
シスコの欧州地区トップを経て日本法人の代表に着任したオーバービーク氏は、「個人の時代」の到来に合わせ、ユニファイド・コミュニケーションの重要性を説く。NGN(次世代ネットワーク)については、その上でデータ、音声、動画、モバイルのクアッドプレイを実現することが、日本に来て最もエキサイティングな仕事の1つと話す。
2007年11月に日本法人のトップに就任して約3カ月がたちました。日本市場をどうとらえ、どのような戦略を打ち出していきますか。
私が日本に来て驚いているのは、日本の消費者が非常に素早く新しい技術を取り入れていることです。もちろん、企業も同様です。
そのような技術に敏感な市場に対して、シスコは適切なタイミングと、適切な手段で技術を提供していきたいと思います。日本のユーザー企業は、ITやコミュニケーションがビジネス上の競争力に与えるインパクトをよく理解しています。シスコにとって、これは非常に大きなチャンスです。
5つの市場を1つにとらえる
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写真:山田 愼二 |
シスコは、テレコミュニケーション業界、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)、大企業、中堅・中小企業、一般消費者のすべての市場に注力していきます。なぜなら究極的にこれらは1つになるからです。
5つの市場の間には、面白い連携があります。例えば、ある大企業の社員が、日中は中小企業の人と商談をする。車の中で、顧客と話をするかもしれない。家に帰ればテレワーカーになる。週末は、消費者としての経験もする。そういった意味で、市場セグメントや場所の区別がなく、いろいろな方法でコミュニケーションができて、いろいろな方法でコラボレーションできることが重要になります。
シスコは、全セグメントで活動しているので、それを強みとしているわけです。今後の我々の事業はネットワークを単につなぐビジネスから、コラボレーションのビジネスに移行します。まずは、シスコ自身が新しい技術を取り入れて、何が起こるか、メリットは何か、課題は何か明らかにします。その経験を通じて、ユーザー企業を支援していきます。
3月にNTT東西がNGNの商用サービスを開始する予定です。シスコはNGN関連分野ではどんなポジションをとっていく考えですか。
データ、音声、動画、モバイルのクアッドプレイを統合プラットフォームで実現できるのは我々の強みであり、ビジネスを優位に展開できるでしょう。日本に来た私にとって最もエキサイティングな仕事です。
欧州の友人に「日本では自宅の情報コンセントにLANケーブルをつなぐと、すぐに100Mビット/秒のインターネットへの接続環境が得られる」と言うと、すぐには信じてもらえません。それほど素晴らしいインフラが日本には既にありますが、さらに高度になるわけですから、間違いなく日本はNGNのリーダーです。その上で利用できるサービスはいろいろなことが考えられます。
日本は、必ずNGNを実現して成功させるでしょう。非常に素晴らしい例になると思いますし、経済全体も変革されるのではないでしょうか。
消費者のほうがIT活用で先行
ITの利用に関して、最近は企業よりも一般消費者のほうが先行しているように思うのですが、どう見ていますか。
その通りだと思います。ビジネスモデルの大きな変化について歴史を振り返ると、80年くらい前に、職人による芸術的な仕事が大量生産に移行しました。この15年間で起こっているパーソナライゼーションはそれに匹敵する変化です。大量生産時代の1対nのトップダウン型から、個人の能力を重視した1対1型時代へと変化したのです。
企業は、この変化に応じてアーキテクチャを変えなければいけません。大量生産時代のビジネスモデルは非常に固定的でした。パーソナライゼーションの時代には、リアルタイムに変えていく必要があります。リアルタイムに情報を収集し、次の日に起こることを予測しながら判断しなければ、競争力が削がれます。
そのためにシスコは今、リアルタイムでさまざまな決定が下せる、ダイナミックな情報プラットフォームとしてユニファイド・コミュニケーションを推進しています。
ユニファイド・コミュニケーションはまだ一部の企業しか採用していません。今後、どのような形で企業に浸透していくのでしょうか。
ユニファイド・コミュニケーションは、最初はいわゆる従来型の電話の置き換えになります。管理は単純でトレーニングは必要ありません。それを拡張し、プレゼンス、映像、インスタント・メッセージングを付け加えます。少しずつ体験し、学んでいくわけです。
アプリケーションだけでなく働く場所についても、どんな新しい仕事の仕方があるのか学んでいきます。例えば、多くの企業は、グローバル化の流れの中で組織を仮想化せざるを得ません。では、バーチャルな組織の場合の管理をどうするか。これは、今までとは全く違う、新しいスキルです。技術を常に予測、学習し、将来のユーザーがこれまでのユーザーの経験から学べるような形にします。
変化を嫌うのは日本だけではない
さらに、ソーシャル・ネットワーキングを考えると、参加者から重要な経験が集められます。そういった体験をすべてアプリケーションのプラットフォームに入れていくのです。ユニファイド・コミュニケーションによってビジネス・プロセスを変えることができるはずです。
>>後編
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(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年1月8日)