米Data Domainは,データ・バックアップ用途に特化したNAS(いわゆるファイル・サーバー)を開発してきたストレージ・ベンダーである。同社のNASの特徴は,格納データの冗長性を排除してバックアップ・データ量を削減する点。これにより,バックアップ媒体の容量単価が下がるだけでなく,遠隔地へのレプリケーションが可能になるなど,テープが備える安さや可搬性を代替できる。ITproは10月10日,来日中の同社社長兼CEO(最高経営責任者)のFrank Slootman氏に,NASの進化について聞いた。
![]() 米Data Domainで社長兼CEOを務めるFrank Slootman氏 [画像のクリックで拡大表示] |
米Data Domainはバックアップ/リカバリ専用のNASという製品カテゴリで事業をスタートしたが,このカテゴリの需要はどのくらい伸びているのか。
バックアップ/リカバリの手段としてNASを使う,それもデータの冗長性を排除してバックアップ量を減らすというやり方は,極めて需要が高い。米Data Domainの実績で言うと,今年の直近のデータでは前年度比150~200%の伸びを示している。2004年1月に製品を市場に投入してから売り上げは順調に拡大し,2007年第2四半期には2650万ドルに達した。
ストレージ動向に強い市場調査会社の米Taneja Groupの予測によると,この分野の製品は2007年から2010年まで年率108%の成長率を見せる。米Data Domain自身は年率120%程度を見込んでいる。2004年に市場に製品を投入した頃と比べると成長率はスロー・ダウンして落ち着いてきたが,まだ着実に伸びている。
最近になってアプライアンスのOSをバージョンアップしたそうだが,従来と比べて何が変わったのか。
2007年5月に,ハードウエアを一新した新機種「DD500シリーズ」を投入した後,2007年9月にはOS(オペレーティング・システム)の新版「DDOS 4.3」をリリースした。いずれも,製品のカバー領域を広げるものだが,その意味は互いに異なっている。順を追って説明しよう。
まず,新機種の狙いはスケールアップだ。米IntelのデュアルコアCPUを搭載したPCサーバーをベースとするなど,従来機種よりも高性能化を図ることで,適用できる規模を拡大した。これまでのような中堅・中小規模だけでなく,より巨大なエンタープライズ用途で使えるようにした。
OSをバージョンアップした狙いは,スコープを広げることだ。ソフトウエアを改善し,従来のDDシリーズのバックアップ/リストア用途だけでなく,汎用的なNASとして利用できるようにした。つまり,アーカイブや階層型ストレージ管理など,プライマリ・ストレージ以外の使い方全般,すなわちニアライン・ストレージとして汎用的に利用できるようにした。
OS新版の詳細を教えて欲しい。バックアップ特化から汎用へと進化したというが,具体的に何が違うのか。なぜ今までは汎用のNASとして使えなかったのか。
まず第1に,バックアップ用途と汎用との要求の違いを明らかにしておく。データ・バックアップという業務では,巨大なデータを数少なく取り扱う。一方で,汎用のファイル・サーバーの使い方では,サイズの小さなファイルを数多く扱う。ファイルの生成や更新,削除などのファイル操作が頻ぱんに行われるということだ。このように,使用用途に応じて,ファイル・システムに求められる要求仕様は異なっている。
次に,Data Domainのストレージの仕組みをおさらいしておく。Data Domainのストレージはバックアップ・ソフトや業務アプリケーションなどから見るとファイル・サーバー,すなわちNASである。普通のNASとの違いは,格納データの冗長性を排除する機能を持つこと。冗長性を排除する単位はファイルではなくファイルを構成する小さなデータ欠片であり,冗長性を排除する範囲はファイル内部ではなくディスク・ストレージ全体である。
OS新版のDDOS 4.3では,ファイル・システムを実現するソフトウエアを改善することで,汎用のファイル・サーバーとしても使えるようにした。具体的にどういうことかと言うと,巨大なデータを格納できるものの少ない数のファイルしか扱えなかった従来OSとは異なり,ネーム・スペース管理機能などファイル・システムの仕組みの改善によって,冗長性を排除する仕組みはそのままに,数多くのファイルを短時間に扱えるようにしたのだ。
なぜ従来OSでは数多くのファイルを扱えなかったのかというと,ファイルを1個作るのに時間がかかり過ぎていたからだ。具体的には,1秒あたり15個から50個程度のファイルしか生成できなかった。このため,バックアップ用途では問題ないが,汎用のNASとして利用するのは厳しかった。NASとして使うと,反応速度が遅く,実用に耐えなかったのだ。これに対して,新版のDDOS 4.3では,1秒あたり数百個のファイルを生成可能になり,汎用のNASとして利用しても満足のいく性能が出せるようになった。