
2008年4月1日、マイクロソフト日本法人の代表執行役社長に就任した。米ハーバード大学経営大学院でMBA(経営学修士)を取得し、日本ヒューレット・パッカード、ダイエーの社長を歴任するなど経歴は華麗だが、本人は直接、パートナーや顧客と会うことの重要性を説く現場主義者である。まず、これまでの体制が手薄だったという大手SIerとの関係強化に乗り出す。
どんな会社を目指すのか。社長就任の抱負をお伺いします。
もっと企業としてお客様に近い存在に変えていくつもりです。企業としての信頼を勝ち得た上で、製品を紹介していくのでなければ、日本のお客様に受け入れてもらえません。
営業担当者や技術者はもっとお客様の前に出て行くべきです。放っていても売れていく時代は終わりました。顧客志向でなければならない、ということです。
お客様の声に耳を傾けて社内に響き渡らせ、内部の壁を越えてダイナミックに動くことのできる企業になりたいですね。組織が硬直化しているようであれば、変えていくだけです。
そのためには、現場で何が起きているのかを理解する感覚が必要です。これはどの会社の経営でも同じだと思います。
企業向けビジネスの体制は万全ではないのですか。
完璧で問題のない企業はないでしょう。やらなければならないことがたくさんあります。
大手のお客様やパートナーとの関係の中で、基本的なことができていないと感じることがいくつもあります。
あるパートナー企業の担当者が何人いるのか社内で尋ねてみたのですが、驚くほど少ない人数だったことがありました。協業しているといっても、こんな状態ではパートナーと一緒になって最適のソリューションを的確に提案できているとはいえません。
マーケティングの施策についてもそうです。社内でいくら大きなことを実行したと考えていても、お客様やパートナーといった外部の印象が同じでは何もしていないのと同じです。
外部の視点で見てどうかが重要なのです。本当に最大限の効果を発揮できているのか、きちんと検証していきます。
パートナーとの関係も変わりますか。
これはもう、今まで以上に一緒にビジネスを広げていきましょうということに尽きます。
米国に比べて日本のお客様は、システムを構築する際に、パートナーにより多くの知恵を求める傾向があります。当社の製品を選んでいただけるかどうかを決める際に、パートナーの重要性は本当に高いのです。
ですからパートナーに、マイクロソフトの技術やプラットフォームを担いでいただけるよう、あるいは当社製品の技術者の質を高め量を増やしてもらえるような施策を実施します。
具体的なプランは?
NECや富士通、日立製作所といったコンピュータ・メーカー向けの専門部署はずっと以前に立ち上げています。これからは、NTTデータや新日鉄ソリューションズ、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、野村総合研究所、TISといった大手SIerとの関係を強化していきます。
はっきりした形になるのは7月以降でしょうが、現実にはもう動き始めています。
4月15日にはWindows Server 2008の国内発表会がありました。
企業向けの製品ですから、いきなり立ち上がる市場ではありません。大手企業などでは、既存のアプリケーションとの検証作業を終えてから導入が広がっていくでしょう。
Windows Server 2008は、ネットワーク・アクセス・プロテクションを含めたセキュリティや可用性、さらに仮想化など多くの点で、Windows Server 2003から機能を強化しています。一番の目玉は仮想化でしょう。システムの管理性を考えた際に、仮想化の果たす役割は非常に大きい。期待しています。
Windows Vistaの現状については満足されていますか。
既に一般消費者向けのパソコンでは、Vistaを全面的に展開しています。消費者向けに比べると企業向けパソコンの移行は遅れていますが、Windows XPが登場した時に比べると速いペースで進んでいます。
企業は社内での検証が終了してから導入することが一般的です。想定内ではあるんです。
それに今年は、Windows Server 2008に加え、品質をより向上させたWindows Vista Service Pack 1を投入しました。これからが本番です。
2008年はOSの年になりますね。
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写真・柳生 貴也 |
ほかにもいい製品はたくさんあります。2007 Microsoft Office system、開発ツールのVisual Studio 2008、データベースのMicrosoft SQL Server 2008、システム管理に用いるSystem Center Essentials 2007などです。
製品が優れていたとしても、売り上げを伸ばすのは簡単ではありません。
まだまだ可能性はあります。日本はメインフレームの比率が25%近くある。ダウンサイジングしていけば、もっと柔軟で全体最適を考えた共通基盤の構築が可能になります。
この市場に大きなビジネスチャンスが存在しているのです。全体のアーキテクチャにも個別の製品にも自信があります。
ただ、メインフレームからの移行が簡単ではないことは承知しています。残念ですが、日本企業のすべての経営者が、ITに対して高い意識をお持ちなわけではありません。どれだけ移行を早めることができるかです。
インターネットの影響力が高まる中で、マイクロソフトは「ソフトウエア+サービス(S+S)」という戦略を打ち出しています。伝統的なソフトの販売ビジネスが成立し続けるのか不安を感じているパートナーもいます。
SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を含めたS+S戦略にはいくつかの狙いがあります。
一つは、専門家を社内に確保することが難しい中堅・中小企業でも、簡単に利用できるソリューションを提供することです。
自前でシステムを持たないSaaSなら、面倒なソフトのバージョンアップや細かな作業を、インターネットの向こう側に任せることができます。このメリットは大きい。
大手の中にも、SaaSに関心を持つ企業はあります。なるべく資産を持たない経営を推し進めようとしているところですね。SaaSであれば、ソフトウエア資産を持つ必要はなくなります。
S+Sが進むと、市場構造が激変しませんか。
とにかくお客様の選択肢が増えるのはいいことです。
現実には、どの市場から立ち上がってくるか分かりませんが、すべてのシステムがサービスに移行することはないでしょう。現実には、ソフトウエア資産を持つことによるメリットも多いんです。
マイクロソフトにとって久々の日本人社長です。何を期待されているとお考えですか。
何かトラブルがあったときに、電話1本で何とかしてくれということを話せる関係を築けるかということではないですか。私なら日本語で自由にやり取りできますし、日本文化も理解しています。
この点がお客様にとって、大きな違いになってくると思います。日本は、「やるんだね」「やります」といった具合で物事が決まる国ですからね。
実際にお客様を訪問すると、「久しぶりに来てくれたし、少し導入するわ」とおっしっゃていただくことがあります。パートナーからも「面白いことを一緒にやれませんか」という話がありました。
手応えは感じていますよ。
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(聞き手は,中村 建助=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2008年3月26日)