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【前編】Suicaは既に社会インフラ,鉄道のノウハウが信頼性を支える

「鉄道の運行管理ノウハウが、Suicaシステムに生きている」。東日本旅客鉄道でSuica事業を率いる小縣方樹氏は、こう明かす。1日1500万件に達するトランザクションを処理するため、システムには鉄道と同じアーキテクチャを採用。「もはやSuicaは社会インフラ。利用者増もビジネスの拡大も、信頼性とセキュリティがあってこそ」と力説する。

「Suica」の利用範囲がどんどん広がっていますね。

写真●小縣 方樹氏

 今年3月には私鉄や地下鉄のIC乗車券「PASMO」との相互接続を開始しましたが、他地域のJRとの相互接続も拡大しています。JR西日本の「ICOCA」とは2003年から相互利用が可能ですが、2008年3月からは、日本の主要都市をほぼカバーできます。

 電子マネーとして利用可能な店舗数は、4月末時点で約1万3200店になりました。店舗の中心は駅の売店や駅ビルのショッピング施設といった、いわゆる「駅ナカ」なんですが、「街ナカ」と言われる一般の店舗にも急速に広がっています。ファミリーマートは首都圏全般に広げる計画ですので約2600店に広げていただくことになっています。イオンは現在97店舗まで対応していただいています。これは、Suicaの利便性、信頼性を評価していただいた結果だと思っています。

 今まで鉄道事業者として付き合いのなかった企業とのパートナーシップは、当社の大きな財産でありますし、将来に向けた発展性も非常に高まりました。Suicaがそれを可能にした。パートナー企業にソリューションを提供することで、Suicaも伸びるのです。

 日本で鉄道が開通したのは1872年。それ以来135年がたちますが、ここへきて当社の収益構造は大きく変わり始めました。現在、駅のショッピングセンターやホテル、駅ビル運営などを中心にした鉄道以外の事業が、当社の売り上げの3割を占めるようになっています。

ITがもたらす事業構造の変化をもう少し具体的に聞かせてください。

 当社の事業構造の変化を、より推し進める存在なのです。当社にとってSuicaは、鉄道事業、生活サービス事業に次ぐ、第3の事業です。しかもSuicaは、他の事業に対するシナジー効果が非常に高い。鉄道事業ではICカード乗車券として、生活サービス事業では電子マネーとして、両方に貢献できるからです。

最新IT技術を絶えず取り込む

 ビジネスの拡大に合わせてSuicaシステムを強化するため、テクノロジの動向は絶えず追い続けていないといけません。最近の技術動向でいえば、やはり携帯電話の活用です。当社のモバイルSuicaでは、来年3月から全く駅に立ち寄らず、新幹線の指定券を買っていただけるようになります。究極的には駅から券売機を廃止することまで、検討の対象に入っています。

 運行管理システムをはじめとした社内システムの開発や運用でも、ITの活用に関して積極的であると自負しています。例えば、東京100km圏内での路線を管理する「ATOS」や、新幹線の運行管理システム「COSMOS」は、すべてグラフィック・ディスプレイ上で、マウスを使って列車の折り返し運行や運休などを設定できます。ほかにも社内にはテクノロジの良い見本がたくさんあります。

鉄道の運行管理システムを開発・運用するノウハウは、具体的にSuicaのシステムにどう生きているのですか。

 システム全体を自律分散型のアーキテクチャで構成している点ですね。これはシステム全体の信頼性を高めるためのもので、運行管理システムと同様のアーキテクチャです。

 当社は1日に約1万3000本の列車を運行します。お客様の数は1600万人。これは世界一です。外国の方に英語で「シックスティーン・ミリオン」と説明すると、1桁間違っているのではないかと言われることもありますが、間違いじゃありません(笑)。このシステムのアーキテクチャを基に、Suicaシステムを設計しました。

 各駅に設置した自動改札機や自動精算機、SuicaのIDを管理する「ID管理駅サーバ」といった機器は、すべて自律的に動作します。各機器が取得したトランザクション・データを一定期間保持し、処理を完結できるようにしています。こうすることで、仮に中央のサーバーとのネットワークが途切れても、一定時間は動作し続けることができます。その後、ネットワークが復旧すれば、それぞれの機器は保持していたデータを中央のサーバーに送信して、再びシステムとして動くというわけです。

 各機器は、ネットワークが途切れても少なくとも72時間は自律的に動き続けるよう設計しています。これは大地震を想定しています。地震でインフラが復旧するまでの時間は、72時間とされていますので。鉄道と同じく、Suicaもまた社会インフラと考えていますので、信頼性は欠かせません。

 自律分散のアーキテクチャは、セキュリティの確保にも役立っています。お客様がSuica定期券を紛失したり盗難にあったりした場合、窓口などで申し出ていただければ、定期券の発券情報やチャージされている金額の残高といった情報を、すべての自動改札や券売機に配信します。これら端末のレベルでSuica定期券の不正使用をチェックして、利用不可にできるのです。

>>後編 

東日本旅客鉄道 常務取締役 IT事業本部長 鉄道事業本部 副本部長
小縣 方樹(おがた・まさき)氏
1974年、日本国有鉄道(当時)に入社。87年4月、国鉄が分割民営化されたのに伴い、東日本旅客鉄道に入社。以後、鉄道事業本部営業部サービス課長、人事勤労課長、鉄道事業本部安全対策部長などを歴任し、2002年6月、取締役 鉄道事業本部運輸車両部長に就任。04年6月、常務取締役 鉄道事業本部副本部長。06年6月より現職。1952年2月生まれの55歳

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年5月22日)