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PC236日本国内対応委員会の委員長を務める関哲朗氏
PC236日本国内対応委員会の委員長を務める関哲朗氏
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 プロジェクトマネジメントの国際標準を作ろうという動きがある。既にISO(国際標準化機構)にPC236という専門委員会が設置されており,2010年の発行を目指して活動を続けている(関連記事「プロマネISO化 進行中!」)。PC236日本国内対応委員会の委員長である関哲朗氏(文教大学 情報学部 准教授)に,議論の争点と日本のスタンスを聞いた。(聞き手は尾崎憲和=ITpro)

プロマネのISO化が始まったきっかけは何だったのか。

 プロマネのISO化は,2006年8月にイギリスが提案したのが発端だ。それを受けて,プロジェクトマネジメントの国際規格(ISO21500)を策定する専門委員会PC236が立ち上がった。英国がこれを提案してきた背景は二つあると思う。

 一つは,PC236のチェアマンを務めている大御所,ジェームス・ゴードン氏の強い思いだ。自分のこれまでのプロジェクトマネジメントへの貢献を,国際標準をまとめることで完成させたいと思っている。本人がそう言っていたから間違いない(笑)。長くその分野で貢献してきた人が,頑張ってみようという側面は確かにあると思う。

 もう一つは,新たなビジネスの期待だろう。ISO9000ができたときも,そこから様々なビジネスが生まれた。それと同じようなことをプロジェクトマネジメントの世界でも狙っているように感じた。例えば,プロジェクトマネジメントにかかわる認証制度ができる可能性は否定できない。PC236では認証制度を議論しないことになっているが,将来,そうしたものができるかどうかについて,関係者の多くは強くは否定していない。

PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)の本家である米国の反応はどうなのか。

 米国はPMBOKを持っているから,プロジェクトマネジメントのISO化には乗らないのではないかという憶測が最初あった。英国にはBS6079というプロジェクトマネジメントの標準があるから,これをベースにした国際標準になってしまったら米国にとってメリットがないと思われたからだ。実際,ロンドンで開催されたPC236の第1回会議(2007年10~11月)では,米国は静観しているように見えた。腕組みをしながら様子を見ているという感じだった。

 それが第2回のワシントン会議(2008年4月)になったら,完全に態度が変わって,イニシアチブを取るようになった。国際的な標準の議論に積極的に参加する方が,自国の利益を守ることになると舵を切ったのだろう。そのいい例が,用語集を検討しているワーキング・グループ1(WG1)だ。ここに「PMBOKの用語集を出そう」と言ってきた。国際標準で用語を押さえるということは,自分たちの言葉が通るようになるということだ。また,WG1の議長には,PMI(プロジェクトマネジメント協会)のレベッカ・ウィンストン氏が就任している。通称ベッキーさんと呼ばれるこの人は,PMI最強の会長とも言われている。

英国のBS6079とPMBOKはだいぶ違うものなのか。

 BS6079はPMBOKの影響を強く受けているので,近いと言えば近い。だが,やはり章立てや用語はかなり違う。BS6079はもともと,建設系の流れをくむプロジェクトマネジメント標準だ。どちらかというと日本でもプラントや建設の業界の人たちになじみやすい。内容的には,プレプロジェクトの部分,すなわちプロジェクトの本番が始まる前の調査や契約についての記述がある。

 一方,PMBOKは,プロジェクトの準備が終わった後にプロジェクトマネージャが率いるチームが仕事を請けるという形を想定している。プレプロジェクトの部分は基本的に抜けている。まだ議論している最中ではあるが,このプレプロジェクトについての記載は,今のところPC236の提案としては入っている。

日本はどういうスタンスで臨んでいるのか。

 日本は最初,ISO化に積極的ではなかった。英国から最初に提案があったとき「プロジェクトマネジメントにかかわる国際規格作成」の議論を進めるかどうかについて各国が投票したのだが,実はこのとき,日本は反対票を投じている。日本では,様々な団体や企業がプロジェクトマネジメントの手法を徐々に確立しつつある。そんな中で,新たに国際標準が本当に必要なのか,今あるプロジェクトマネジメントやプロジェクトマネージャ育成の仕組みが崩れるのではないかという心配があったからだ。

 ただ,どの業種でもプロジェクトの国際協業が進んでいる。ここで国際標準に乗れないというのは非常にまずいという議論ももちろんある。それで,今は標準化にもっと積極的にかかわっていこうというスタンスだ。

ISO化にあたって,日本はどんな主張をしているのか。

 コンピテンシを標準に含めようと提案している。コンピテンシとは,プロジェクトマネージャが持っているべき知識や経験,技量を定義するものだ。これが定義されていると,プロマネの人材をどう養成していけばよいかを考えるのに役立つ。

 提案するに当たっては,ITSS(ITスキル標準)を参考にした。ITSSの人材評価の視点を,プロジェクトマネジメントに持ち込めば,良いものができると思っている。実は,最初はPMSS(PMスキル標準)といった表現で持ち込もうとしていたのだが,やってみると意外に難しい。国際標準で人材評価の観点を明示してしまうと,それぞれの国が今,持っている評価制度との整合性が問題になる。

 例えば,IPMAという団体が策定したICB(IPMAコンピタンスベースライン)というコンピテンシ標準には,4段階でプロジェクトマネージャのレベルを評価する仕組みがある。英国には,PRINCE Examという認証制度があって,IT調達などでは結構使われている。オーストラリアには,職能制度としてプロジェクトマネージャの資格を作っている。これら国には,今まで運用してきたものが否定されるのは困るという意識が非常に強い。だから,この部分はすごく大変だ。ロンドン会議のときには「この先どうなるんだろう」というくらい議論が紛糾した。ただ,先日のワシントン会議では応援してくれる人や国が増えてきたように思う。