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【前編】競争を阻害する要素は取り除く,従来型のドミナント規制には見直しの余地あり

NGNの商用化が始まる2008年は,通信政策の舵取りをする総務省にとっても難しい1年となりそうだ。競争政策のキーパーソンである谷脇事業政策課長に,総務省の通信政策の基本的なスタンスから,ネットワーク中立性,国際競争力,通信産業の成長まで幅広く聞いた。

総務省の通信政策が何に根ざしているかというベースを確認したい。日本の通信環境は今が重要とか,5年後にこうあるべきなど,どの立ち位置で判断しているのか。

 とても難しい質問だ。1985年に市場を自由化してから新規参入を促進して,市場原理の中でサービスと料金の多様化を目指してきた。これが第1フェーズで,行政がある程度関与する中での自由化だった。

 第2フェーズの今は,市場環境の変化がとても早く,新しい技術がどんどん出てきている。この市場の流れを止めず,競争を阻害する要素があれば取り除いていくという,少し後ろに引いた政策を採っている。

 なるべくフレキシブルに対応できる市場環境を作っていきたい。これは突き詰めると,ユーザーの選択の幅を広げるということ。新しい技術やプレーヤが提供する利便性を,ユーザーが早く享受できる形に持っていく。

 この20年のうちに,総務省の政策は事前規制から事後規制に徐々に変わって,全体的に規制レベルを落としてきた。ただし,事後規制の形や市場モニタリングの在り方,紛争処理をどう円滑に進めるかなどにはまだ改善の余地があるので,制度の整備を進めていく必要がある。

現在のドミナント規制は,「シェアが高いことが独占的」に見えるが。

谷脇 康彦(たにわき・やすひこ)氏
写真:的野 弘路

 ドミナント規制の基本は,非常に強い立場のものが価格支配力を持つか,という観点である。

 固定通信は100%のシェアでネットワークが構築されてきた。それとは違う形で市場環境が作られてきた移動体通信は,規制のかけ方が異なる。

 ところが無線を使うアクセスが安くなって,光ファイバに近い速度で利用できる時代が間近に来ている。こうなるとドミナント規制が今までのままでいいとは思わない。2008年度中に,ドミナント規制の見直しについて具体的な結論を得る方向だ。

 ドミナント規制は事前規制であり,過去のデータに基づいて判断するしかない。この指標として総務省は市場シェアで見ている。

 明確に,“明日からドミナント規制の在り方をこう変えます”というのはさすがに行き過ぎだろう。だからこそ毎年,競争の実態を把握して評価している。

光ファイバを巡って設備競争かサービス競争かという議論があるが,通信事業者同士はすべてのレイヤーで競争すべきなのだろうか。

 設備競争かサービス競争かという議論は,競争政策の永遠の課題である。マーケットの状況に応じてそのバランスは変わってくるだろう。

 両者の境目にあるパラメータが「接続料」である。接続料が安ければサービス競争は進むが,ネットワークを持つ立場の投資インセンティブを損なわせてもいけない。そのバランスが求められる。

 どちらが正しいかを判断するのは難しい。例えばどの時点で“これからは設備競争,これからはサービス競争”というように,合理的に判断できるかという問題がある。

>>後編 

総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課長
谷脇 康彦(たにわき・やすひこ)氏
1984年郵政省(現・総務省)入省。OECD事務局ICCP(情報・コンピュータ・通信政策)課勤務等の後,郵政省電気通信事業部事業政策課課長補佐,郵政大臣秘書官,電気通信事業部調査官を歴任。2005年から総合通信基盤局料金サービス課長として,「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」,「ネットワークの中立性に関する懇談会」,「モバイルビジネス研究会」の事務局を担当。2007年7月から現職。

(聞き手は,林 哲史=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年12月11日)