
2008年4月1日、共同ち持株会社のITホールディングスを設立し、インテックホールディングスと経営統合する。統合後の年商は3250億円に達する見込みで、SIerの第2位集団に仲間入りする。ただ両社の経営統合には、他社からの買収を避けることが狙いだという批判がある。統合の真意と今後の戦略について、TISの岡本晋社長に聞いた。
経営統合の理由がよく分からないという声をよく聞きます。買収されるのを嫌って、インテックと組んだという見方をする人すらいます。
全く違います。当社とインテックとの経営統合のような業界再編の動きは、この1年で必ず大きなうねりとなってきます。だったら、先行者になった方がいいじゃないかということです。
顧客企業のシステム化ニーズは減らない。それどころか、一つひとつの案件は大きくなっています。お客様から見たときに、大型の案件をこなす企業には、一定以上の大きさが欲しいのです。
大きさとは何か。一つは動員力です。もう一つは抗堪性というか、リスク耐久力になります。
現実に、ここ3年か4年ぐらいの動きを見ていると、超大手の企業は、自社のシステムを作ろうと考えたときに、RFP(提案依頼書)を10社ぐらいの特定の企業だけに渡すようになってきました。具体的には、大手メーカーと上位数社のSIerです。
インテックホールディングスとの経営統合で規模が拡大しますか。
TISから見たときには、まずインテックが持っている顧客層の幅広さです。5000社ぐらいあります。三菱東京UFJ銀行や三菱電機情報ネットワークなどに加えて、大企業から小企業までを網羅しているわけです。その中にはTISにとって魅力的な顧客企業があります。
それからインテックは、富山県をはじめとする各地の拠点に開発の専門部隊を持っている。動員力も高まります。
3番目は、インテックの技術力です。通信関連の技術力やノウハウには見るべきものがあります。
インテックにとってのメリットはどうか。いわゆる基幹系の業務システム開発力という観点からすると、元請け企業になり、プロジェクトマネジメントして、アーキテクチャの最適化を図りながらシステムを開発する力は改善の余地がある。この部分では当社から得るものがあるのではないですか。
規模の拡大は重要ですか。
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写真・柳生 貴也 |
10年前ほど前のTISの売上高はおよそ600億円ぐらいです。自力でほぼ2倍。買収の部分でさらに2倍に伸びているわけです。自力で成長できた部分については、需給バランスを常に強気で見ていたのが効いています。
当時の社長からは、何で新入社員を200人も採るんだと、100人ぐらい採っておけばいいじゃないか、という話が年中あった。それでも絶対に供給側が過剰になることはないから、採用しておかないと、生産設備がなくなりますと言い続けて採用を継続しました。これが成長を支えたわけです。
10年前に当社と同じような規模だったSIerがすべて成長したわけじゃありません。それほど伸びなかった企業を見ると、供給力が過剰になることを恐れて採用を抑えたか、多角化を進めすぎたかです。
成長過程でリスクをとりすぎた所はありませんか。200億円近い負担が発生したという大型案件(本誌注:JCBの基幹システム再構築プロジェクトのことだが、岡本社長は社名を明らかにしない)もありました。
人員がいたから、積極的に採りにいかざるを得なかったのではなく、環境が整っていたからどんどん案件を採りにいった面はあったかしれません。
大型案件の失敗も含めて、経営に負の影響を与えるプロジェクトがなければ、今回の経営統合とは別のシナリオがあり得たのではないですか。
仮定の話は答えづらいですね。すべてが順調に進んでいれば、売上高は3000億円を超えていたかもしれません。
確かにあの大型案件は成長を止めました。金銭面もさることながら人的リソースの負担が大きい。全体の2~3割の技術者がかかわっているわけですから。取れたはずのビジネスチャンスを獲得できなかったということはあります。
大型案件から得た教訓は何になりますか。
契約が重要だということを、あらためて認識させられたということでしょうか。
現実に工程ごとに完全に分けて契約していなかった面があった。外部設計が終わって、内部設計に進もうというときに、完全にレビューせずに進んでいる部分がありました。仕事に対する厳しさが不足していた感じはしますね。
統合を控えていますが、赤字プロジェクトの対策は十分ですか。
社長になって4年経ちましたが、制度はほぼ整備できました。
受注の可否は提案段階で確認しています。開発段階では、大きな案件は全社レベルで、中小案件は事業部で、途中経過の状況を検証する制度を導入しました。
社員の能力向上の面でも手を打っています。能力のある社員にはもっと働いてもらいたい。現在では、能力を把握するために、評価会議をつくってITSS(ITスキル標準)のレベルをチェックするところまできました。
開発フレームワークの整備にも力を注いでいます。技術者が参照できるようなデータベースも作りました。
最終仕上げと言いますか、契約についても見直しています。大型案件の契約は、あえて言うなら「1万円ぽっきり飲み放題、食べ放題」といった内容でした。
今後はこうした契約を認めません。可能な限り工程ごとに契約していきます。官公庁のように、どうしても工程ごとに契約するのが難しい場合でも、契約内容を各工程で見直す形を取ります。気が付いたら、大赤字ということがない契約形態に切り替えるわけです。
4月から社長として舵を取られるITホールディングスはどんな会社になりますか。
アメリカ合衆国といったところでしょうか。各州に当たる事業会社が、個々に特色を持っていますからね。これを全体へ還元していく。半年くらいできちんとした形をお見せできると思います。
統合効果で、07年度(08年3月期)に2社の合計で3250億円を見込んでいる売上高を10年度には4000億円に拡大し、同180億円の営業利益も400億円まで伸ばす目標です。ハードルが高すぎませんか。
できます。(お客様は)行列していますよ、本当に。
有望なのは広義の金融ですね。それからグローバル化しようとしている製造業も、これからは大きなチャンスがある。
それに3、4年もすると統合効果が出て、成長力が高まります。規模が小さかったから成功したと言われるかもしれないけれども、当社が子会社化したクオリカもAJSもユーフィットも、統合して3年も経つと、自力で成長するエネルギーが出てきました。
それから、重複投資を避けたり間接部門を整備したりするだけで、10億円単位の利益を出せます。
インテックも当社も、お互いが一生懸命やって、付加価値を高めていこうということです。
岡本さんご自身はITホールディングスの社長に就任される予定です。
私が統合効果を出していかないといけないことでしょうね。もう3、4年は務めることになります。ただ事業会社の社長は辞めますよ。事業会社を持ったままで、これだけ大きなグループを経営するのは無理です。
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(聞き手は,中村 建助=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2008年1月30日)