ロイ・シュルテ氏は米ガートナーにおいて、SOA(サービス指向アーキテクチャ)の第1人者。1996年に同じく米ガートナーのアナリスト、イェフィム・ナティス氏(関連記事)と共同でSOAという概念を発表した、SOAの“名付けの親”である。そのシュルテ氏は「今、システムを構築するならば、SOAを選択しない理由はない」と主張し、5年前に比べ、SOAの実現方法も、採用するメリットも明確になってきたと語る。今回のインタビューでは、EDA(イベント駆動型アーキテクチャ)やCEP(複合イベント処理)といった、SOAを基にした応用例の実行可能性を含め、今後の企業システムのあり方を聞いた。(聞き手は矢口 竜太郎=日経コンピュータ)
今から数年後、企業がSOAに基づいてシステムを統合しようとすると、4パターンに分類できる、と予想しているが、まずはその違いをお聞きしたい。そしてガートナーが勧めるのはどのパターンか教えて欲しい。
統合のバックプレーンとなるESB(エンタープライズ・サービス・バス)の導入の仕方で分けることができる。第1はただ1つのESBを使って統合するパターン。社内の事業部、データセンター、取引パートナーを含めて完全に共通のESBを使う。第2には複数のESBを使うものの、単一ベンダー製品もしくは全く同じ技術を使うパターンだ。第3は異ベンダー製のESBを複数導入しているが、その間で連携を取り、調整できているパターン。最後は第3のパターンにおいて、異ベンダー製のESB間の連携がとれていない場合だ。
第1のパターンは理想的だが実現不可能と考えている。第2のパターンは非常にまれなケースで、全体からすれば2%程度になると思う。第3、第4は共に49%ずつといったところだ。ガートナーとしては第3のパターンを勧めたい。なぜなら単一のベンダーや技術で企業の全システムを構築することは不可能に近いからだ。特に大企業になるほど難しい。そのため、適材適所で異なるベンダーの技術を使いながらも、全体の整合性をとれるようにするのが、現実的に目指すべき姿だ。
そのためには、企業内の複数部門間の利害を調整できるようなCIO(最高情報責任者)の存在が必要だ。しかし、日本においてはそれほど権力を持つCIOはあまり多くない。強力なリーダーシップを持ったCIOがいなければSOAは実現できないのではないか。
必ずしも、CIO一人の権力が必要ということではない。しかし、企業の中でシステム全体を設計するチームが必要だ。ガートナーでは、COE(センター・オブ・エクセレンス)と呼ぶ組織を作ることを勧めている。COEには、ITの専門家だけでなく、各事業部の代表、場合によっては経営者などビジネス側の人を含む。そのメンバーが、企業におけるシステム全体像や扱うデータの標準化などを進める。COEはSOAの実現を進める上での全権限を持つ。
それだけの組織を作るためには、コストがかかる。SOAを実現することによるメリットがよほど明確でなければ、なかなか動き出せない。
その考えは理解できない。少なくとも今、新しいシステムを検討するならば、SOAを考慮にしない理由が見つからない。逆に、SOAを目指さないことのメリットは何なのかを聞きたいくらいだ。
それに、5年前と違い、SOAのメリットは明確に目に見える。SOAを基盤とすることで、ビジネスの状態を監視するBAM(ビジネス・アクティビティ・モニタリング)を実施することや、ビジネス上のイベント発生に合わせて自動的に処理を進めるEDA(イベント駆動型アーキテクチャ)、EDAの中でも、複数イベントの組み合せから処理を決定するCEP(複合イベント処理)といったことを実現できる。これまで言われてきた、システムの柔軟性を高めるというSOAのメリット以上に分かりやすいのではないか。
EDAやCEPの例としては、刻々と変わる株価を監視しながら、ある条件が整ったときに自動的に株を売買する、「アルゴリズム・トレーディング」が有名だ。しかし、そのように瞬時に判断を求められる状況は多くないのではないか。
確かに、瞬時に判断を求められる状況にCEPは有効だ。しかし、比較的ゆっくりな判断でよい場面でもEDAやCEPによる自動化は役に立つ。例えば、フロリダにあるディズニーワールドでは、アトラクションに並ぶ顧客の行列の長さをトリガーとして、ある一定以上の長さになった場合には、EDAに基づくシステムの判断により、従業員の配置を変えている。EDAやCEPは、業種・業態に係わらず有効である。