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【後編】SaaSはスタートしたばかり新しいサービスはまだまだあるはず

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SaaSの事業者はデータを安全に保管するという役割も担っているのか。

 その通り。例えばある企業は株式上場の際に我々のサービスを採用してくれたが,その理由は“顧客データをしっかり管理してもらいたい”ことと,“プライバシー・マークを取得したい”という理由だった。

 中堅・中小企業は,セキュリティ管理をしっかりとやらなければならないが,一方でそのために高いお金を払うわけにもいかない。そのような場合,セールスフォースのサービスを利用すれば,投資をおさえてしっかりとしたセキュリティ管理をしてもらえると判断して,採用する企業もある。

 SaaSを提供する事業者は,今後さらに増えていくだろう。だけど,SaaSが何なのかも分からないまま事業を始めると,情報を漏えいするなどの事故が起こってしまいかねない。もしそうなると,我々を含めてSaaS事業者全体にとって大きなマイナスになる。そうならないためにも,事業者の品質を見極めるための監査基準が必要ではないかと感じている。

例えば,バックエンドでセールスフォースが動いているが,フロントエンドのUI(ユーザー・インタフェース)は別の企業が提供するといった形のサービス連係もあり得るのか。

 ある企業では,それに近い利用方法をしている。フロントエンドを独自開発したので画面にはセールスフォースの「セ」の字も出てこないが,バックエンドはセールスフォースを使っている。

 他のサービス事業者が,オリジナルの画面を作ってセールスフォースをOEM販売することも歓迎する。それがコンシューマに売れるようになるといいな,とさえ思っている。

 当社はCRM(顧客関係管理)とSFA(営業支援システム)を重要なサービスとして提供するが,最近はアプリケーション・ベンダーというよりオンデマンド・サービスのプラットフォーム・ベンダーになろうとしている。

通信事業者が今後,NGNのように信頼性の高いネットワークを構築すれば,セールスフォースのビジネスにも何か影響はあるのか。

写真●宇陀 栄次氏
撮影:柳生 貴也

 一つはビジネスのボリュームだろう。我々のビジネスは市場全体から見ると,本当にスタートしたばかりだ。100段の階段のうち,まだ2段目か3段目程度。だからこれから先に,ブレイク・スルーがある。

 IT産業の中でSaaSのようにシステムを「借りる」という発想のサービスが登場したものの,自前のシステム開発がなくなることはない。システムを自前で抱えるのと借りるという選択肢が用意されている中で,どちらが価格性能比で優れているかなどで競争になっていくのではないかと思う。

 ネットワークの世界の人たちはひと昔前までは独占だった。ある意味ではクオリティとユニバーサル・サービスとしての公平性といったところに比重を置いてきたと思う。

 しかし,今後はもっと付加価値をつけたサービスを提供しようと考えるのではないだろうか。ブロードバンド・サービスのクオリティがさらに上がっていけば,これまでにない新しいサービスがその上で提供されるようになるだろう。

 通信事業者に提供してもらいたい付加価値の高い機能としては,認証サービスと課金サービスがある。今は各自が自前で作らなければならない。

SaaSで提供されるサービスの領域がどんどん拡大している。SaaSの今後をどう見ているか。

 ヤフーもグーグルも,最初は検索エンジンからスタートしたのが,いつの間にかアドワーズのような広告事業を始めたり,あるいはオークションなどのEC サービスを提供したりと事業領域をどんどん拡大してきた。ヤフーもグーグルも,最初から今の状況を予見していたのではなく,いろいろなサービスを手がけていく中で,どんどん広げていったのではないだろうか。きっとうまくいかなかった事業もあるだろう。そうやって模索しながら拡大してきたのだと思う。

 ネットワークにしてもITにしても,発展途上の産業だ。ゴールは見えていない。実際のところ,中小企業からITに関しては「うんざりだ」「こりごりだ」という声は聞こえてきても,「本当に満足していて十分です」という声は聞こえてこない。だから,改善の余地も,新しいサービスもまだまだたくさんあるはずだ。

セールスフォース・ドットコム
社長兼米国本社上級副社長

宇陀 栄次(うだ・えいじ)氏
1956年生まれ。東京都出身。81年慶応義塾大学法学部卒業。同年に日本IBMへ入社。2000年までの在任中に大手企業担当の営業部門を経て,社長補佐,製品事業部長,理事情報サービス産業事業部長などを歴任し,情報サービス産業各社との提携や協業の事業責任を担当。日本IBM退職後にIT企業の社長を務めた後,2004年3月に米セールスフォース・ドットコムの上級副社長に就任。同年4月から日本法人の代表取締役社長。最近印象に残った本はトーマス・フリードマンの「フラット化する世界(The World Is Flat)」。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年4月3日)

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