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 富士通は,電気信号と光信号を相互変換して10Gビット/秒の光通信を可能にするモジュール「フルバンド波長可変トランスポンダ」を開発し,2007年度の文部科学大臣表彰の科学技術賞(開発部門)を受賞した。フルバンド波長可変トランスポンダは最大88波長の可変が可能で,同社は世界で初めて量産化に成功している。同モジュールの開発に携わった光モジュール事業本部の国兼達郎事業企画部長と鈴木和裕第一商品部プロジェクト課長に話を聞いた。

(聞き手は中井 奨=日経コミュニケーション



フルバンド波長可変トランスポンダとは,そもそもどのようなモジュールか。


富士通光モジュール事業本部の国兼達郎・事業企画部長(右)と鈴木和裕・第一商品部プロジェクト課長(左)
 表彰の対象となったフルバンド波長可変トランスポンダは,「300pin MSA(Multi Source Agreement) Full band Tunable トランスポンダ」と呼ぶモジュールだ(写真1)。300pinとは,電気のコネクタが300あるということ。これをボードに接続して電気接続を行う。MSAとはメーカーが協議した「業界標準」を意味する。

 フルバンド(Full band)とは,1本の光ファイバに何10種類もの波長を一度に通す技術の波長分割多重(WDM:wave length multiplexing)で,1本の光ファイバが送信可能な最大の波長数を指す。現在は最大で88波長を送信することが可能だ。

 つまり,フルバンド波長可変トランスポンダとは,業界標準となっている300pinの電気コネクタを搭載し,光ファイバと信号処理部の間で88種類の波長を光信号から電気信号,または電気信号から光信号に変換する機能を一体化したモジュールである。

従来の技術との違いは何か。


写真1●88波長に対応している富士通のフルバンド波長可変トランスポンダ
[画像のクリックで拡大表示]
 88の波長はすべて異なるタイプのものだ。これまでは特定の1波長に対応するトランスポンダをWDMシステムに必要な波長の数だけ準備して使用しなければならなかった。したがって,88波長すべてに対応するためには,88個のトランスポンダを用意する必要があった。さらに波長を切り替える際にはトランスポンダを交換しなければならず,オペレーション・コストが膨らんでいた。

 この問題を解決するのが,フルバンド波長可変トランスポンダだ。1個のトランスポンダだけで,88の波長をどれでも光らせることができる。2007年度の科学技術賞の表彰を受けた理由も,これを他社に先駆けて製品化できた点を評価されたからだ。

フルバンド波長可変トランスポンダによる具体的なメリットは。

 波長がいくつあっても,1個のトランスポンダさえあれば済むことは非常に大きなメリットとなる。通信事業者が光通信サービスを提供する際も一つの装置だけで済むので,コスト削減につながる。ネットワークの状況を見ながら,必要な波長を自由自在に選べるという点もメリットだ。使用されていない波長を使って送信可能な容量を増やすことができ,光ファイバの能力を最大限に有効活用できる。

 また,波長ごとにトランスポンダを製造しなくても済むので,不良在庫を抱える必要がなくなる点は,システム・ベンダーにとっては大きなメリットだろう。