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営業職と技術職は全くの別物,それぞれを極めてこそ本物だ

梶川氏が東芝ソリューション(TSOL)の社長に就いてから約2年半。昨年度までやや伸び悩んだ感のあった業績も、今年度はかなり期待できるという。その梶川社長は、「営業職と技術職は全く別」とし、自分の職制を極めよと話す。TSOL独自の専門職制を導入したのも、その思いの表れだ。梶川社長にビジネスの現況と戦略を聞く。

現在の業況はいかがですか。

 かなりいい感じです。これまで売り上げがなかなか伸びない悩みがあったのですが、今年度は2006年度の約2876億円を大きく超え、3100億円はいきそうです。営業利益も140億円強と、10%は伸びるでしょう。

 特に金融分野の事業が好調です。ただ、製造も悪くない。親会社の東芝向けビジネスも増えています。実感としては、これまで着実にやってきたことが、ここに来てやっと評価されたというか、認められたのだと思っています。

 皆さん勘違いされるのですが、当社の東芝向け事業の売り上げは全体の29%しかありません。2003年10月の当社発足時でも25%程度でした。東芝向けを除いたほかの部分は、ほぼ9割が当社の直販です。

 これは我々が、東芝のいわゆる情報子会社ではなかったためでしょう。当初から東芝や東芝グループにコンピュータやシステムを売る立場だった。東芝の情報子会社という意味では、東芝インフォメーションシステムズ(TSIS)がそれに該当すると思います。

 先ほど金融が好調と言いましたが、この分野はもう少しで基幹側にも手を出せるところまで来ました。東芝にはメインフレームはありませんが、もともとOCR(光学式文字読み取り装置)の導入などで、金融分野の顧客をたくさん抱えていたのです。そういう事務周りのシステムをずっとやって来て、それが信頼につながり、ようやくアプリケーション分野に入り込み始めたというところでしょうか。

TSOLの得意な分野は。

 簡単に言えば、システム開発とプラットフォーム側の保守・サポートの二つ。今は特に、システムの運用そのものを獲得できないかと力を入れています。売り上げの中のストック系ビジネスの割合は3割程度ですが、これをもっともっと大きくしたい。そのためには運用の獲得が重要です。

 当社は保守サポートには強みを持っています。システムの運用側からの連絡を受けて、それをメンテしたりメーカーにつなげたりといったビジネスです。しかし運用自体は、そのユーザー企業自身がやるケースがまだ大半。ストックの厚みを増すという点からも、ぜひ運用を取りにいきたい。そのためには、アプリケーション開発の獲得が最も早道だと思います。

 ただ、一口にアプリケーション開発の受託といっても、そう簡単ではない。まずサポート力が認められて、信頼を勝ち得た上でないと任せてはもらえないでしょう。開発力の強化は当然として、いかに相手の信頼を得るか。そこが勝負だと思っています。

 大規模案件だったりすると、ユーザー企業のすぐ近くにビルを借りて技術者を置いたりもします。これも相手とのコミュニケーションを良くするためであり、互いに信頼し合うベースを築くためです。

営業体制はどうなっているのですか。

 当社の営業は、支社まで含めると約500人。体制は少し独特で、営業事業部という組織の中に全員が入っています。事業部という名前ですが、位置付けはプロフィットではなくコストセンター。しかし、売り上げや粗利・マージン、受注件数といった指標で厳密に評価しています。

 その評価指標も毎年見直しています。極端に言えば、その時の会社の方針によって評価ポイントの比重を変えています。設立当初は利益重視だったから、利益が確保できているかどうかに重みを置いていました。今はようやく成長路線に乗り始めたので、対前年の成長率の比重を上げています。

 このように営業は完全に独立しており、他のさまざまな事業部の中にいるSEとは一線を引く存在です。営業と技術の間の異動もない。製販一体型とは逆の形態です。

 背景には、当社が顧客ごとのアカウント制を敷いている点があるでしょう。お客様にとっては窓口は一つで、当社の中で案件ごとに各事業部に振り分けます。営業が事業部の中に入ってしまうと、どうしても複数の人間が1社のお客様に押しかけることになってしまうからです。

 アカウント制を敷いているということは、お客様が比較的大規模ということと密接に関係します。だいたい年商1000億円以上が当社がターゲットとする顧客層で、500億円や100億円クラスの層は関連会社に任せています。

梶川社長の中では、営業社員と技術社員(SE)は別の存在に近いということでしょうか。

梶川 茂司(かじかわ しげじ)氏
写真:柳生 貴也

 そうです。両者は全く違いますね。技術部員は本当の営業はできない。だから相互のローテーションなど意味がないし、これまで一度も異動の発令をしたことはありません。

 私は、営業なら営業を極めろ、技術なら技術を極めろと言っています。もちろんお客様とうまく会話できる術を持った技術者はいますよ。でもそれは「営業センスがある技術者」というだけのこと。営業だって同じです。技術センスを持てとは言いますが、いくら勉強したって技術者にはなれません。だからそんなところで無理するべきではない。

 当社は営業、技術とも7段階の専門職制を設けており、それぞれの中で能力を高めてもらっています。7がレベルとして最も高いのですが、このクラスになると技術やテクニックではないんです。「人間力」がなければだめ。今は営業、技術とも一人もいません。

 この専門職制度は東芝本体にはなく、当社が独自に作った制度です。どれだけ両者を峻別し、それぞれの中で能力を高めることが重要と考えているか、分かっていただけると思います。

 さきほど「人間力」と言いましたが、実は3カ月に一度、「人間力講座」と題するセミナーを全社員に向けて開催しています。講師はズバリ、「苦労してきた人」。カレー屋さんの方だったりとか、業種にかかわらず人として苦労を体験されてきた方たちです。これは本当に勉強になり参考になる。

 当社の社員も、会う方が経営層だったり経営企画のトップの方だったりすると、幅の広い知識や考え方を持っていなければ話が続きません。自分を磨き視野を広めるためにも、この講座はとても役立っていると思います。

オフショア開発に積極的とお聞きますが。

 10年ほど前に、中国の東軟集団有限公司(Neusoft)に資本を入れてから、ずっとこの会社とお付き合いしています。彼らも当社のためにずいぶん人員を確保してくれています。

 東軟集団は上海と大連、瀋陽、成都などに拠点がありますが、中心は瀋陽。瀋陽の幹部は皆、日本語がペラペラです。これはオフショアを進めるために、産学挙げて日本語教育に力を入れてきてくれたおかげ。中には東芝クラスなんて講座があると聞いています。取引額は半期で20億円といったところ。もちろん増やしていきます。

 当社のオフショアでちょっとユニークなのは、日本語で書いた東軟集団向けの仕様書を、自動チェックする仕組みがあることです。相手は日本語がうまいといっても完璧ではない。だから「この日本語だと中国人は誤解しかねない」という日本語の表現を自動的に抽出して、アラートがかかる仕組みを作りました。当社は日本語処理などをやっていたので、その技術を生かしたものです。

 この仕組みができてから、双方のやり取りを相当効率化できました。数年前に比べたら、案件も人も何倍にもなっていますから。極端に言えば、中国企業向けの日本語仕様書の標準形を作っているようなものですね。

東芝ソリューション 取締役社長
梶川 茂司(かじかわ しげじ)氏
1951年生まれ。東京都出身。73年に早稲田大学理工学部機械学科卒業後、東京芝浦電気(東芝)入社。99年4月にコンピュータネットワーク企画担当グループ長、2003年4月プラットフォームソリューション事業部事業部長、同年10月に東芝ソリューション執行役員、2004年6月に同社取締役に就任。2005年6月に取締役社長。趣味はミニカーの収集。

(聞き手は,宮嵜 清志=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2007年12月12日)