
8月末に4カ月連続で携帯電話の純増数トップを記録するなど,好調を維持しているソフトバンクモバイル。超小型基地局である「フェムトセル」の実証実験を6月末に開始するなど,新たな施策も着々と進めている。同社のキーパーソンであり,インフラ部門の責任者でもある宮川潤一取締役専務執行役CTO(最高技術責任者)に,同社の目指す事業者像と事業戦略を聞いた。
5月末から純増数トップが続いているが,マクロな視点で見たときに,今のポジションをどのように捉えているのか
今は純増ナンバーワンという数字が踊っているが,それは単なる通過点という認識だ。ナンバーワンであるよりも,業界の先導役でありたいと思う。
例えばソフトバンク・グループは,固定電話で直収電話サービス「おとくライン」を出した。するとこれまで基本料金を一切下げてこなかったNTTが,基本料の対抗値下げに踏み切った。それだけ余力がある中で事業をやっていたということだ。差分の利益を当たり前として稼ぎ続け,当たり前のように事業をやっている構造が,そもそも競争上おかしい。
同じ土俵に上がって競争原理を植え付けていくのがソフトバンク流の戦い方だ。我々は何も革命をやっているつもりではない。おかしいと思った構造を破壊していくだけだ。固定でそれをやってきた。次はモバイルだ。
真の競争が浸透すると,最終的にはどの事業者も一番良い形の事業を真似し出す。どうせなら真似される側にありたいというのが,業界の先導役になりたいという意味だ。
これからのモバイルの世界は,確実にブロードバンド化する。我々は固定回線の世界で他社よりも先にブロードバンドの山に登った。NTTドコモやKDDIとは見えている景色が違うつもりだ。この経験が今後必ず生かせると思っている。
通信事業は,音声通話の収益が減り続けている。モバイルも含めて通信業界全体が衰退しているのだろうか。
![]() |
写真:佐々木 辰生 |
これについてはインフラ産業が衰退しているのではなくて,時代が変わっているという認識だ。
インフラ事業は高速道路に例えられる。まずは土木産業が成長し,道路が完成した後にクルマが走る。そしてインターチェンジやサービスエリアなどのサービス産業が加わる。
通信も同じだ。土管を張る時代に活気づく産業もあれば,土管ができた後に立ち上がるサービス産業もある。ソフトバンク・グループは,できればサービスの会社でありたいと思っている。
ブロードバンド化したモバイルの世界で,人々の生活をどのように変えられるのか。人々の生活をよりよくするための一歩踏み込んだサービスを通信の世界で作っていきたい。
我々が最近こだわっているフェムトセルは,このような通信を超えた新しい産業を生み出す可能性を秘めていると見ている。
超小型基地局であるフェムトセルを使って,具体的にどのような産業を作ろうとしているのか。
フェムトセルは,家庭内に超小型基地局として設置する。せっかく家庭に機器を置くのだから,フェムトセルを様々な機器をつなぐプラットフォームにしようと考えている。
例えばエアコン業者は,家庭のエアコンが何回スイッチをオン/オフされたのかという情報を何年かに一度見て回っている。エアコンとフェムトセルをつなぐことができれば,わざわざ設置された場所に行かなくてもチェック可能になる。そこに「一回のチェックでいくら」というビジネスモデルができれば,通信を超えた産業を作り出せる。
NTTドコモは,通信から一歩外に出て「おサイフケータイ」を立ち上げた。KDDIもエンタテインメントに特化しながら,通信の外に出ようとしている。ソフトバンクモバイルも,彼らと横並びできるような新たな産業作りに踏み出したい。それが彼らと同じライセンスを持っている会社の使命だろう。
>>後編
|
(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年9月18日)