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 販売奨励金やSIMロックの是非,MVNO(仮想移動体通信事業者)の促進など,携帯電話を中心としたモバイル市場の活性化に向けた施策を議論してきた総務省の「モバイルビジネス研究会」。同研究会は9月20日,「端末価格と通信料金を区分した分離プランを2008年度から部分導入」「SIMロックは解除を法制的に義務付ける方向で2010年時点に検討」といった施策を最終報告書で打ち出した(関連記事)。同研究会の構成員を務めた野村総合研究所 コンサルティング事業本部 情報・通信コンサルティング部グループマネージャーの北俊一・上級コンサルタントに最終報告書のポイントや業界の行方などを聞いた。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション



野村総合研究所の北俊一・上級コンサルタント
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最終報告書のポイントは。

 下は端末レイヤーから上はコンテンツ・レイヤーまで,顧客接点レイヤーを含めてどうあるべきか全体を見渡した点は画期的なことだと考えている。携帯電話事業者や端末メーカー,販売代理店への影響を踏まえ,主役であるユーザーの視点から全体の方向性を突き通した。

 代理店は事業者の販売奨励金を原資に端末を値引きし,ユーザーは本来よりも安い値段で端末を購入している。その代わり,事業者はユーザーが毎月払っている通信料金から販売奨励金の相当額を回収している。通信料金には自分が享受した販売奨励金だけでなく,他人の分まで含まれている。では,それは一体いくらなのか。自分が享受した分を払い終わった後も回収され続けている可能性があり,不明瞭な点が多い。そこで端末価格と通信料金を可能な限り分離し,ユーザーから見て「何に対する負担なのか」を透明化する目的で分離プランを導入しようとなった。

 すぐに取り組むべき措置と2011年時点で実現すべき措置に分け,段階的に移行していくアプローチを採用した点もポイントだ。決してハード・ランディング(難着陸)ではないと考えている。最終報告書は今後の枠組みを示しただけに過ぎない。この枠組みに従い,事業者が中心となって端末メーカーや代理店と一緒にこれから具体的な取り組みを考えていくことになる。その経過を総務省が定期的にチェックする。

今後,販売奨励金はなくなるのか。

 最終報告書では,販売奨励金を禁止しているわけではない。「端末価格と通信料金の透明性を確保するため,両者を分離した分離プランの導入を検討すべき」としている。ユーザーが支払う毎月の通信料金のうち,いくらが販売奨励金の回収分で,いくらが“裸”の通信料金なのか,内訳を明示した分離プランの導入を各事業者に求めている。

 例えば最低12カ月の契約期間を設定した月額7000円の料金プランがあるとする。このうち「3000円が端末の回収分で,4000円が基本料」といった内訳が明示されれば,3000円×12カ月=3万6000円が端末価格と分かる。今後は「自分が享受した端末の販売奨励金は自分で支払う」という方向に切り替わっていくことが望ましい。

「0円端末」はどうなる。

 0円端末は代理店が事業者の販売奨励金を原資に値引いている場合と,ソフトバンクモバイルの「新スーパーボーナス」のように割賦販売で購入時は「頭金なしの0円」となっている場合がある。割賦販売は12回や24回といった分割払い(割賦)で端末を購入する仕組み。分離プランの趣旨に合わせて考えると,今後も割賦販売と同じ形で0円端末は残る。

 ただ,すべての端末が0円になるわけではない。購入時に端末の代金をすべて支払って月額の通信料金が安くなる契約もあれば,数万円の頭金を用意して残りを分割で払う契約も考えられる。このように,端末価格と通信料金の多様な組み合わせからユーザーが自由に選択できるようになることが期待される。

 今後は,ユーザーが端末購入時に支払う金額次第で販売奨励金が変わる。購入時に端末の代金を全額支払えば,販売奨励金はゼロ。逆に0円で購入した場合は,端末価格がそのまま販売奨励金に相当する。ただしこの販売奨励金は,後々,ユーザーが支払っていくことになる。ユーザーの端末購入代金を,事業者が金利なしで立て替えているようなものだ。こうなると「端末の販売奨励金」というよりは,むしろ「事業者による一時負担金」と言った方がふさわしいかもしれない。

完全に透明で公平な世界はあり得ない

最終報告書では現行の割賦販売も見直しが必要としている。

 現行の割賦販売では,端末に対する月々の支払いの一部を事業者が負担しているが,機種に応じて通信料金の一部を割り引くことで実現している。これでは端末価格と通信料金が分離しているとは言えず,分離プランを本格導入する方向で結論が出た場合(注1)は見直しが必要になるだろう。

注1)最終報告書では「2008年度をメドに分離プランを部分導入し,有効性を定期的に検証しながら2010年までに本格導入に向けた結論を出す」としている。

通信料金はコストの完全な積み上げではなく,他社との競争で決まる面もある。事業者は裸の通信料金を出せるのか。

 各事業者が分離プランで提示した通信料金が本当に裸のものかどうかは検証できない。営業費や販促費は多岐にわたり,判断が難しいからだ。

 例えば「店舗運営支援費」が挙げられる。今後,販売奨励金が減っていくと,代理店は売り上げが減って店舗を維持できなくなる。料金プランが複雑化して接客時間が長くなれば説明員を増やす必要もあり,代理店の運営はますます厳しくなるだろう。

 このような事態になって困るのは事業者。代理店が減るとトラブル時の対応など保守面で不都合が生じるからだ。このため,「店舗運営支援費」のような販促費を積み増して,現行の代理店ネットワークを維持していくことになる。つまり,販売奨励金が違う名目に変わるだけで,代理店はそれを原資に端末をまた安く売る。実際,販売奨励金を禁止した韓国でもそうだった。では,「店舗運営支援費も端末の販売奨励金の一部なので分離せよ」とするのか。おそらくそこまでは要求できない。完全に透明で公平な世界はあり得ない。

分離プランを導入しても完全な分離は難しいと。

 その意味では,(事業者の一時負担金ではない,従来からある)「端末の販売奨励金」に相当するものも確実に残る。端末の在庫が余れば値引きして売らざるを得ないからだ。この値引き分の一部は事業者が販売奨励金のような形で負担することになり,結局,全ユーザーの通信料金から薄く回収することになる。

 在庫処分のための値引きは,テレビや冷蔵庫などの販売でも見られるごく一般的な商習慣。これも禁止して「端末の販売奨励金に相当するものは必ず同じユーザーから回収する」と決めてしまうと,事業者は端末を最初から最後まで定価で売らなければならなくなる。これでは,ユーザーが型落ちの端末を買う動機がなくなってしまう。テレビや冷蔵庫は単品の売り切りで,安くして売れたら終わり。しかし,携帯電話の場合はそうならない。安くして売れば「その分を月額の通信料金で回収している」となる。意図したことでなくても会計上は必ずこうなる。

 これをなくすとすれば,値下げしなくても売り尽くせる体制を構築するしかない。売れる分だけを調達し,売り尽くしたら終わり。だが,これは相当難しい。デザイン端末などの“企画端末”であれば実現できるかもしれないが,一般向けの端末ではまず不可能だ。このため,販売奨励金に相当するものはなくならないし,なくせとも言っていない。最終報告書でも「ある程度」や「可能な限り」といった表現にとどめている。