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 企業の法務・情報システム関係者の間で「e-ディスカバリー」が、課題として浮上しつつある。米国の訴訟制度におけるルールの1つなので、日本国内で一般にはなじみが薄いが、日本企業が米国で特許侵害や製造者責任などを問われ訟えられるケースが増えていることを背景に、重要なリスクになりつつあるからだ。

 そこで、e-ディスカバリー対策に詳しく、電子証拠の調査・解析の専門業者であるUBICの守本正宏社長に解説してもらった。

(聞き手は、清嶋 直樹=日経情報ストラテジー)

UBICの守本正宏社長

e-ディスカバリーとは何か。

 守本:米国の訴訟制度では「ディスカバリー」という独特の手続きがある。原告と被告が互いに、訴訟に関連した自ら保持する証拠を開示しあう手続きだ。意図的に証拠を隠すと、制裁措置を受けて、高額の損害賠償を支払うことになりかねない。

 日本の訴訟制度ではこうした手続きが明確ではなく、まだディスカバリーになじみが薄い。例えば医療訴訟では、原告は被告側が持つカルテを出してもらうこと自体が困難なことがある。米国の制度は、情報を持たない「弱者」に配慮したものだと言える。

 情報化が進んだことで、裁判の証拠は電子メールや設計図面データなどの形で、組織内のパソコンやサーバーに存在することが多くなっている。そこで電子版のディスカバリーを「e-ディスカバリー」と呼ぶようになった。

なぜ今、e-ディスカバリーの重要性が増しているのか。

 2006年12月の米連邦民事訴訟規則の改正で、e-ディスカバリーの手続きが明示されたことが大きい。e-ディスカバリー自体はそれ以前からある考え方だが、今回の改正で、訴訟当事者はe-ディスカバリーを避けられなくなった。

日本企業への影響は。

 e-ディスカバリーは米国の制度だが、日本企業にとっても無縁ではない。米国に進出したり米国企業と取引があったりする企業であれば、いつでも米国の訴訟に巻き込まれるリスクがある。日本の本社にあるパソコンやサーバーもe-ディスカバリーの対象になる。

 国際的に、日本企業は訴訟対応能力が低いと見られている。e-ディスカバリーによる機密情報入手を狙って、米国に本社を置かない企業がわざわざ米国の裁判所で、競合する日本企業を提訴するケースもあるようだ。対応を誤ると、日本企業が持つ豊富な技術情報などが流出してしまう。

どういう対策が考えられるか。

 実際に訴訟になった場合は、膨大なデータから訴訟に関連した証拠だけを抽出する作業が不可欠だ。例えば、「半導体メモリー」の特許訴訟なら関連するキーワードで社内のデータを検索して抽出する必要がある。

 こうした抽出作業は大変なので、米国にあるe-ディスカバリーの専門業者に作業を依頼する手はある。だが、日本語データの扱いに慣れていない業者も多いので、こうした業者に作業を丸投げするのは危険だ。抽出がうまくいかなかったり、訴訟に関連しない情報まで不用意に開示してしまう可能性がある。情報が多すぎると、証拠調べに要する弁護士費用が高くついてしまう問題もある。

 基本的な対策は、日ごろから「電子メールは3カ月保管」といったデータ保管のポリシーを決めておき、その通りに運用することだ。保管ルールが現場になかったために、提訴された直後に電子メールが削除されていたといった事実が明るみになれば、「証拠隠し」と受け取られて、訴訟で不利になってしまう。また、ポリシーをそもそも作っていなかった場合には、「このデータは存在しないので開示できない」ことの立証が難しくなるのでやはり不利になってしまう。