
2004年6月に社長に就任して以来、4年目の年度を迎えた上野社長。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)、SS(ソフトウエアソリューション)、SI(システムインテグレーション)を柱に13期連続で増収を果たしたものの、この数年は収益面が伸び悩んできた。しかし直近の2007年上半期は業績を大きく向上させている。上野社長に戦略を聞く。
2007年度中間期の連結決算では、主力3事業であるBPO、SS、SIの売り上げが前年同期比でそれぞれ9.7%増、20.9%増、23.7%増と非常に好調でした。
何か特別な施策をしたということはないんです。当社の売り上げの過半を占めるBPOは、超過需要の状況にあります。市場動向や顧客ニーズに素直に対応すれば、自然体でもこのぐらいの成長はするだろうと思っています。
とは言え、今年度は確かに追い風が吹いていますね。例えば未払い金問題などに端を発した保険会社の業務是正など、金融庁関連で一連の是正・適正化の動きがありました。これにはまず顧客情報の正確な把握が必要になります。ここに当社の住所情報や名寄せ管理ソフトが、ピタリとはまったわけです。
SIでは銀行を中心に需要超過で技術者が足りない状況。これに引っ張られてSEの稼働状況がずいぶん上がりました。加えて2006年に買収した企業2社(07年に合併し現在はアグレックスファインテクノ)が業績を押し上げています。
好調なBPO市場の今後の需要見込みはいかがですか。
労働人口が減少する中、これからも大きく発展すると期待しています。米国でBPO事業を展開するACS社の売り上げは当社の20倍以上もありますが、それでも年率20%以上の成長を続けている。日本ではさまざまな規制緩和が始まったばかりで、BPO事業は大きな伸びが見込めます。
ITサービス全体を見ても、そもそも日本は米国と比べてIT化投資の蓄積が少ない。少し古い統計ですが、GDP(国内総生産)に占めるIT資本ストックの割合は米国の32%に対し、日本は16%しかありません。特に、サービス業など非製造業のIT化投資の蓄積が少ないのです。逆に言えば、これから急速にIT化ニーズが高まるのはこの分野です。
ただ問題は、我々の主に人的なリソースがこれに対応することができないということ。社内の生産性を高めてしっかりしたリソースの供給体制を築き、営業利益率を10%台の後半に持っていかないとなりません。
当社は2015年3月期に売上高1000億円を達成する長期ビジョンを進めており、現在は2008年度に終了する第1ステージ(中期経営計画)の真ん中の年度に入っています。この計画の数値目標は売上高280億円、営業利益が20億円。営業利益の20億円は、1年前倒しで計画を達成できそうです。
それでも、280億円に対して20億円だと営業利益率は7%強。低くはないが、決して高くもない。今は、より高い成長への枠組みを作っている最中であり、その中心にBPOがあるのは間違いありません。
高い収益率を得るためのBPOとは、どのようなものでしょう。
![]() |
写真:柳生 貴也 |
BPOにもさまざまな形態があります。確実に言えるのは、例えばデータエントリー(入力代行)だけといった単純なものでは駄目だということ。より顧客のコアな部分に肉薄する、高度で複合型のBPOにでなければなりません。これなら当社の中でいろいろな工夫ができるので、価値を高められます。
当社は自身を「バリュープロセス・プロバイダー(VPP)」と呼んでいますが、これはお客様の付加価値を上げるためのプロセスを提供していくという意味。我々が提供するサービスあるいは仕組みを活用されることで、どれだけお客様のパフォーマンスを上げられるかという点こそが最大のキーポイントです。
そうでなければ、結局は「いくらでやってくれるの?もっと安くならないの?」という世界に入ってしまいます。この意味からすると、「アウトソーシング」という言葉はコストダウンやリストラといった色彩が濃く、あまりいい言葉ではありませんね。
実際に、高付加価値型のBPOの実例はあるのでしょうか。
典型的なのは決済ビジネスサービスです。当社と銀行、信販の3者の機能を融合させた代金回収サービスで、請求書の発行から売掛金の消し込みまでの一連の業務を代行するものです。
例えば消費者がある会社の商品を購入する場合、代金の支払いには電子決済をはじめ口座振替、銀行振り込み、郵便為替、コンビニエンス決済など多種多様の手段があります。これらすべての代金回収チャネルをカバーしながら、請求書の作成・送付から代金受領、売掛金データの消し込みをトータルにサポートする。当社と銀行、信販会社が共同で開発したもので、アグレックスの名前こそ外部には出ませんが、実際に銀行さんが自社のメニューとして販売しており、普及し始めています。
こうなると、もうコストダウンとかリストラといった世界ではなくなります。新しいプロセスで新しい価値を提供するわけですから。しかも顧客が増えれば、ストックビジネスとして収益が積み上がっていく。
ほかにもありますよ。先ほどの保険会社の業務是正に関連したものですが、ある保険会社が特定の顧客に対し、特約を含めた他社のさまざまな契約まで完全に把握して確実なサービスを提供するための仕組みがそうです。今期から始めたのですが、当社は保険会社と保険会社のやり取りを仲介しながら、コンタクトセンターを使って顧客からの窓口にもなって業務をサポートしています。
実際に世の中に「業務」がある以上、さまざまなことが考えられます。そして、BPOにはITサービスの一ジャンルにはとどまらない広がりがある。要は「何でもあり」なんです。
しかし、そこにITの技術や事務処理プロセスのノウハウを織り込まないと付加価値が生まれない。当社の強みはBPOに加え、SIと独自のソフトウエアを持っており、自前でほとんどのことができる点にあります。現在の流れを、特需による一過性の事業にせず、いかに良い形で継続させるか考えているところです。
利益率向上のために、他の策は。
冒頭で「自然体でもこのぐらいの成長はする」と申しましたが、今期の成長には各拠点センターにいる社員の努力を欠かすことができません。各拠点はプロフィットセンターとして自分たちの拠点の業績向上だけに注力してきたのですが、会社として全社の収益確保を重視する方針を掲げたら、今期は業務のやり方が自主的に変わりました。社員の実行力には頭が下がります。
先ほど人的リソースの供給の問題を挙げられましたが、社員の育成はどうしていますか。
基本は新卒の育成におきたいと思っています。当社自身が事業モデルをVPPとして差異化しようとしているのに、中途採用の社員が以前の会社と同じように働いていたのでは何にもならない。
これまでは、供給力確保のため即戦力になる人間を中心に入社させていました。去年で言えば新卒60人~70人に対して、中途採用が200人強でした。
この体制のままでは不十分です。今後はゼロから、我々のノウハウをきちんと教え込んでいくことに力を注ぎたいと思っているんですよ。
もう一つは、日本にいる外国人のパワーをシステム開発面に生かすこと。ある程度の人数を組織的に確保できれば、相当な戦力になるでしょう。もちろん中国などでのオフショアも活用はしてきます。ただ、オフショアについては、データエントリーのような、どちらかと言えば単純作業に属する分野に限定するつもりです。
|
(聞き手は,中村 建助=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2008年1月9日)