「e都市ランキング 2007」において総合第1位となった千葉県市川市。1997年12月に就任以来、積極的に情報化を進める千葉光行市長に、自治体の情報化についての考え方を聞いた。効率化やサービス向上も重要だが「協働を推進するためのIT活用が最も重要」という市長の考え方は明快だ。
(聞き手は黒田 隆明=日経BPガバメントテクノロジー編集長 写真:室川イサオ)
市長就任当時の市川市は「不交付団体」ではなく、現在よりも財政的に厳しい状況でした。そうした中でもIT化を積極的に進めてきた市長の、IT投資についてのお考えをお聞かせください。
千葉 市川市のIT投資比率は、総予算額の1.19%、約24億円です。欧米では3~5%と言われていますので、それに比べると投資額としては多くはありません。必要があれば、市川市においても3%ぐらいまでは投資しても良いのではないかと思いますが、大切なことは、投資する金額の大きさではなく、その内容や成果だと思っています。
私は、1997年12月に市長にさせていただきましたが、就任当時は、民間と比べてITの活用が大変遅れていることから、行政改革の一環として、職員がITを市民サービスの向上や業務の効率化に効果的に利用できるようにすることが大切だと考えていました。
そこで、まず最初に着手したのが、ITを使いこなせる人材育成です。無駄な設備投資は禁物です。設備先行では宝の持ち腐れになってしまうと考えました。
そこで、若手を中心にやる気のある職員が各部門から25人、半年間かけて民間企業などのIT活用方策を学びました。そして、庁内LANに繋がったパソコンを彼らにまず最初に渡しました。ただパソコンを渡すだけでなく、これから市川市が取り組むIT活用方策について、プレゼンテーションをさせ、効果があると評価された内容は、その実現に向けてすぐに予算化しシステムの構築に着手しました。
業務の効率化や市民サービスの向上といった、IT投資のリターンについてはどのようにお考えですが。
千葉 ITの活用については、業務の効率化や市民サービスの向上と言った面もありますが、それよりもまず、地方自治体として一番に考えなくてはならないのは、市民とのネットワークを充実させて、市民との協働関係を高めていくことだと今は思っています。市民ニーズをどのように収集して、どのように分析していくのか。そして、それを施策に反映させていくことが大切です。
市川市では、昨年から「eモニター制度」を始めました。これは、ITを活用して、市民と市とが直接つながって、市民ニーズを市政に反映していこうというものです。開始から1年が経過しましたが、登録者数は今のところ2700人です。1万人くらいまで増やしたいと思っています。
この「eモニター制度」を活用して、2007年度の予算編成については、登録していただいている市民の皆さんの意見やアンケート結果を予算案に反映させました。来年度に向けて、さらに工夫して、市民の皆さんからの意見の効果的な収集方法などを検討しています。
そうなると、シニアの方々など、より多くの市民にパソコンを使ってもらわなくてはならないですね。
千葉 市民の皆さんが、パソコンの使い方やホームページの作成、メールなどが利用できるように、積極的な支援を行っています。これまで、約3.3万人の市民の皆さんがIT講習会に参加されています。自治会のホームページづくりも支援しており、市が支援するシステム環境のもとで33団体がホームページを作成しています。
いち早くISMSの認証を取得するなど、情報セキュリティも重視しています。
千葉 協働を進めるには市民からの信頼が必要です。そのため、市川市では平成15年11月に全国の自治体で初めて、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とBS7799の認証を取得しました。現在はISMSの国際規格である、ISO27001の認証を庁内の全部門(133部門)において認証を取得しています。
こうして情報セキュリティ・マネジメントを高めることによって、職員の意識が向上するという効果もあります。セキュリティ監査では、一つ一つの仕事そのものにチェックが入りますので、職員の危機意識は一段と高まります。
これからの情報化投資の方向性について、お考えをお聞かせください。
千葉 発生主義・複式簿記による公会計制度の導入が、まずはポイントの一つだと思います。市民に対して、市の財政状況や予算の使い方を分かりやすく報告する必要があります。
併せて、予算配分などについても、例えば「子育ての予算をこれだけ増やすことができるけれども、そうするとこちらの予算額が下がります」といったことを、ネット上で市民に投げかけるシステムを早く作らないといけないと思っています。
そうした情報提供が、市民と協働の基礎になりますね。
千葉 その通りです。市川市の財政は黒字にはなっていますが、まだまだ基盤はしっかりしていません。予算をどう使うのかについて、「eモニター制度」で市民のニーズを聞くだけではなく、市民との間にもっと双方向の意見交換や認識のすり合わせが必要です。