
IT投資を通じた生産性や競争力の向上を狙い,経済産業省で開催されていた「IT化の進展と我が国産業の競争力強化に関する研究会」が5月に中間とりまとめ(案)を発表した。そこからは,「ユーザー企業が主体的にITを牽引すべきである」とのメッセージが見て取れる。研究会を開いた経緯やユーザー企業のIT投資の在り方を,経済産業省の肥塚雅博商務情報政策局長(当時)に聞いた。
この中間とりまとめは誰に読んでもらいたいか。また,この研究会を始めることに至った問題意識は何だったのか。
研究会の中間とりまとめは,ユーザー企業とIT企業の両方に読んでもらいたい。そもそも,ユーザー企業とIT企業という区別にどういう意味があるのかと,最近は思う。今やユーザー企業それぞれがITに投資してソフトウエアを開発している。IT企業のようになっているのだ。
この研究会を開催しようと考えた背景には,三つの疑問があったからだ。
まず,日本の情報産業において,特に若手がソフトウエア開発などの職業を「3K職場」と見ているように思うこと。ところが他の国では,情報産業というのはどうやら“かっこいい”産業であるようだ。実際,給料は高い。なぜ日本の情報産業はそう言われてしまうのか,不思議だった。
二つ目は,日本の企業が開発したソフトウエアで海外展開しているものが少ないように思えること。そして三つ目は,それぞれの産業における日本企業の競争力を強化することと,それぞれの産業における企業のIT化との間にどのような関係があるのかを明らかにしたかったことだ。
IT投資の在り方については,特に,ユーザー企業各社が業務で使うソフトウエアを自社で開発していることに注目している。
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撮影:的野 弘路 |
多くのユーザー企業は,他社との差異化のために,ソフトウエアを自社内に囲い込むことで競争力を確保しようとしているようだ。ただ,ソフトウエアの特性を考えると,それが本当に正しいのかどうか疑問に思う。
ソフトウエアは開発費,固定費が多くて,変動費が少ないという特性を持つ。さらに,ソフトウエアは,フィードバックが良く利く。いろいろなユーザーに使ってもらうことによって,ポジティブ・フィードバックが返ってきて質が高まっていく。これがソフトウエアの特性だ。
ユーザー企業においても,ソフトウエア開発は至る所で実施されている。組み込みソフトの開発や生産管理,研究開発などだ。これらはどれも企業のIT投資にかかわってくる話であるものの,一見,個々に独立しているように思える。しかしここに「ソフトウエアの論理」という横軸を通すと,実は構造的に同じ問題を抱えているのではないかと考えた。
そしてここから,日本のIT産業の在り方やユーザー企業のIT化投資の効率性,あるいは情報化を,どうやって日本の競争力の強化につなげていくかについて,ソフトウエア開発の在り方を軸に考えてみる必要があると思った。つまり,ソフトウエアを囲い込むべきかオープンにすべきか,ソフトウエア開発の高コスト構造をどう見直すかといった問題を議論したかったのだ。
日本のユーザー企業は,ソフトウエアの自前開発や汎用品のカスタマイズに社内リソースを投入しすぎた結果,付加価値向上や市場拡大の“攻めの投資”に十分なリソースを投入できていない可能性がある。IT投資の「選択と集中」を図ることが,我が国の産業全体にとって大きな課題となっており,競争力強化に欠かせない要件だ。
中間とりまとめには,いろいろな業界のユーザー企業におけるソフトウエアの共同開発・投資の事例が載っている。
研究会を始めたのは2006年12月だが,2006年夏ころからいろいろな分野を対象にして,ユーザー企業がどうやってソフトウエアを開発しているのかという実態を徹底的に調べ始めた。そこで分かったのは,どの分野でも同じような現象が起こっているということ。また,日本のユーザー企業の中に様々な試みがあることにも驚いた。
例えば,商社の方はみんな知っていることかもしれないが,住友商事と三井物産と三菱商事は,独SAPのアプリケーションをベースに全く同じ基幹業務システムを使っている。このことを,日本の一般企業の方はどのくらい知っているのだろうか。
また化学業界ではダイセル化学工業が,化学メーカー用の生産管理システムをコンサルティングを含めて外販している。それから三菱東京UFJ銀行は,銀行の基幹系システムを開発する際に,顧客の重複の少ない地銀と共同開発している。
同業のユーザー企業同士であっても,必要に応じて共同開発すべきと考えている企業はたくさんある。業界は違うが,どれもソフトウエアの論理を実践する同じような取り組みといえる。
>>後編
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