
オープンソースのIP-PBXソフトウエア,Asterisk(アスタリスク)。日本でもこれを利用した製品やサービスが登場し,導入企業も現れて存在感が高まってきている。なぜAsteriskは注目されるようになったのか。そしてこのソフトと開発会社である米ディジウムは今後どこへ向かうのか。Asteriskの“生みの親”であるディジウムのスペンサーCTOに聞いた。
開発者の立場から見て,この1年ぐらいでAsteriskに起こった重要な変化としてはどのようなものがあるか。
機能が豊富になり,以前より簡単に使い始められるものになったといえるだろう。以前は技術に詳しい人にしか分からないものだったかもしれない。だが今は,普通の人が使える技術に変わってきている。また,家庭やSMB(small and medium business)に向いた技術となる一方で,より規模の大きな企業や英国のBTなどの通信事業者が本格的な用途に役立てられるような技術拡張も施されている。
その中でディジウムは,ある特定の分野にフォーカスした方がよいと考えており,小規模企業から中堅企業にかけてのマーケットに注力している。通信事業者のマーケットにも参入しているが,それは機会があればやっていきたいというスタンスによるものだ。
例えばBTは,自身でAsteriskをダウンロードして,自分たちが抱えていたネットワークの問題を解決しようとしていた。しかし少しのヘルプが必要となり,我々のところにコンタクトしてきた。その時点でBTは,Asteriskのことをよく知っていた。これはAsteriskがオープンソースで,自由にダウンロードして親しんでもらえることによるものだろう。
オープンソースのAsteriskは,他の電話システムと何が違うと思うか。
Asteriskは,ほかの通信分野の製品とは全く違う。そもそも物理的に触って使えるような製品ではない。「たいまつの火」のようなものと考えればいいのではないか。
たいまつの火は誰もが自由に使える。私が持っている火をあなたに渡せば,あなたもこの火を使えて,いろいろな作業をこなせる。知識を手渡していく形になっている。
Asteriskはディジウムが占有しているのではなく,世界中の人たちのものであり,多様な問題を解決していく力を持ちうるものだ。
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撮影:北山 宏一 |
ディジウムはどのような手段で収入を得ているのか。
我々はソフトウエアを提供することで収入を得ているわけではない。サービスやハードウエアの販売,あるいは問題解決のためのソリューションを提供している。そしてAsteriskはソリューション全体の一部だ。
ダウンロードしてすぐ使えるソフトウエアはなく,そこにはサポートが必要になる。ディジウムはサポートを提供し,ソフトウエアを容易に使い始められるようにしたり,信頼性を高めたりしている。もちろんこれは,ディジウムだけで実現できることではない。オープンソースの力で実現している。
ディジウムは自らAsteriskを作っているからこそ,よりよいサポートを提供できる。とはいえ,顧客にはさまざまなチョイスがある。多くのソリューションが出回っており,その中からAsteriskや我々を選んでもらえるように努力している。
ディジウムはAsteriskの有料版(Business Edition)を販売しているが,例えば有料版向けのベータ版を無償版に先行して出荷するような戦略は採らないのか。
オープンソース版と有料版は,いずれも同じ機能を備えている。有料版のコードはオープンソース版で使っているものを基にしており,これにサード・パーティーが開発した音声認識機能などが加えられている。また有料版は多くのサービスやサポート,保証が付いていて,テストもされている。基本的なコードは一緒だが,若干違うところもある。
オープンソース版の開発に当たっては,「ポイントリリース」という形を採用している。リリースされた段階でフィックスされ,それ以降のアップデートはバグフィックスだけになる。一方の有料版に関しては,重要な機能を追加リリースすることがある。オープンソース版でいったんテストを実施し,うまくいったら有料版に追加して新しくリリースするというものだ。
開発プロセスは完全にオープンだ。メーリング・リストに登録してもらえば,その日起こった変更がメールで届く。Asteriskのコア部分にどんな変更があったのかを誰もが確認できる。
>>後編
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(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年5月7日)