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営業の定義を変え組織にもメス,進捗管理システムを新たに開発へ

2006年度は売り上げが減少したものの、過去最高の経常利益を達成したアイ・ティ・フロンティア。社長就任以来、同社のビジネスモデルを“古い商社タイプ”から付加価値重視型へとシフトさせてきた井上社長は、現在の姿をどう見ているのか。三菱商事時代にM&Aの専門家として米国に長期駐在した経歴を持つ井上社長に、ITサービス企業としての成長策などを聞いた。

2007年3月期は経常利益が85.8%増の29億6400万円だった半面、売上高は6.1%減の610億円にとどまりました。要因は。

 一言で言えば、付加価値の低い「製品販売」を今、どんどんやめているからです。当社は商社のDNAを持っているので、基本的なビジネスモデルとして仲介に入るというパターンがありました。一時は売り上げ900億円のうち、約500億円が製品販売の仲介といった付加価値の低いビジネスで成り立っていた次期があったほどです。

 しかし単純に仲介業者として間に入るようなビジネスは、お客様にも価値をもたらさないし、メーカーにも価値をもたらさない。社員のモチベーションも上がりません。私が社長になってから5年目に入りますが、最初の2~3年でその点を大きく整理してきました。それが減収の理由です。

 現在でも610億円の売り上げのうち製品販売が88億円ほどありますが、これはサービスの販売に伴ったものがほとんど。いわゆる仲介型ではなく、コンフィグレーションやパラメータの設定などを含め、当社が初めから任されているものです。

 これは世の流れに沿ったものだと思います。お客様の要望はハードやソフトではなく、それらがもたらすソリューションや価値そのものです。また、我々の親会社である商社の世界でも、もはや仲介業者としてのビジネスは全体の2割程度しかありません。メインはビジネス・ソリューション・プロバイダとしての仕事であり、事業投資です。当社も変わっていくのが当然だと思います。

 一方の経常利益は、2001年の三菱商事系IT企業の5社統合以来、最高益となる29億6400万円となりました。しかも2006年度は前年度に比べ、将来に向けた投資を10億~12億円増やしています。もしケチッていたら、40億円の経常利益が出ていました。数字的には非常に満足いく結果です。

2007年度は3カ年計画のスタートの年と聞いています。

写真●井上 準二(いのうえ じゅんじ)氏
撮影:柳生 貴也

 この4月から「2009中期経営計画」を始めました。2009年度に売り上げ750億円、経常利益率6%(45億円)を目指す計画です。拡大基調のこの業界にあっては、かなり控えめな数値だと思います。これは後で話しますが、M&A(企業の合併・買収)などがない場合、企業としてこういう成長をしたいという数字。いわゆるオーガニックグロース(organic growth:有機的な成長)という考えです。ちゃんと根っこを張って枝を伸ばしていけば、今の600億円は750億円になる。社員全員ががんばれば、きっとこうなるという額ですね。

 私は三菱商事時代、米国に8年間いました。シリコンバレーとニューヨークでしたが、シリコンバレー時代はベンチャー投資。そしてニューヨーク時代にやっていたのはまさにM&Aです。  その経験から言えば、株主と顧客、社員のバランスが取れていない会社はまずだめになる。だから常にそのバランスを見ているのですが、一方で規模を追うべき時期もやって来る。タイミングがすべてです。2、3年後には当社でもM&Aの話が現実味を帯びているかもしれません。

 もちろんお金は使うときにはしっかり使います。2006年度は10億円強を投資に上積みしましたが、2007年度はさらに10億円を積んでいます。将来に向け、この2年間で20億円以上を将来のための投資として上乗せしたわけです。投資対象は人材の教育投資などいくつかありますが、最も重要だと考えているのは社内システムへの投資。具体的にはプロジェクトの進捗管理システムを開発する計画です。5社が統合したため、これまでは各社個々のものしかありませんでした。これを初めから自社で作り直します。

 新システムの特徴は、「時間管理」にあります。従業員個々の勤怠とソフト開発の工数管理、それにプロジェクトの進捗状況を一元的に扱えるシステムです。多くのIT企業がそうだと思いますが、スケジューラやグループウエアなどに入れている個人の時間管理とプロジェクトの工数管理などが、2重になっている場合が大半でしょう。これはサービス残業などというものが、おおっぴらにあった時代の名残なのかもしれません。個人の時間管理と会社としての工数管理、それに経理という基幹システムに直結する勤怠管理を、同じ数字を基に連携・処理できるシステムが必要です。これが動けば、お金の予実(予算実績)管理だけでなく、時間の予実管理が可能になる。

 調べてみましたが、ぴったり来るソフトは見付かりません。それだったら作ってしまおうと。外販も視野に入れているので、しっかりしたものを作るつもりです。

現在のSIのリスクをどうとらえていますか。

 リスクのないビジネスはありませんから、しっかり管理していくことに尽きますね。リスクは上流部分と中流から下流までの2通りがあり、それぞれ管理手法が異なると思っています。

 上流部分における本質は、お客様が何を必要としているのか、確実に理解することです。我々が「おっしゃる通りに作りましたよ」と言っても、「そういう意味じゃなかった」ということが必ず出てくる。互いに成果イメージが異なっていたわけです。これは後からではどうしようもありません。これがSIの赤字案件の大きな原因です。

 お客様とイメージを一致させるには、自分たちがあたかも相手のCIO(情報統括責任者)になったかのように、高い観点からシステム化の要点を指示・把握できるようにすること。私は「CIO機能をお客様に埋め込む」と言っていますが、相手が何をしたいのかきちんと理解し、そのビジネス要求をシステムにきっちり落とし込めるような人材を送り込むことが重要です。

 そして発注者のお客様と受注者である我々があたかも同一のように動くことができれば、イメージのズレは発生しません。これをやっておかないと、「こんなの欲しくなかった」となりかねない。

 中流から下流とは、プロジェクト管理そのものです。今年度に開発するプロジェクト進捗管理システムを使い、あらゆる面の可視化を進めていきます。

営業組織に一部変更を加えたと聞きました。

 これまでの営業関連の社内組織は、「営業」と「企業IT」の二つに分かれていました。これを「営業」に一本化したのです。

 企業ITとは、お客様のところに出向いて相手のCIOを支援する部門。コンサルティングや上級SEの能力を持つエース級の人材をそろえており、親会社の三菱商事をはじめ、お客様ごとのアカウント制を敷いています。先の「CIO機能をお客様に埋め込む」ための人材を集めた組織がこれです。

 もう一つの「営業」は、当社のソリューションをプロダクトアウト的に売っていく組織。いわゆる普通の営業ですね。

 これを一つの組織に再編したのは、当社の営業の「定義」を拡大したためです。プロダクトアウト的な手法は、もう我々の営業活動の一部に過ぎない。お客さんと一緒に議論ができて、相手の感覚まで共有できなくてはなりません。時には「新たに作るよりも今あるものを使いましょう」と、お客様に対してずばっと言えるくらいでないと、我々の業界ではやっていけません。

 だから例えば「今の技術の最先端はこうですから、そこは急いで手を入れない方がいい。3年待ちましょう」などと言わなきゃいけないし、そうでなければ相手からの信頼を得られないと思います。

アイ・ティ・フロンティア代表取締役社長
井上 準二 (いのうえ・じゅんじ)氏
1949年生まれ。74年に東京大学工学部卒業後、三菱商事入社。通信衛星ビジネスを手がけた後、93年に米国三菱商事パロアルト事務所長。MC Silicon Valley社設立とともに社長を兼務。97年に三菱商事情報産業統括部長、2000年に米国三菱商事上級副社長兼iMIC部門eCommerce本部長。03年4月に三菱商事執行役員。同年6月から現職。趣味は山登りと落語鑑賞。

(聞き手は,宮嵜 清志=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2007年7月19日)