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【後編】ITの限界を知る人材こそ理想のプロセスを構築できる

>>前編 

グローバル・ソーシングの功罪で言えば、どんなマイナス面がありますか。

 気をつけないと、社外への依存度が高くなり過ぎることです。海外ベンダーに限らないのですが、「上流から下流まですべて任せて下さい」という提案が引きも切らない。確かにベンダーのサービスは充実して、構築フェーズは社外に任せやすくなりました。

 一方で、システムをビジネスの変化に対応させていく仕事は、社内のIT部門が自ら取り組むべきなのです。欧米を中心に、本来は内製化しなければならない作業まで、安易に社外に出してきたのではないかと反省しています。「ITコストを変動費化しませんか」という提案をよくベンダーからいただきますが、ITの固定費は経験とノウハウそのものなのです。

 内部に経験やノウハウを蓄積するために、中国の大連とインドのバンガロールに自前の開発拠点「オフショア・リソース・マネジメント・センター(ORMC)」を作りました。日本はもちろん、欧米、中国の開発案件をここでせき止めて、社内に残すべき案件、外部に委託していい案件を見極めるようにしたいのです。

 ORMCには、最適なパートナーを選ぶ力も蓄積したい。現地のベンダーと一緒になって、プロジェクトを推進できる体制を整備してもらいたい。

苦労は覚悟している

日本企業で、そこまで海外のコントロールを効かせようとする取り組みは珍しいですね。

 そうかもしれませんね。ただし、まだ成果が目に見えるようにはなっていない。手間がかかるし大変ですが、苦労は覚悟の上で取り組んでいます。これも“あるべき姿”の追求なのです。

ORMCの運営に関して、具体的にどのような苦労がありますか。

 いたずらに規模や利益を追いかけてしまいがちです。現地ではジョブ・ホッピングも激しい。ソニーに長くいてもらいたい人材を雇用して育成し、どうつなぎ止めるかがチャレンジです。

 中国のORMCで採用した人材を毎年2~3人日本に連れてきて、IT部門の仕事をさせたりもしています。今は東京だけですが、徐々に工場のIT部門にも配置していきたい。社外に任せてしまえば、こんな苦労は一切不要です。だけど、あえてやります。

 社内では、「ISのケーパビリティ・モデル」と呼んでいますが、グローバルでIT部門のリソース配分を最適化するプロセスを整備しています。このモデルのなかに、ORMCやシステム子会社のソニーグローバルソリューションズも組み込んでいます。

ケーパビリティ・モデルは、いつごろから意識していますか。

 2004年9月にCIOになった時からです。まず国内を中心にモデルをデザインして、昨年からグローバルに横展開を始めました。

機能よりアーキテクチャ

変化が激しい時代に求められるシステムづくりの考え方は、どのように変わりますか。

長谷島 眞時(はせじま・しんじ)氏
写真:中島 正之

 システムは変更に時間がかかります。これは昔も今も同じです。確かに技術の進歩で構築スピードは上がっていますが、ビジネスで起きている変化のスピードと比べると、両者のギャップはむしろ広がっている。

 だとしたら、変化の兆しをいかに早くつかむか。変化に対応しやすいアーキテクチャにできるか。この2つでしょうか。システム構築においては、ファンクションに目が向きがちですが、変化に素早く対応できるかどうかは、アーキテクチャで決まるのです。

ITアーキテクトはそろっていますか。

 足りません。もっと育成しなければならない。ITはソリューションです。そのソリューションを適用できる人材がITアーキテクトです。ソリューションを知っている人は強いですよ。ITの限界を知っているということですから。限界を押さえた上で、理想のアーキテクチャとプロセスを考えていくことが、非常に大事だと思います。

 ITアーキテクトだけでなく、ビジネス・プロセスをデザインできる人材も必要です。ITの人だけでIT部門を固めるのはよくありません。

CIOにはITの世界の判断力が必要

CIOはビジネスを知っている事業部門出身の方が就くべきだという考え方もあります。

 経営トップが求めるのは、ビジネスの言葉でITを語れる人材です。IT部門の人はビジネスの言葉でトップと話すのが苦手なケースが多い。一方で、IT部門は多額の費用を使う。そこにある種の、経営トップのいら立ちがあるのは否めません。

 とはいえ、IT部門の責任者なのですから、ITの情勢を読む力、あるいはコアコンピタンスを失わずに、どこまで社外に任せるのかを考える力は欠かせないでしょう。CIOにこれらの力が足りなければ、IT部門は弱体化してしまいます。企業は競争力の源泉を失うことになります。ITの世界の判断が適切にできる人材は、どのような業務経験を備えているべきなのかを考えることが、1つのヒントになるのではないでしょうか。

 ですが、経営トップは往々にして、その時に起きている問題を解決するのに最もふさわしい人を選ぶものです。その質問の答えは、経営トップに聞いてみないと分かりません。

ソニー CIO(最高情報責任者)ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長
長谷島 眞時(はせじま・しんじ)氏
1976年4月ソニー入社。ほぼ一貫してIT部門に従事する。欧米の現地法人で工場の立ち上げに伴うシステム開発なども経験した。96年4月、インフォメーションテクノロジーカンパニー経営システム部統括部長。2004年9月にCIO就任。ソニーグローバルソリューションズ社長を兼務。05年7月、ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長。1951年7月生まれの56歳。

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年2月18日)