8月に発行された『はまる人、はもる人、はめる人』(朝日新書)というビジネス書が注目を集めている。この本の著者であるトーマツコンサルティング(東京・千代田区)のキャメル・ヤマモト氏は、外務省から組織・人事コンサルティングの分野に転じた異色の経歴を持つ。
ヤマモト氏は著書のなかで、語学ができる、特定分野の知識を持っているといった表面的な能力ではなく、もっと根源的な人材の「強み」に焦点を当てた。これを9つのタイプに分けて、ビジネスパーソンが強味を発揮する方法を説いている。
こうした人材開発の考え方は企業の人事施策にも適用できるはず。その方法について聞いた。
(聞き手は清嶋 直樹=日経情報ストラテジー) |
日本企業の人材管理にはどのような課題があるか。
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トーマツコンサルティングのキャメル・ヤマモト氏。 外務省での経歴を生かし、独自の人材活性化論を唱える |
ヤマモト氏:特にグローバル化している日本企業では、幹部・リーダー人材の配置に苦慮しているケースが多い。企業組織には、事業部門、(技術・営業・財務などの)職能、(海外の国などの)エリアといった様々な切り口がある。「海外現地法人の営業トップのポストを務められる人材」を社内ですぐに探せるかというと、いないケースも多い。
日本企業は、人材を採用する時には、労力をかけて履歴書の志望動機やこれまでの経験を吟味している。ところが、いったん入社してしまうと、短期的な人事考課や、「英語ができる」といった表面的な能力、「コンピテンシー」などの単純な評価軸で幹部のポスト・異動が決まる。本来の個性は、長期間一緒に仕事をした人にしか分からず、あまり重視されない。
組織的な解決策はあるのか。
ヤマモト氏:一部でも要件を満たしている人を見つけ出してポストに就け、現場での学習などを通じて育成する「タレント(才能)マネジメント」の仕組みを作るしかない。
これは労力がかかることだ。例えば、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、幹部の人材配置のためにトップ層が膨大な時間をかけて候補者の面談を実施し、事業部門や国を超えた人事異動を実践している。GEは、優秀な幹部を面談や研修などで拘束するというコストを支払ってでも、人材面での競争力を維持しようとしているわけだ。幹部人材をうまく配置して戦略的な業務を任せ、誰でもできる業務はアウトソーシングなどを活用するという区別をしなければ、国際的な競争に勝てない。
日本企業ももっと人材個人の「強み」を組織的に明文化して共有し、幹部配置に活用する仕組みが必要になる。それには、入社後にも個人の「履歴書」を作るべきだ。「課長としてどのような気構えで仕事をしてきたか」「特定分野の交渉・調整の場面でどのように考え、どのような役割を果たしたか」など、どのような状況に遭遇してどんな経験をしたかを、第三者が質問するなどして、細かく書き出す。
「履歴書」は、コンピテンシーなど特定の評価軸ではなく、個人が自分で経験を掘り起こし、会社のなかで果たしている役割が詳しく分かる内容にする必要がある。実際にいくつかの企業で、こうした取り組みの試行を始めている。
私はこうした取り組みの提案を、経営企画部門は特定の事業部門長など、人事部門以外のところに持ちかけている。人事部門はあるべき人材像や評価軸を既に持っていてすぐには変えにくいからだ。