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【前編】組織の壁を壊して全社一丸,「地道路線」で信頼を得る

「これからのマイクロソフトには組織の壁を越えたチームワークが必須。個人主義では通用しない」。4月1日付でマイクロソフト日本法人の社長に就任した樋口泰行氏は断言する。顧客の信頼を得るために「地道な取り組みを続ける」と宣言。Windows Server2008の出荷に合わせ、サポート品質の改善や技術情報の整備などを着実に実行していく決意を示した。

マイクロソフト日本法人にとって5年ぶりの日本人社長です。これから日本法人をどう舵取りしていきますか。

 まずは社内の風通しをよくしたいですね。私はマイクロソフトにとっては新参者。本社とのパイプという意味では、前任者(ダレン・ヒューストン前社長)より見劣りするかもしれません。でも日本人同士ということで、現場で起きていることや社員の悩みに対する感度は良いはずです。

 社内で起きていることへの感度をどんどん上げていき、問題点を吸い上げてアクションを起こす。たとえ悪い情報であっても、きちっと私まで上がるようにしたいですね。

 今のマイクロソフトは「電気や水道のようなインフラを提供している会社」と、お客様によく指摘されます。それだけの責任感と自覚を持て、ということです。こうした企業が問題を隠すような体質を残していては、顧客の信頼に応えられません。

 部署間の連携も深めていきます。自分の部署のことだけを考えるのでなく、部署間で力を合わせないとうまくいかない問題はたくさんありますから。現状の組織はたまたまある切り口でまとまっているにすぎません。お客様をたらい回しにせず問題を解決するには、組織横断的な動きが必要です。

具体的な方策は。

 「V(バーチャル)チーム」という制度を設けました。現状の組織形態で対応しきれない案件が持ち上がったら、必要な部署から担当者を募って仮想的なチームを作って対処します。このVチームには私が積極的に参加して、組織間の「のり付け」をしようとしています。やはり最初は上の者が入らないと、やりづらいでしょうから。

 あとはもう話が通じなくてもいいから、とにかく毎週集まって話をすることが大事です。そうするうちにだんだんと互いの波長が合ってきて、頭の中で相手が何を考えているか自然と分かるようになるはずです。

何もせずに売れる時代は終わった

顧客に対する姿勢はどう変えていきますか。

樋口 泰行 氏
写真:小久保 松直

 マイクロソフト自身をお客様により近い存在にしようと思っています。部署間の連携を深めるのは、結局のところ顧客志向、パートナー志向を強化するためです。

 何もしなくても製品が売れる時代は終わりました。当社の側から製品やソリューションの価値をもっと訴求しなければいけません。

 社員の「顔」をもっとお客様にお見せしようと考えています。営業も、その後ろにいるエンジニアもです。パートナー経由という販売形態はこれからも変わりませんが、当社の社員がもっと前面に立たなければ、お客様の信頼は得られません。

 ミッション・クリティカル・システムでは「私の仕事はここまでです」「申し訳ありませんがこっちの部署に話をしてください」などとお客様に申し上げるわけにはいきません。せめて「持ち帰って担当につないでおきます」とお預かりして、社内のVチームに持ち寄るようにしないと、顧客満足度は下がる一方です。

 各社員には仕事上の目標がありますが、これからのマイクロソフトにはチームワークが欠かせません。お客様やパートナーから見て「この人に話しても担当部署にきちんと話が通らない」と思われるようではダメです。

マイクロソフトも「大企業病」にかかってしまったのでしょうか。

 そうした面があることは否定しません。しかし個々の社員はすごくやる気に満ちていますし、ポジティブで本当によく働きます。ただ、ともすれば「個人の成績を上げていればいい」という個人主義に陥りがちな面もあった。やはり全社レベルでチームワークやチーム・スピリットを高めていかなければなりません。

 この1年くらいで、部署間の連携はかなり強化できました。マイクロソフト全体としてどういう戦略を立てて実行すべきか、組織の壁を越えたかんかんがくがくの議論も活発にできるようになりました。

企業顧客の信頼を得るには時間がかかります。

 おっしゃる通りです。企業向け事業に必要なのは、地道な努力以外の何ものでもありません。私たちの考えを伝えると同時に、それを着実に実行する。これしかないでしょう。

 当社にとっての新年度が始まる7月には新戦略を打ち出す予定ですが、そんなにびっくりするようなものではありません。組織に関する課題はたくさんありますから、年度替わりに何か改革しようとは思っていますが、これもそんなに大きな変更にはならない予定です。

 新年度に合わせて、マイクロソフトのミッションに基づいた行動規範のようなものも作ろうと思っています。日本ヒューレット・パッカード(HP)時代と似た内容になるかもしれませんが、トップが分かりやすい言葉で繰り返しメッセージを発信することが肝心だと思っています。

人の面では、古巣の日本HP出身者を企業向け事業の幹部に据えました。彼らに対しては、「泥臭いタイプ」という評価をよく聞きます。これも「地道路線」の一つですか。

 泥臭さだけで採用したわけではありませんよ(笑)。私も日本HPのOBなので、逆にHP出身者の採用については一切関与しないようにしています。あくまで社内のコンセンサスを基に、ベストな人材を確保しただけです。

 ただ、泥臭さはすべてではないにせよ大事な要素です。パートナー企業と一緒にシステム構築の修羅場をくぐり抜けてきた人、パートナー企業に共感してもらえる人、あるいはお客様に謝りに行ったときに「この人が来たらもう仕方がない」と思ってもらえる人。そういう泥臭さがこれからのマイクロソフトに必要であることは間違いありません。

>>後編 

マイクロソフト 代表執行役 社長
樋口 泰行(ひぐち・やすゆき) 氏
1980年、松下電器産業入社。97年、コンパックコンピュータ(当時)に入社。日本ヒューレット・パッカードとの合併後、2003年に同社社長に就く。05年、ダイエー社長に就任し、経営再建を主導。07年、COO(最高執行責任者)としてマイクロソフト日本法人に入社。08年4月1日から現職。米国本社のコーポレートバイスプレジデントも兼務。1957年11月生まれの50歳。

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年3月26日)