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競合となるのはグーグル,「アルゴリズム」で勝負

マイクロソフトが、ポータルサイト「MSN」を2008年4月にリニューアルするなど、オンラインビジネス強化の動きを加速している。米国本社は5月3日に米ヤフーへの買収提案の撤回を発表したが、米グーグル追撃の手を緩めることは許されない。オンラインビジネスの現状と今後の戦略について、日本でオンラインサービス事業を統括する笹本氏に聞いた。

日本ではポータルサイト「MSN」を4月14日にリニューアルしたが、その狙いは。

 今回のリニューアルは、将来的にこうしたいというところの最初の一歩、半歩の前進にすぎない。「Hotmail」のモジュールをトップページに持ってくるなど、ユーザーの好みのコンテンツを表に出した。その先の、日常的に使ってもらえるパーソナライズされたポータルへの布石になる。これは、MSNのポータルサイトとしてのあり方、MSNだけでなくコミュニケーションツールの「Windows Live」、検索の「Live Search」といったマイクロソフトのオンラインビジネス全体の戦略と関係する。

 我々は「データ」と「アルゴリズム」という二つの軸で考えている。(その2軸・4象限のうち)両方を大きくするところがプレミアムゾーン。そこにいかにポータルをもっていくかになる。データ(コンテンツ)の充実度と、(レコメンドや検索などの)アルゴリズムの精度が優位なポジションをつくる。より多くのユーザーを獲得し、長時間滞在してもらえるのではないかと思っている。これからどんどん変わっていく。

 アルゴリズムについては、ユーザーが使えば使うほど、ユーザーに適したコンテンツが表示されていくというものになる。MSNをパーソナライズされたリッチなものにして利便性を最大化していく。今後は、いかにアルゴリズムで勝負するかになる。

 今のポータルサイトは「Web1.0」的なものが多く、コンテンツの充実に力を入れ、ハイパーリンク中心でデータ軸に依存している。アルゴリズムというものは少なく、そこに競合優位を築けると思う。おそらくアルゴリズムに投資できる企業は、マイクロソフトとグーグルぐらいしかいないのではないか。

 データの充実はもちろん、パーソナライズしたコンテンツの表示はアルゴリズムに依存するので、そこをきちんやっていく。開発は進んでいて、それほど遠くない時期に提供できると思う。

ポータルサイトが変わっていく一方で、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が伸びている。

 ここ3~4年、ポータル離れというようなことが言われてきたが、それが我々にとっての2007年の反省点。今の時流と、その先のこと、特に日本の場合は 2011年の放送デジタル化を見据えてどう生まれ変わっていくのかを考えている。その中には当然SNSなど、人とシェアをしてパーソナライズするものとか、いろいろキーワードがある。それらをどう取り入れていくかということになる。

 ただ、SNS大手の「mixi」のユニークユーザー数が仮に1000万人と考えると、ページビューをあれだけ稼いでいても、ポータルが作り出す3000 万、4000万というユニークユーザー数には追いついていない。ポータルサイトからシェアリング、SNSに入っていく方法もある。そうしたサービスやコンテンツは、今のものをベースに充実させていく。

 また、アルゴリズムとデータという軸と同時に、オンラインの事業にとっては、マイクロソフトがこれまで進めてきた「ソフトウエア+サービス」(S+S)が戦略の柱になる。マイクロソフトのいろいろなソフトウエアをてこに、いかにサービスと融合し、どう展開するかがポイントになる。例えば、(ブラウザーのプラグインの)「Silverlight」は、いかに大量のコンテンツを見やすくするか、リッチな見せ方をするかというもの。そのポータルサイトとの組み合わせは、今後期待してもらえると思う。

笹本 裕(ささもと・ゆう)氏
写真:稲垣 純也

競合となるグーグルは表計算やワープロ機能を無料で提供し、動画投稿のYouTubeも傘下に抱える。MSNもそうなっていくということか。

 我々とはビジネスモデルが違うが、S+Sという点で、考えているところは一緒だろう。そのあり方は異なるが、S+Sを実現できるのは我々とグーグルだけだと思う。今まで蓄積してきたアルゴリズムのノウハウと、これからそこに投資できる余力ということを考えるとそうなる。

 我々も動画投稿の「Soapbox」を3月に始め、伸びてはいるが、まだまだだ。今のSoapboxでは不足と思っている。ユーザーのコンテンツはいつでもどこでもアップロードできたり、シェアできたりしないといけない。ケータイ対応も含めて計画している。コンテンツの権利問題もあり、その運用をしっかり安定させて、権利者に安心して任せてもらえられるようなサービスにしたいと考えている。

米国本社は、米ヤフーへの買収提案をしたが。

 個人的には、マイクロソフトの強い意志の表れだと思う。あれだけの規模の投資をオンラインのビジネスに投じようと決めたということなので、その強化の方向性は揺るがないことだと思っている。

それでは、ケータイ対応についてはどうか。

 今は話をできる段階にないが、2008年にケータイの事業、サービスに大きく投じていこうと考えている。グローバルな中でケータイの位置づけは非常に大きく、スマートフォンに対応したOS「Windows Mobile」だけでなく、ケータイのサービスやソフトウエアで新しいものを出していくことになる。

 ケータイ向けのポータルにしても、単体のサービスでは後発すぎて面白くない。ケータイはパーソナライズされているため、そこを意識したものでないとユーザーを引き付けるのは難しいと思う。パソコンとモバイルの連携など、どういうものがあったら便利かというところからシナリオを作っている。

ネット広告事業にはどう取り組んでいくのか。

 MSNではユーザーの利用頻度や滞在時間を延ばして、リッチな体験をしてもらう。そこをマネタイズするのが広告になる。現在の(広告事業の)売り上げの大半は、MSNのトップページやニュースチャンネルのバナー広告、リッチ広告だが、もっとカスタマイズしたソリューションが欲しいという要望が増えている。そこに注力したい。

 これまでネット広告は、指標がパフォーマンスベースに偏っていた。これから先は、ブランディングと認知の方向に拡大していくと思う。今はその移行期。これまではクリエーティブが重要だったが、新たにインタラクティブ性などいろいろな要素が入ってくる。クリエーティブと、マイクロソフトのデジタル技術の融合で、エンゲージメントを深められる。(米マイクロソフトが買収したネット広告会社の)アクウォンティブなどから、新しい広告のあり方を勉強してきた。広告でもS+Sの考え方で、市場拡大の機会があると考えている。

マイクロソフト 執行役 常務 
笹本 裕 氏(ささもと・ゆう)氏
1964年タイ・バンコク生まれ。88年獨協大学法学部卒業後、リクルート入社。95年ニューヨーク大学経営修士修了(MBA)。リクルート電子メディア事業部、クリエイティブ・リンク取締役、エム・ティー・ヴィー・ジャパン代表取締役社長などを経て、2007年2月マイクロソフト執行役に就任。同年7月から現職。

(聞き手は,渡辺 博則=日経ネットマーケティング編集長,取材日:2008年4月22日)