
7月1日付でEMCジャパンの社長に諸星俊男氏が就任した。前職は富士通の経営執行役プロダクトマーケティング本部長。富士通の経営幹部が他社に移ったのは初めてのケースであり、話題になった。諸星社長は「外資系のドライなイメージを一新し、“日本化”を目指す」とし、まずはサポート体制とパートナー戦略の強化に乗り出す考えだ。
7月に社長に就任されてから時間が経ちましたが、EMCに対して最初の印象と変化はありますか。
基本的に変わりません。数多くの本社の幹部と話し、改めてビジョンとストラテジーが非常にしっかりした企業だと感じています。
特に、そのビジョンを実現するスピードは日本企業にはないものだと思います。現在、EMCが目指しているのは、「情報インフラストラクチャーの総合ベンダー」になることです。そのために、数々の企業を買収しています。しかも、買収した企業の技術や製品を、既存製品に取り込んでいくスピードが速い。例えば、RSAのセキュリティ技術やVMwareの仮想化技術など、どんどん取り込んでいます。
日本企業の場合、といっても私は富士通しかよく知らないのですが、スピードよりもステディさを優先します。製品として出てきたときは何も問題がない状態になっているのはよいのですが、いかんせん時間がかかる。もちろん、どっちがいいのかという議論もあるとは思いますが。
就任後1カ月で名刺を2箱使い果たすほど、顧客とパートナーを訪問したそうですね。EMCジャパンに対してどのような声が多かったですか。
お客様の製品に対する評価は非常に高いと感じました。しかし、サポートに対しては決して満足していない印象でした。また、パートナーさんと話した印象では、その戦略の立て直しが急務だと感じました。正直申し上げて、ここ2~3年はパートナー戦略がちょっとおろそかになっていたようです。
サポートは迅速に、満足してもらえるまで徹底してやる
日経コンピュータが毎年実施している「顧客満足度調査」(今年は8月20日号で掲載)で、EMCのストレージ装置は前回の8位から5位に上がりました。ただ、製品満足度は高いものの、サポート満足度は競合に比べ見劣りがします。
サポートは確かに手薄になった時期があったようです。また、どうしても外資系ベンダーの場合、ドライな印象があるんですね。そこで私は“日本化”を強調しています。もっと日本市場の要望をきちんとかなえるようにしていきたい。ハードウエアについては問題ないと思いますが、サポートやソフトウエアについては、強化しなければいけない。
日本企業のサポートというのは、やり過ぎのきらいもあるのですが、やり過ぎるくらいやらないと評価してもらえません。例えば、実際にはほとんど起こりませんが、お客様の業務に支障が来すような障害の場合は、私にもすぐに連絡がくるようになっています。いざとなれば私も行く。毎日就寝前にメールをチェックし、何かあれば指示を出す。こうした姿勢を自ら示し、カルチャーを変えていきたい。サポートは迅速に満足いただけるまで徹底してやります。
社員からすれば、実際にはこれまでと95%は同じことをしているのかもしれませんが、見せ方や態度で、お客さんの満足度は変わります。それにはトップが率先して示すべきです。
外資系ITベンダーの多くが再び本社の統治を強めている中で、“日本化”というのは、流れに逆行しているようにも見えます。
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撮影:本多 晃子 |
米国は市場全体として、役割がしっかり分かれています。コンサルティング会社はコンサルティング、システム・インテグレータはシステム構築というように分業している。米国というのは、そういうカルチャーなんだと思います。これは私の偏見も入っていますけど、アメリカン・フットボールもまさに分業ですよね。私もセンターをやっていたことがあるんですけど、後ろにいるクォーターバックにボールを渡したらつぶされる、悲しい役割なんですよ(笑)。
日本では今まで、富士通や日立製作所、NECなどの強い大手ベンダーが「全部やりますよ、お任せください」という姿勢でした。日本も少し変わってきてシステム・インテグレータが相当強くなってきましたが、流通制度を含めてまだ米国のような分業体制はできていない。「うちは外資系ですから、ここまでです、さようなら」では誰も買ってくれません。EMCというグローバル企業の中の日本法人ですから、勝手なことはできませんが、今のEMCジャパンには、“日本化”が重要だと思っています。
日本ではまだ箱売りのイメージが強いのは事実ですが、米国ではかなり変わってきています。売り上げの比率はざっくりと、ハードが40%、ソフトが40%、サービスが20%です。日本でも今後、コンサルティングなどのサービスをもっと強化していきます。コンサルタントの人数はまだ2ケタの下の方ですが、どんどん増やしていきます。
パートナー戦略を強化し、中堅企業市場を開拓
パートナー戦略を強化するということですが、具体的にはどのようなことを考えていますか。
1つは、パートナー企業の数を増やします。現在、正式契約をしているのは15社ですが、全然、足りない。やはり最低でも30社にはしたいと思います。力のあるシステム・インテグレータで、まだお付き合いのないところが結構あります。あるいは非常に限られた領域だけでしか組んでいない企業もある。
もう1つは教育です。すでに何社かのパートナーとは始めていますが、新しいテクノロジを学ぶときに、一緒に米国へ行きます。EMCジャパンが勉強してから、パートナー企業に提供しているようでは遅いのです。一緒に米国で学び、それを日本でどうやって売るかというソリューション作りを共同作業で考えていく活動を進めています。
EMCユーザーは大企業が多いという印象があります。中堅・中小企業への拡販についてはどう考えていますか。
おっしゃる通りで、これまでは中堅企業のマーケットというはほとんど取りこぼしてきました。この市場はパートナーをうまく活用と言うと失礼ですが、一緒に開拓していきます。そのために、教育を充実させるとか、オーダーを簡単にするほか、難しいストレージのコンフィグレーションを支援するといったことを進めていきます。
中国やインドの市場が伸びているなかで、本社から見て日本市場の重要性が相対的に低下しているのではないでしょうか。その中で、本社には将来の売上高であるとか、コミットしている数字はありますか。
数字のコミットは特にしていません。私に期待されているのは、日本のマーケットシェアを高めることです。確かにアジアの中で、中国は非常に伸びてきていますが、やはり絶対的な大きさはまだまだ日本の方が上です。日本は引き続き、世界第2位のマーケットです。ここでシェアが十分に取れていないことが、本社としては一番の懸念事項であり、私が社長になった理由でもあります。
売上高は公表していませんが、やはり将来的には1000億円の企業になりたいと思います。IT企業として日本で本当に認知されるには1000億円という規模は必要です。早いうちに到達できると思っています。
売上高を増やすためには、人員も増やす必要があるのでは。
人員についてはかなり増やしていく方向です。外資系は一般に人材の流動が激しいですが、単に採用するだけでなく、長居していただける会社にしたいですね。そのために、例えば、従業員の年金制度を整備するなど、安心して働ける環境を提供します。こうしたことも日本企業の特徴ですから。
ES(従業員満足度)が上がらなければ、CS(顧客満足度)も上がりません。従業員のことをケアしている会社である、というイメージをもっと出したいと思います。それをCEOのジョー・トゥッチに話したら、「いい考えだ。ぜひやりなさい」と言われました。実際、EMCは米国では社員が働きやすい会社として有名で、ものすごく人気がある会社です。日本も早くそのようなイメージに変えたいですね。
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(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2007年8月30日)