
マイクロソフトは,Windows Mobile最新版のリリースやKDDIと協業してSaaS(software as a service)を展開するなど,企業向けネットワーク関連の製品/サービスを次々に投入している。樋口泰行代表執行役兼最高執行責任者に,ユニファイド・コミュニケーション戦略やSaaSへの取り組み,今後のスマートフォンの方向性などについて聞いた。
ユニファイド・コミュニケーション・ツール「OCS」(Microsoft Communications Server 2007)を2007年10月に発表した。手応えはどうか。
パートナー企業向けの説明会や製品発表会などでデモをしたところ,非常に良い手応えを得られた。実際に,具体的な商談も出始めている。
ワークスタイルを変革したいという企業ユーザーのニーズとも合致しており,ユニファイド・コミュニケーションが普及する時機が到来していると感じている。
システム的にもハードウエアのパフォーマンス向上とソフトウエアの進化によって,様々なコミュニケーションを統合的に実現できる環境が整ってきた。その意味では,まさに機は熟したと言える。
私自身もOCSを活用しているが,プレゼンスを確認してメールや電話などを臨機応変に使える環境はとても便利だ。複数のコミュニケーション手段の中から,時と場所に応じて適切な手段を選んで使うことによって,生産性は向上する。メールばかり使っていてもだめだし,会話の内容によっては電話や直接会って話すことも必要だ。その点で音声,ビデオ,メール,IM(instant message)などから,瞬時に最適な手段を選べるユニファイド・コミュニケーションは,理想的な環境だと思う。
企業がユニファイド・コミュニケーションを導入する意義は。
企業は,激しい競争にさらされている上に,グローバル化にも対応しなければならない。その中で成長を続けるために,コミュニケーションを効率化して生産性向上を図る必要に迫られている。その手段として,ITが果たす役割は小さくないはずだ。
ワークスタイル変革の事例として,OCSを在宅勤務者用に導入している企業がある。この企業では家庭でも会社とほぼ同じ環境で仕事ができ,これに合わせて評価制度もしっかりと整えられたため,職場復帰がスムーズにできたという。
通信業界では,3月にNTT東西地域会社がNGN(次世代ネットワーク)の商用サービスを開始する。ネットワークが広帯域になり,かつ信頼性が向上していく中で,日本の通信サービスに期待することは。
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写真:辻 牧子 |
通信事業者は,ネットワークの付加価値として提供するコンテンツやサービスを重視しようという傾向が見られる。
マイクロソフトはこれまでソフトウエアのライセンス販売というビジネスモデルを築いてきた。このモデルが,未来永劫に続くなら,非常に楽だ。
しかし,これだけネットワークの帯域幅が広がって信頼性が向上したうえに料金が安くなってくると,当然ネットワークを通じてソフトウエアを提供することを視野に入れなくてはならないだろう。
というのも,企業ユーザーのニーズに応えるために,選択肢を用意する必要があるからだ。経営方針として資産を持つ企業がある一方で,資産を持たない企業もある。さらにIT部門を持たない中堅・中小企業が,競争力強化のためにネットワークを通じて,ASP(application service provider)が提供するソフトウエアを利用したいというニーズもある。
我々は今後,サービスのプラットフォームを提供できる企業にならねばならないと考えている。それに加えて,将来はネットワーク経由でもローカルでもソフトウエアがシームレスに利用できる時代が来るという前提でソフトウエアを開発していく。
通信事業者の中には,ネットワーク上でどんどんアプリケーションを提供すべきだという意見もある。パッケージ・ソフトを開発する立場から見て,こうした意見をどう思うか。
それはユーザーのニーズ次第だ。ニーズがあるのであれば,それに応えていかなければならない。
ただし,広告収入を前提にしてすべてのアプリケーションを無償で提供するという考えはない。一般ユーザー,中堅・中小企業,大企業というように顧客ごとの要望に対して,しっかりとした体制でサポートする仕組みが必要になるからだ。ネットワークの進化に伴ってあらゆるアプリケーションがネットワーク上で提供されることに対して不安はないのか。
マイクロソフトのさまざまなソフトウエアをネットワーク経由で利用できないのは,ユーザーにとっては不便なことだ。Officeなどユーザーが慣れ親しんでいるプロダクトが多いからだ。
不安というよりもむしろ,ネットワーク経由のソフトウエア提供でもしっかりとユーザーをサポートするビジネス・モデルを作り上げていくことが重要だと考えている。
そのためにも,エンドユーザーをよく理解しているパートナーとの協力が必要だ。例えば学校に強いシステム・インテグレータだと,学校側のニーズをよく理解した上で,ニーズによく合う形のシステムを構築して提供する。このように,各業界のユーザーに密着して,ニーズに対応したソフトウエアやサービスを提供する取り組みが将来的にも必要とされるだろう。
>>後編
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(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2007年12月19日)