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【後編】ブログを使うことが“2.0”の本質ではない、オープンな考え方こそ重要

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本誌は、Web2.0などの新たな考え方や技術を活用して、社内外がシームレスにつながる企業やシステムを「エンタープライズ2.0」と呼んでいます。

 2.0の動きを取り入れている例で一番いいのは、新生銀行だと思います。新生銀行は、システム開発の仕組みを根本から変えたのです。

 すでに報道されていることですが、新生銀行は自らの取り組みで、基幹系システムを動かしていたメインフレームを撤廃しました。オープンソースをたくさん使っているし、OSにLinuxも採用しています。

 ネットワークは全部IPで、IP電話はもちろん、インターネットを使ったビデオ会議も開いている。全国のATM(現金自動預け払い機)も公衆インターネットで接続しています。

 Web2.0的なものを活用して、IT関連コストを圧倒的に下げたといえるでしょう。

システムは自社で作る時代に

写真●伊藤 穣一氏

 特に注目すべきなのはシステム・インテグレータを使ってないことです。自分たちで開発している。インターネットとエンタープライズ2.0の考え方を分かっているCIO(最高情報責任者)がいれば作れるわけです。

企業のシステム開発は簡単ではありません。

 新生銀行は、半年で済む程度の小さいプロジェクトをたくさん走らせて、「作って進化」を繰り返しているんです。大規模プロジェクトはほとんど存在しない。小規模なプロジェクトを何百も並行して進めています。

 このプロジェクトの進め方は、インターネットが普及したときと同じです。インテグレータや通信事業者ではなく、少人数の集団が自分たちのほしいものを作っているわけです。

企業情報システムの世界でも、思いがあればできるということです。米国の話ではなくて日本でできている。

 社内でブログを使うことをWeb2.0の企業利用と呼んでもいいと思いますし、確かに使うことによる効果もあります。ですが、こういったことは結果に過ぎません。Web2.0の本質は技術ではなくプロセスにあります。

こういったシステムの作り方が広まると、開発を専門に手掛ける企業が必要なくなるのではないですか。

 専門家のインテグレータに依頼しないとシステムを作ることができない会社は、まだたくさんあります。

 ただ変化は確実に起きている。これからは、インテグレータに依頼して1000億円でシステムを構築する企業と、小規模なシステムをどんどん自分たちで開発し進化を繰り返す企業が、同じ土俵で戦うことになります。

 両者のコスト構造や変化に対応するスピードは全然違う。その昔にあった恐竜とほ乳類の戦いではないですが、個人的には最終的にはほ乳類が生き残るのではないかという気がします。

バブル2.0が起こりつつある

最近は、Web2.0という言葉が使われすぎではないですか。

 “バブル2.0”が起きようとしているんじゃないですか。Web2.0の流れを作ってきた会社もどんどん大きくなっています。

 一つ確かなのはネット広告の市場が大きく伸びていることです。単価も高くなっている。どう見てもそんな価値はないだろうというものも高くなっているわけです。トラフィックさえあれば広告が付いている感じすら受ける。

 投資家としての意見を言わせてもらうと、ネット企業に対する投資の水準はすでにバブルに近い。Web2.0はもう後半に入っていると思います。

2.0を代表するグーグルへの見方も変わってきたようです。

 日本ではそうでもないですが、特に米国では批判が高まっています。

 オープンであろうと努力していますが、グーグルも株式を上場した企業であることに変わりはありません。上場企業である限り、最終的には利益を上げる必要があります。

 それからグーグルは、オープンソースのコミュニティで活躍していた優秀な技術者を大量に採用して抱え込んでいる。こういったことも批判につながっています。

 検索エンジンがグーグルだけになることに対して不安を感じている人も多い。だから、ネット上にあるフリーの百科事典である「Wikipedia」の創設者が新たな検索エンジンを作ると発表すると、興味を持つ人が出てくる。

 グーグルは頭の良い企業なので、技術者を中心にした組織作りを進めるなど、大企業化を防ぐ手は打っています。それでも少し大企業になっているということかもしれないですね。

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デジタルガレージ 取締役
伊藤 穣一(いとう・じょういち)氏
1966年6月、京都市生まれ。1980年代前半からインターネットにかかわり、タフツ大学でコンピュータ・サイエンス、シカゴ大学で物理学を学ぶ。95年にデジタルガレージを共同で設立、その後インフォシークを設立するなどインターネット関連の会社を設立した。2006年9月、デジタルガレージ取締役に復帰。非営利団体クリエイティブ・コモンズ会長も務める

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年3月19日)