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自治体の中でも、政令指定都市の基幹系システムには汎用機が多く残っている。これをオープン化していこうという動きが各市で活発になってきた。2003年に最適化計画を策定したさいたま市は、政令市の中でもオープン化の先陣を切っている市の一つだ。さいたま市情報統括監(CIO)の西泉 彰雄氏に、基幹系システム再構築の状況を聞いた。(聞き手は黒田 隆明=日経BPガバメントテクノロジー編集長)

さいたま市の西泉CIO
さいたま市の西泉CIO

現在の基幹系システム再構築の進ちょく状況は?

西泉 2003年11月に、市長を議長とする「政策調整会議」で最適化方針を決定した。さいたま市の最適化計画は二つのステップに分けて進めている。まず、第1ステップでは「システム統合基盤の導入」「汎用機で動いている基幹系システムのオープン化」を2010年度までに完了させる。ここでコスト削減を実現し、浮いた経費で第2ステップとして市民サービス向上に向けた電子市役所の構築を進めていく。

 現在はシステム統合基盤を開発しているところだ。開発事業者は総合評価一般競争入札により、2006年8月に富士通に決まった。2009年度には現在汎用機で動いている住記、税のシステムの再構築を終え、国保関連のシステムについては、2008年から2010年にかけてオープン化する計画だ。

 税システムの事業者は2007年6月13日に総合評価一般競争入札で富士通に決まった。住民記録システムについては、秋に調達をかける。

どの程度のコスト削減を見込んでいるのか?

西泉 基幹系システムの年間運用コストは2006年度予算ベースで35億円程度。汎用機を撤廃する2011年度からは、年間10数億円の運用コスト削減を実現したいと考えている。さいたま市は、税、人事・給与などは旧・浦和市のシステム、住民記録、国民健康保険などは旧・大宮市のシステムを使っている。事業者は異なっているし(旧・浦和が日立製作所、旧・大宮が富士通)、汎用機の設置場所も別々なので職員もそれぞれ分散しているなど、無駄が多いのが現状だ。まず、この無駄を解消することが2001年5月の合併以来の懸案となっている。

 本来ならば、統合基盤を入れているのでスクラッチでシステムを開発して総合窓口の導入なども実現したかったが、今回はコスト削減を優先し、業務アプリケーションは原則としてウェブシステムのパッケージを導入する方針だ。

「政令市向けのパッケージ」は、ほとんどないのでは?

西泉 確かに政令市向けのパッケージというのは見当たらない。このため政令市対応のためのカスタマイズは入るが、他の部分でコストを抑えることができると考えている。

最適化ガイドラインも策定したが、どのような効果を見込んでいるか。

西泉 消防、病院、水道など情報システム部門が関与していないシステムにもガバナンスを利かせて全体最適を進めていこうということで、昨年度に「情報システム最適化ガイドライン」の第一版を策定した。契約、企画の部分はかなり全庁に浸透してきたが、開発・構築の部分はまだまだなので、まずは今年度に情報部門から活用を進めて全庁普及を目標としている。同時に「情報システム技術標準」も作った。さいたま市の標準として、統合基盤の標準やネットワークの基準などを定めたもので、調達のときに使っていこうと考えている。

政策局に局長級の総合政策監が兼務する形で情報統括監(CIO)を置き、政策局政策企画部情報政策課とは別に「CIOチーム」を置いたが、その狙いは?

西泉 2006年に、CIOを中心に全体最適を推進する「CIOチーム」を作った。現在、CIO、CIO補佐監2人(民間1人、内部職員1人)のほか、CIO補佐監をサポートして最適化を推進するIT統括課5人という陣容の「CIOチーム」を政策局に置いている。組織の位置づけを変えることで、各部局とは「局対局」の関係でITガバナンスが利くような形とした。

 CIOチームの設置に当たっては、市長の理解や助役(現・副市長)の支援があった。「こういうことやる」というトップからのアナウンスが全庁的に行き渡っていたことが、現在うまく回っている理由の一つではないか。また、新しい市ということもあり、「各主管課が強い」という組織風土が幸いなことにそれほど育っておらず、制度を作ると大きな抵抗もなく従ってくれるという面もある。各主管課が強い自治体の場合だと難しい面もあるのではないか。

図●さいたま市の情報化推進体制
さいたま市の情報化推進体制

民間から採用したCIO補佐監の役割は?

 非常勤特別職として週1日の勤務のほか、調達の評価委員など必要な時に随時来庁してもらっている。各業務主管課は、財政部門に予算案を提出する前にCIOに詳細な見積書、企画書をCIOに出すようになっている。これを主にCIO補佐監がチェックする。この予算の精査を財政部門も「専門家の見た説明のできるもの」として尊重してくれている。昨年度は、当初予算の要求ベースで約4億円以上削減できた。精査については、CIO補佐監が各業務主管課の業務の中身についてもヒアリングしたうえで判断しているので、従来のような「一律○%カット」というやり方よりも各課からは喜ばれていると思う。

 各課が提出する統一フォーマットを使っての詳細な見積書提出については、最初は各課ばかりでなく事業者も渋っていたが、「そのフォーマットでないと認めない」という姿勢を崩さなかった。今はすべての事業者がフォーマット通りの見積書を提出している。

 IT予算の精査だけでなく、CIO補佐監をチーフとするコンサルタントのチームがガイドラインの改定作業やシステムの全庁調査を行っている。コンサルタントのチームは、チームのリーダーにCIO補佐監になってもらいCIO支援業務を行うという要件で調達を行い、デュオシステムズにお願いしている。

 さいたま市では各部局が個別に管理しているものも含めて約200のシステムが動いているが、この全庁調査を基に統合基盤を中心に全体でどう歩調を合わせていくかを、CIOを中心に検討していく。

PMOも民間から調達しているが、CIO補佐監との役割分担はどうなっているのか。

西泉 PMO(基幹系システムオープン化事業推進支援業務)は、総合評価一般競争入札で選定した。今年度は6月からベリングポイントに入ってもらっている。情報政策課オープン化推進室と一緒に、基幹系システム再構築のプロジェクト管理を行う。

 CIO補佐監、PMOなど民間の専門家の力を借りなくては、“丸投げ”状態からの脱却はなかなか難しい。そのための経費は必要経費だと考えている。

編集部注:本文中に出てきた主なシステム、業務の契約概要は以下の通り。 システム統合基盤構築(落札価格8389万9368円・税抜)、税システム再構築(5億円・税抜)、CIO支援業務(履行期間:2007年4月1日から2008年3月31日まで、契約金額1785万円・税込)、基幹系システムオープン化事業推進支援業務(履行期間:2007年6月29日から2008年3月31日まで、3975万円・税抜)。