
「人手が足りない、予算が足りないといった制約条件を外すためにグローバル・ソーシングが必要なのだ」。ソニーの長谷島眞時CIO(最高情報責任者)ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長は言い切る。「IT部門の実力が企業競争力を決める」との信念に基づき、IT部門は「どうすれば、あるべき姿に到達できるかを考えるべきだ」と強調する。
ソニーは日系グローバル企業の代表のように言われますが、グローバル・ソーシングの歴史はどれくらいですか。
長いですよ。特にインドのベンダーとは10年以上の付き合いですね。先行したのは米国の拠点です。オンサイトだったり、オフショアだったり。中国はそれほど古くありません。ここ数年というところです。
付き合うベンダーはグローバルで統一していますか。
いえ、そこまでは縛っていません。どこのコンサルティング企業でも、SIベンダーでも、強い地域や領域がありますから。もちろん、契約をグローバルで結んでバイイング・パワーを効かせる工夫はしています。
ソニーは、昔から「グローバル・ローカライゼーション」という、地域に根付いた経営を進めてきました。マーケットのあるところで製品を生産して供給する考え方です。海外現地生産のはしりだったのです。そういう歴史的な背景からして、地域の自立性が非常に高い。
もちろん共通のルールはあります。ですが、例えば販売の仕組みなら、商習慣、言語、通貨が異なります。地域単位で、それぞれの拠点がローカルに考えながら、「ところで日本はどうやっているんだ」という具合に、情報を共有しながら取り組んできたのがこれまでの状況です。発注ベンダーであれば、リージョン単位で絞り込むのが現実的です。
海外でプロジェクトの失敗を体験
IT担当として海外駐在の経験をお持ちですね。
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写真:中島 正之 |
1976年の入社から31年間、ずっとIT関連の仕事をしていますが、その間、国内だけでなく海外の事業所、工場、販売会社などでの勤務を経験しました。昔はプログラムを作っていましたし、新システムの開発プロジェクトを担当したこともあります。IT部門の仕事は、何でもやりました。
最初はメキシコに赴任しました。入社3~4年目のころです。英語もできないのに行けと言われて。それから米国サンディエゴ工場や販売会社です。その後、英国に行って、また米国に戻ってから、メキシコやピッツバーグの工場の立ち上げなどに携わりました。現地のベンダーを使って、工場のシステムを開発したりしました。
海外ならではの苦労も多かったのではないですか。
書店には、「プロジェクトでこれをしたらいけない」といった本が並んでいますよね。開発の途中でOSを変更したらいけないとか、未完成のシステムを稼働させると運用で必ずトラブルが起きるとか。そういう事柄を、幸か不幸か一通り経験しました(笑)。
いろいろな事情が重なったのですが、いけないことをすると、やっぱり失敗するのです。知識として知っている人はたくさんいるでしょうが、実際に経験したことがある人は、そう多くはないと思います。
解決の糸口はどのように見つけたのですか。
ヒト、モノ、カネを潤沢に与えられて仕事をしている人はいません。ビジネスの最前線は、いつも理不尽なことだらけです。急な価格下落に追随できずコスト削減が至上命題の状況でも、売り上げと利益を増やさなければならない。矛盾ですよね。ただし、その理不尽さを何とかしようと考えて、正しいことに向かっているならば、突破口は見えてきます。取り組もうとしていることが間違っていなければ、誰かが手をさしのべてくれたり、状況が変わったりするものです。
グローバル・ソーシングには何を求めていますか。
現在、IT部門には世界で2700~2800人います。これは決して多くない。仕事量からすると、むしろ少ないぐらいです。ただ、「人手が足りません、お金がありません、時間がありません」と言い訳していても仕方がない。リソースとコストの両面から、IT部門の制約条件を取り払うことです。
「トリニトロン」に象徴されるブラウン管の時代は、商品力が競争力の源泉でしたから。しかし、家電のデジタル化によって競争条件が変わりました。薄型テレビに代表されるように、商品そのもので差異化するのが難しくなりました。むしろ、在庫を抑えながら顧客が買いたいときに商品を供給する「オペレーション力」が競争力を左右するようになったのです。
今やIT部門は競争力の源泉
オペレーション力を支えるのは、ソリューションです。その情報システムを担うIT部門が企業の競争力の源泉なのです。
そうなると、今までのような受け身の組織ではまずい。制約条件はいったん横に置いて、自分たちはどうあるべきかを、真剣に考えなければなりません。その姿が見えてから、制約条件をどうクリアしていくのか、知恵を絞るのです。グローバル・ソーシングによって、世界から競争力のあるコストで優秀な人材を調達することができれば、IT部門の“あるべき姿”に近づくことができるのです。
>>後編
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(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年2月18日)