込んでこなかった。ここをしっかり見ていくのがアシュアランスセンタです。

 まず、営業活動を「前工程」と「後工程」に分けました。定義はあまりはっきりしていないのですが、初めにお客様と接してから契約までの間にはいくつかの段階があります。その中で、要件やプロジェクトの規模、大まかな価格の目安、使う技術などが見え始めたころから以降を、営業の後工程としています。契約前の、ふわふわした段階ともいえるでしょう。

 要は、実際に動き出してからでは遅いのです。お客様はその気になっているし、肝心の契約書の中にすべてを盛り込めるわけではない。SIでは、契約を交わしたものの決まっているようで決まってない部分がたくさんあるんです。だからシステムを組み始めてから問題が起こってくる。アシュアランスセンタが見る対象は、まさにこの「後工程」の部分です。

具体的には、センタは何をするのですか。

 リスクをズバリ、金額で示します。見積もりをはじめとする営業関連の資料はすべてデータベース化しており、可視化できるようになっています。センタの人間はその情報を分析して、「やるなら人を××人増やす必要がある」といった判断を下し、それを金額に換算して提示するのです。単に「B」や「C」などの評価をするのとは、迫力も真剣度も全く違います。

 ではどうやって額を決めるのか。当社もさまざまな成功や失敗例がありますので、それを分類して統計値を取ったりセンタの担当者の経験を加えたりすることで、一種の方程式のようなものが出来ています。これはかなり精度が高いと思っています。

 もちろん、リスクがあったってやるときはやる。そのためには我々も相応の準備を覚悟しなければ、あとで大変なことになります。このまま行くと原価が5億円上積みされますよ、人員の手当てと見積もりの修正が必要ですよ、という情報を加えることで内容を正確に把握し、受注後の問題を回避しようということです。実際に11月からの半年間で、センタの情報を基に中止したプロジェクトはありません。

 センタの人員は、現在15人。皆、SE経験を持っており、失敗事例をたくさん知っています。自分が失敗した経験も持っている。もちろん15人ですべてのプロジェクトを見ることは不可能だし、管理しなければならないのは大規模案件なので、5000万円以上の商談を対象にしました。センタが目を付けた案件はアドバイスとして情報を現場に戻すほか、私が出席する経営会議で報告してもらっています。

2回“出動”したSWAT

もう一つの「問題解決SWAT」とは一体。

写真●原 巖 氏
撮影:柳生 貴也

 分かりやすく言えば「火消し」です。何か問題が発生したときに、SWATとして登録されたメンバーの中から十数人を、一斉にそのプロジェクトに投入します。SWATという米国の警察にある特殊部隊のような動きをするので、その名を付けてみました。現在、女性を含めて60人近くいます。

 SWATのメンバーは、完全に私の命令で動きます。普段は全国の拠点でそれぞれ自分の仕事をしているのですが、何かあると私が招集する。上司も分かっているので何も言いません。SWATのメンバーには私が直接「任命書」を渡し、「2カ月で何とかしてきてくれ。頼んだぞ」などと発動命令を出す。そして現場に乗り込むわけです。これまでに2回出動しましたが、やはりプロですからちゃんとやってきますよ。

 重要なのは、期限を設けること。その期間内に必ずやれ、というミッションを与えるわけです。だらだらいるなと。お客様もそういう連中が来ると頼りにしますから、あと半年いてくれ、などとなりかねません。

 SWATを作った理由は二つあります。各地にある当社の拠点には、非常に高度な専門家がいるんです。例えば固定資産税といわれるものは、大変難しい分野です。普通なら100のうち60くらいの知識がある人で十分なところが、自治体によっては100クラスの人でないと対応できない。しかしこういう人が、必ずしもその拠点にいるわけではありません。これは自治体関連だけでなく、流通や製造などの分野でも同じ。高度な専門家は点在しているんです。

 SWATを作ったもう一つの理由は、組織の壁を壊したかったから。逆説めきますが、私は壁がない組織はだめだと思っています。壁があるからこそ、内部には極めて強固なチームワークができる。優れたチームワークには壁が必要なんです。

 しかし、この壁が時には弊害となる。隣で何かあっても、知らん振りとまではいかないが、がんばってねという程度で静観してしまう。壁は重要だが、時にはその壁を壊してでも何とかしなければならない場合があります。それには社長命令をかけるのが一番いい。これがSWATなんです。

「プール化構想」という戦略を進めていますが、これはどういうものですか。

 研究途中の段階なのですが、私は初め「ダムプロジェクト」と言ってました。でもなんだか語感がよくないということでプールに変わったのですが、ダムといった方がイメージが伝わりやすい。「とうとうと流れているものをせき止め、それを処理加工して再び流していく」。私が考えていることはこれです。

 「とうとうと流れているもの」とは「情報」です。お客様の情報。お客様が持っている情報は、メールであれなんであれ、膨張し続けています。お客様は気付いていないかもしれませんが、ここには加工や組み合わせ次第で、そのお客様にとって非常に価値のある何かが生まれる可能性が高い。

 我々の今の仕事は、単純に言えば「こういうことをするにはこういうシステムが必要です。処理にはこういうものが要りますね。システムができると情報がたまりますから、我々が預かってストレージなどに保管しましょう」というもの。これで終わりです。私はこれを逆から見てみたい。

 だからお客様と相談し、メールでもなんでもすべてのデータを当社のデータセンターにためてみる。これを徹底的に分析してみれば、貴重なノウハウや商品化のヒント、時にはお客様の組織の歪みなんてものさえ分かるかもしれません。これは大変なことですよ。

 最終的なサービスに落とし込むと、例えばSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)など知っているサービスになってしまうかもしれませんが、発想が違います。当社の将来は、この構想を具現化することにある。そう考えれば、お客様を開拓して情報収集の窓口となる600人の大営業部隊は、当社の非常に重要な位置を占めていることがお分かりになると思いますよ。

日立情報システムズ代表執行役 執行役社長
原 巖(はら・いわお)氏
1945年生まれ。70年3月に東京大学法学部卒業、4月に日立製作所入社。93年8月に日立アメリカ社出向(副社長)、98年6月に日立製作所人事勤労部副部長。2001年4月の日立ネットビジネス取締役社長を経て03年4月に日立製作所人材部門長。06年1月に執行役常務情報・通信グループ副グループ長兼CSO。4月に日立情報システムズ代表執行役 執行役副社長、6月に代表執行役 執行役社長(現在)。趣味は星空鑑賞。

(聞き手は,宮嵜 清志=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2007年5月9日)