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【前編】ICTの国際競争力が課題,通信事業者は危機意識の共有を

ICT産業の国際競争力強化を狙い総務省は5月,「我が国のICT国際競争力強化戦略」を取りまとめた。そしてそれを具体化する「ICT国際競争力強化プログラム」が動き出した。SIMロック解除などで話題の「モバイルビジネス研究会」も競争力強化という流れの中でとらえられるものだ。通信事業を管轄する総合通信基盤局の寺﨑明局長にその考えを聞いた。

国際競争力強化という言葉を最近よく聞く。総務省も「ICT国際競争力強化プログラム」をまとめた。目的は。

 このプログラムはICT産業の国際競争力を高めることで,日本の将来の経済的繁栄と国民生活の向上に貢献するという大きな目的を掲げている。

 日本の産業を見ると,GDP(国内総生産)の伸びの中でICT産業が占める割合が4割になっている。だが,国際活動を含めるとまだまだ日本経済をけん引するほどには成長していない。自動車産業など日本が高い国際競争力を誇る分野もあるが,それだけに未来永劫頼っていくわけにはいかない。

 日本としては複数の強い分野を持っておくことが重要であり,ICT産業はその候補の一つとなる。そこでがんばってもらわなければならないのが,日本の通信事業者であり,通信機器メーカーだ。

このプログラムは通信事業者にはどうかかわるのか。

 その前になぜ日本の国際競争力が低下したのかを説明したい。一つは2000年のITバブルの崩壊で企業が体力を消耗し,海外展開のためにリソースを避けなくなったこと。もう一つは日本の国内市場が十分大きく,海外に出なくても十分やっていけたことだ。

 後者は通信事業者にぴたりと当てはまる。そして通信事業者の周りを通信機器メーカーが取り巻いている。その結果どうなったか。顕著なのは携帯電話メーカーだが,国内市場に特化した最新の端末を出して日本市場は成熟したが,その半面,海外市場からは取り残されてしまった。

 通信や放送に関する制度も,新たなICT産業の登場を後押しするようになっていかなければならない。

 総務省では,IP化やブロードバンド化の進展に対応した包括的な競争ルールの見直しのためのロードマップとして2006年9月に「新競争政策プログラム 2010」を策定した。既にこれに基づき,菅(義偉)総務大臣(当時)の下で具体的な政策が動き出している。一例がモバイル・ビジネスの活性化に向けて開催した「モバイルビジネス研究会」だ。SIMロックの解除や販売奨励金の見直しといった点に注目が集まっているが,これらは将来の新たなビジネスモデル作りのために現行モデルを見直そうということだ。

 通信事業者や通信機器メーカーにも,危機意識を共有してもらうことが肝心だ。これから日本は人口が減少していく。現状のビジネスモデルのままでは市場は小さくなる一方だ。通信事業者や通信機器メーカーには,“開拓者魂”が求められる。

通信事業者に海外展開を促すのか。

写真●寺﨑 明(てらさき・あきら)氏
撮影:佐々木 辰生

 各国の事情があるため,単に日本の通信事業者が日本のビジネスモデルをそのまま海外で展開するのは難しいと思う。日本の技術を海外に採用してもらう努力はする必要があるだろう。

 PHSは日本発の通信技術を海外に展開した一つの例だ。中国では現在約1億台のPHS端末が使われているという。私自身,郵政省時代に中国でPHSのセミナーを開いたことがある。日本から通信事業者やメーカーが同行した。当時中国側から「これだけ日本のメーカーを連れてきていただいたのは2年ぶりです」と言われた。

 一方で米モトローラやフィンランドのノキアといった欧米の会社は,2~3カ月に1回,説明に来たという。開拓者魂と言ったのは,海外展開していく上ではこうした姿勢が今以上に日本の通信事業者や通信機器メーカーに必要だということだ。


海外に進出するにしても,足元の国内市場がおぼつかない。国内市場を活性化するような施策は。

 国際競争力を強化するといっても,その戦略の前提となるのは国内市場だ。国内の通信市場を改革し,そこに健全な競争環境がなければ,国際競争力という言葉は絵に描いた餅になってしまう。

 例えば携帯電話市場が分かりやすい。日本の加入数は9800万を超え,今のビジネスモデルのままでは市場が飽和しつつある。これまでは市場が伸びてきたから携帯電話機のセット・メーカーは,世界市場ではシェアが低くても何とかやっていけた。こうしたセット・メーカーが目の前に存在しているからこそ,日本の部品メーカーは力を蓄えることができた。

 携帯電話の部品メーカーは国際競争力があると言われている。だが,今後国内のセット・メーカーが淘汰されていくとしたら,果たして部品メーカーが今までのような高い競争力を維持できるかどうか分からない。

 負のサイクルに陥らないために,現行のビジネスモデルを見直して,新たな成長のためのビジネスモデルを作り上げなければならない。モバイルビジネス研究会はそのきっかけ作りでもある。

 移動体通信でいうと,2.5GHz帯の無線ブロードバンドも新市場を作るための施策の一つと言える。既存の第3世代携帯電話事業者が単独で参入できない規制を設けているが,これはオープン型ビジネスモデルの新規事業者に入ってもらい,ユーザーの選択肢を増やし,市場を活性化してほしいからだ。

>>後編 

総務省 総合通信基盤局長
寺﨑 明(てらさき・あきら)氏
1952年生まれ。74年東京工業大学工学部卒業,76年3月東京工業大学大学院修士課程修了。同年4月郵政省(現・総務省)に入省。93年電気通信局電波部電波利用企画課長,94年同移動通信課長,97年通信政策局技術政策課長,99年同総務課長,2000年に北陸電気通信監理局長,01年1月総務省北陸総合通信局長,2002年8月に大臣官房参事官,04年1月独立行政法人通信総合研究所理事,04年4月同情報通信研究機構理事,05年8月総務省総合通信基盤局電気通信事業部長,06年7月同政策統括官,07年7月に現職の総合通信基盤局長に就任。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年7月18日)