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 NTTデータは4月にオープンソースのIP-PBXソフト「Asterisk」を組み込んだひかり電話専用小型IP-PBX「astima」の販売を開始した(関連記事)。astimaは,NTTデータのCTI/CRM向け製品のブランドである「VOISTAGE」にかかわる部署が販売する。元々VOISTAGEブランドの製品はIVR(音声自動応答機能)やFAXに関するソリューションを得意としてきた。

 astimaはこれらの機能を組み込み,他のAsterisk製品とは一線を画している。astimaの開発を主導したNTTデータ 第一公共システム事業本部 e-コミュニティ推進事業部 第一営業担当 部長の中渡瀬 仁氏に開発経緯や現在の状況などを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=日経コミュニケーション



astimaの開発経緯を教えて欲しい。

 「VOISTAGE」というブランド名で10年間にわたって,ISDNやアナログ電話に特化したIVRやFAX関連製品を開発・販売してきた。現在はIP電話が普及し始めており,いずれはISDNやアナログ電話向けの製品は売れなくなる。NTTグループのNTT東日本・西日本ではIP電話である「ひかり電話」の普及を推進しており,IP化は進めなければならないと思っていた。具体的にはIP-PBXをベースにした製品を考えた。

写真●NTTデータ 第一公共システム事業本部の中渡瀬 仁部長
写真●NTTデータ 第一公共システム事業本部の中渡瀬 仁部長
 その過程で出会ったのがAsteriskだ。若手社員がオープンソースのIP-PBXがあることを教えてくれた。2006年2月ころのことだ。Asteriskについて調べていくと,かなり使えそうな感触を持った。そこで急きょ製品化のためのプロジェクトを立ち上げた。

 VOISTAGEブランドでも約4年前にPBX機能を備えたボード製品を開発しており,IP-PBXを自社開発しようと思えばできないことはなかった。だが,元々自社開発したPBXはかなり限定した使い方を想定したもので,中小向けコールセンターや一般企業のPBXとしては使いづらかった。そんなときにAsteriskのことを知った。

 Asteriskの完成度は予想以上に高く,自社開発では時間がかかりそうな機能をいとも簡単に実現してしまっている。Asteriskを組み込んだIP-PBX「astima」が完成したのは2007年2月ころで,4月25日から販売を開始した。

Asteriskの機能だけでastimaは製品化できたのか。

 Asteriskだけで我々の要求仕様が満たせたわけではない。Asteriskは標準でIVR(音声自動応答)機能を持っているが,難しいコマンドをたたいたり,シナリオを書くのが大変だったりと使いづらかった。簡単なIVR機能は実現できるものの,我々が要求する複雑なIVRの実現も容易ではなかった。また,FAXサーバーの機能はそもそもAsteriskにはない。音声認識機能も別途必要だ。こうした点に目を付けて,Asteriskに我々のIVR,我々の技術を組み合わせれば強い商品になるのではと考えた。

 元々我々の顧客は,単なるPBX機能だけを求める顧客ではない。IVRやCTI,FAXといったどちらかといえばシステム寄りの用途を望む顧客が多かった。この顧客基盤を生かし,普通のPBXの土俵ではなく我々の土俵で戦うための製品として,astimaの開発は進んだ。astimaは,オープンソースで様々なソフトウエアと連携できるAsteriskの良さを生かして,FAXやIVRを使いやすくする特化型アプライアンスだ。

 astimaと専用のFAXサーバーと比較すれば,機能的は若干劣るところはあるかもしれない。だが従業員が200人くらいの企業であれば,astima1台で専用FAXサーバーを代替できると思っている。

 無論,既存のPBXの置き換え用途にもastimaは使えるだろう。だが,astimaはひかり電話専用なので,従来使っていた内線電話機をそのまま使えるわけではない。IP-PBXとしては,新規にオフィスを開設する企業などに向くだろう。

販売開始後のユーザーの反応は。

 まだファースト・ユーザーが登場したばかりで,実際の反応を得るのはこれからだ。とはいえ正式導入前に試したいというユーザーは多い。現在(インタビューは7月),30社以上に貸し出している。貸し出し先企業へのアンケートを見る限り,使いづらいという指摘は今のところほとんど受けていない。

 設定のしやすさは,astimaを開発するに当たってこだわった部分だ。ネットワークの知識が多少必要ではあるが,設定ができないという指摘は貸し出し先の企業からはなかった。一般のブロードバンド・ルーターの設定ができて,どのような内線電話環境を作りたいか,ということが分かっていれば設定には困らないだろう。

 また一般のユーザーだけでなく,これまでVOISTAGEの開発・販売で関係を築いてきたVAR(付加価値再販業者)が興味を示している。これまでVARはVOISTAGEのIVR関連製品などと自社の業務ソフトを組み合わせて,システム製品を販売していた。astimaでも同じような展開が期待できる。

 VOISTAGEのVARの一社であるフレックスソフトは,コミュニケーション管理システム「結」(ゆい)という製品を開発・販売している。電話やFAX,メールを管理して,履歴を一覧で見ることができたり,通話録音機能と組み合わせて履歴のリンクからメッセージを聞いたりできる。現在,このシステムではNECインフロンティアのIP-PBXである「Aspire」シリーズを使って電話やFAXと連携しているが,通話録音を実現するだけで巨大な装置が必要になる。FAXサーバーも別途立ち上げる必要がある。この結果,PBXや通話録音装置だけで400万~500万円の追加投資になってしまうという。

 だがastimaを組み合わせれば,同じようなソリューションが100万円以下の追加投資でできてしまう。現在,フレックスソフトにastimaの情報を開示して,「結」との連携などをテストしている。astima自体には何も手を加えていない。

他にVARとの協業の例は。

 歯科医師などのクリニック向けシステム「DentalQube」(デンタルキューブ)を開発・販売する大阪の情報通信コンサルティングがastimaを購入してDentalQubeとの連携を試している。DentalQubeは電話予約をした患者に対して,近所の会社の人だったら10分前に電話して「そろそろ来て下さい」といったメッセージを自動で発信する機能を備えている。また,患者がキャンセルした場合は次の予約を促す電話を自動発信することもできる。

 こうした電話予約の場合,キャンセル率が3割近いという。キャンセル率を下げるために電話と組み合わせたシステムが使われている。同社がastimaをどのように活用するかは詳しくは分からないが,これまでクリニック規模だと外線は2チャネル程度で十分だった。一方,astimaなら最大16チャネルまで使え,ひかり電話のビジネスタイプなどが活用できるので,これまでよりも大規模な用途を含めて考えているのかもしれない。

 astimaの音声認識機能を評価している最中の例として,シネコン(シネマ・コンプレックス)での利用が挙げられる。シネコンは複数の映画を上映しているため,上映時間の問い合わせ対応はかなり面倒だ。上映している映画の本数が多いため,上映時間を録音した音声を垂れ流したり,IVRのボタン操作で上映時間を知らせる方式では,顧客が該当するメッセージを聞くまでに時間がかかってしまう。この問題が音声認識を使うと一発で解決する。電話をかけた人が例えば「ポケモン」と言うと,該当する映画の上映時間のメッセージを一発で流す仕組みが作れる。

 現在,100館ほどがVOISTAGEのボード製品を使って上映時間案内システムを実現している。だが,ボード製品なのでパソコン・ベースのサーバー機に組み込む必要があり,設置場所などに困る。小型のastimaを使えばスペースの問題は解決する。

 無論,astimaは小さな機械なので,処理速度を上げるために音声認識できる単語数を絞っている。その数は1000単語。だが実際の利用ではこれで十分だ。音声ファイルと辞書はネットワーク経由で入れ替えられるので,シネコンの場合は映画のタイトルや監督の名前などを後から追加して対応できる。astimaに登録できる単語数は多くはないが,VOISTAGEがこれまで培ってきた音声認識技術を採用しており,認識率は全く問題ない。

Asteriskのコミュニティとのかかわりは。

 元々astimaの開発には,NTTデータの子会社でオープンソースに明るいNTTデータ先端技術が関係しており,その際,日本にいち早くAsteriskを紹介したチャットボイスに協力してもらった。当初から日本のAsteriskコミュニティと相談しながら開発を進めた。

 astimaとAsteriskに関する無料セミナーなども開催し(同社主催のイベントのWebサイト),Asteriskコミュニティで活躍している第一人者の話を聞ける機会なども作っている。astimaの展開を通してAsteriskの魅力を伝え,音声と業務システムを組み合わせた新たな市場を広げていきたい。

■変更履歴
公開時,NTTデータのCTI/CRM向け製品のブランドである「VOISTAGE」を「Voistage」と一部小文字で表記していました。正しくはすべて大文字となります。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2007/08/23 15:05]