
2005年10月にリコーグループの国内販社32社の保守サービス部門を一体化し、いまや従業員9000人の規模となったリコーテクノシステムズ。顧客に接するカスタマーエンジニアも5000人に上る。グループとして一体でITサービス事業を展開している点が特徴のリコーだが、そのサービス部門を担うリコーテクノの役割は重い。川村社長に戦略を聞く。
現在の事業の柱と状況を教えてください。
柱は二つあります。一つはMFP(多機能プリンター)などリコー製品に対するサービス事業で、もう一つがいわゆるITサービス事業です。売上比では、RP(リコープロダクト)と呼んでいる前者が57~58%、後者のITサービスが42~43%。RPは毎年3%ずつ伸びてますし、ITサービスに至っては2ケタ成長を続けています。
リコーがグループとしてITサービスに力を入れ始めたのは、まだ数年前の2003年当たりからなんです。「ITKeeper」というITサービスのブランドを掲げたのが翌年の2004年。実は、2003年度時点のITサービスの売り上げは、グループ全体で400億円弱程度でした。これが2006年度は800億円と倍増しています。ITサービスを本気でやろうとスタートした2003年当時、2008年度までに1000億円を絶対に達成しようという目標を立てたのですが、正直言って予想以上の成果です。
リコーテクノ単体で見ても好調です。2006年度の売り上げは1400億円弱ですが、2007年上半期は初めて売り上げが700億円を突破しました。もちろん牽引役はITサービスです。これは各県の販売会社がITサービスの販売にシフトして、懸命に努力してくれたおかげ。当社の仕事はサポートですから、販売会社の努力なしに業績が一気に上向くなんてことはありません。両者が協力し合ってこそのビジネスです。
当社は全国約430のサポート拠点を持っていますが、うち70%は各県の販売会社の中にあります。当然、お客様の情報も共有しています。これはITサービスだけでなく、リコー製品の販売を伸ばすためにも非常に効果的。販社の販売員がなかなか入れないようなお客様のところでも、うちのサポート要員なら全然問題ありませんから。
ITサービスを本格的に推進し始めたきっかけは。
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写真・柳生 貴也 |
MFPの普及が背景にあります。MFPはコピーとプリンター、ファクシミリが一体化された複合機ですから、オフィス内では必ずネットワークとパソコンにつながっています。そうなると、従来は自分たちが納入したMFPの面倒だけ見ていれば良かったものが、そうでなくなってきた。
私がこの会社に来た当時、こんなことがありました。お客様から、何度やってもうまく印刷できないという苦情をいただいたんです。サービス担当者がすぐに駆け付けて調べてみると、問題はMFPではなく、ネットワークかPC側にある。そこで当たり前のように、「当社ではなく××社に連絡したらいかがでしょう」とやってしまったんです。
これにはお客様がカンカンになった。「うちは好きでこんなものを買ったんじゃない。見積書や仕様書など自分たちの商売になる書類を出すために買ったんだ。もし何かあったら共同責任だぞ」ってね。お客様の気持ちは痛いくらい分かります。
逆に見れば、ここに広大なビジネスが待っていると思いました。自分たちの機器を売って性能を最高度に発揮させるだけでなく、初めからネットワークやパソコン、サーバーなどを含め、お客様の業務そのものを考えてサービスを提供するべきだとね。
我々、売る側の意識を変えるのは大変でしたが、それ以上の効果があったと思います。第一に、お客様の満足度が大きく上がった。さらに、他社製の複合機などが入っているお客様の所でも、「君らはオフィスインフラをしっかり作ってくれたから、MFPもリコー製に代えよう」という方々が出てくる。相乗効果ですよ。
発祥が複写機のサポートとなれば、他社とサービスに対する考え方に違いが出てくるのでは。
それは全然違うでしょう。お客様にとって、例えば複写機から紙が出ないというのは決定的な問題です。我々はそういう厳しい中で鍛えられてきました。ITサービスのサポートも、その延長で考えています。
当然ですが、地域によって差があってはなりません。5、6年前なら、ある場所は1時間で来るが別の地域だと3日後でないとサポート要員が到着しない、ということがあっても許されたかもしれない。しかしこれだけ高速回線が全国津々浦々に普及すると、「さっき送ったあの書類についてだが」という会話が当たり前です。“複写機感覚”からすれば、全国均一に、24時間365日体制で対応できなければならないし、430拠点・5000人のエンジニアはそのためにいるわけです。複写機からスタートしたリコーのサービスは、コンピュータメーカーが基盤の企業とは一線を画すと思っています。
中堅・中小企業や大企業など、市場別の戦略を教えてください。
従業員が100人以下のお客様を当社はMS層と呼んでいますが、ここの40万事業所にリコーのPPC(普通紙複写機)が入っています。しかし、その事業所にどの企業のものであれITサービスが入っているかというと、まだまだそうではない。そこで我々は今、この40万事業所の開拓に力を入れています。
具体的には、ブロードバンド回線とセキュリティ製品、LAN関連機器に加え、さまざまな設定や手続きをパッケージ化した「BBパック」というサービスの販売です。もともとリコーのPPCが入っているお客様ですから、商談もしやすい。
BBパックは2005年度、2006年度の合計で、既に1万6000事業所に納入しました。今はペースが上がり、月間900パックは売れています。それまで全くなかった市場を、2年で切り開いたわけです。
大手や準大手ですと、やはり個別のニーズにいかにソリューションとして対応できるかが勝負。我々はオフコンをやっていた当時から高度な技術を持つSEやネットワークエンジニアを抱えているので、これらのリソースと全国60カ所のデータセンターを組み合わせて対応していきます。この体制を4年かけて整えました。
実はリコーグループは、リコー本体がすべての商材の調達窓口になっています。ここで検証した上で機器やソフトを調達し、それを販売会社に渡す仕組みです。当社のITサービスは販売会社が売った製品やサービスのサポートですから、もちろん当社も商材同士を接続した際の動作などを徹底的にチェックします。
最前線となる5000人のサービス担当者(カスタマーエンジニア:CE)の戦力化に対する方策は。
技術者ですから、必要なのはまず技術力。それにお客様に対する提案力と、自ら現場で問題を解決する力の三つを備えてなければなりません。
この3月時点で、5000人のCEのうちITサービスに対応できる人員は約3200人になりました。これは、小口のお客様のネットワーク環境の面倒が見られるという、1次対応が可能な人員の数。今年度中に4000人にするよう、懸命に教育を続けています。
この人数の中には、お客様に対して問題解決ができるCEとして育成してきた「NCCE」の240人と、実際にお客様と接しながら技術的なサポートができる「NCE」の600人を含んでいます。彼らは大手や準大手のお客様を任せられる部隊です。
なお、教育は技術者だけではありません。当社には700人の営業部員がいますが、うち119人はITコーディネータの資格を持っています。これはソリューション営業を強力に推進するため。営業も提案力や解決力とともに、技術を身に付けていないとなりません。
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(聞き手は,宮嵜 清志=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2007年11月7日)