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20年の葛藤の末,MSと提携した理由

米ノベルは創業25年を超える老舗ITベンダーだ。ネットワークOSの「NetWare」で一世を風靡したのも今は昔。2003年にLinuxディストリビューション「SUSE」を買収、オープンソース・ソフトウエア分野に活路を見いだそうとしている。2006年には長年の“宿敵”マイクロソフトと提携した。はたして名門復活なるか。改革を主導するホブセピアン社長兼CEO(最高経営責任者)に聞いた。

CEOに就任して、まず何を手がけましたか。

 CEOに就任したのは2006年の夏です。最初の3カ月で、当社の戦略について検討しました。我々は顧客に対し、どの分野に特定してビジネスを展開すべきか。これを当社として、どのように財務上の実績を出すかと併せて検討しました。

 このときにノベルが過去7年間、どのような企業戦略を採ってきたかを学びました。この会社が打ち出してきた過去の戦略すべてに目を通しましたよ。

 結論として、ノベルはこの7年の間にあまりにも多くの異なる戦略を打ち出してきたことがわかりました。これが顧客だけでなく、社員にも、そして株主にも混乱を来たす大きな要因となっていたのです。

 この結果から、我々に必要なのは「顧客の抱える問題を解決するために何をすべきかを方向づけし直す」ことだと判断しました。そこで2007年初めに、ノベルが採っていくべき戦略を明確にしました。

コンサルを売却し、製品専業を目指す

どのような戦略を打ち出したのですか。

 まず当社は、顧客の問題を解決する製品の提供に特化すべきだと考えました。そこで、ビジネス・コンサルティング事業を売却しました。ノベルのビジネスを製品に特化させたのです。

 当社が提供する製品は「エンタープライズ・インフラストラクチャ・ソフトウエア」です。OS、システム管理ソフト、セキュリティ・ソフト、データ/システム連携ミドルウエアなどが該当します。

 その上で、オープンソース・ソフトを積極的に活用するのが我々の戦略です。現状では多くの場合、OSやミドルウエアなどの各層で顧客はプロプライエタリな技術や製品を利用しています。一方、その顧客の多くはオープンソースを使いたいと考えています。

 我々が狙うのは、プロプライエタリな世界とオープンソースの世界の「中間」、すなわち「ミックスト・ソース」の分野です。例えば、今後顧客はどのような環境でアプリケーションを構築するのでしょうか。J2EEでしょうか。それとも .NETでしょうか。今後3年から5年を見ると、多くの顧客は「両方を使う」という選択肢を選ぶでしょう。これがミックスト・ソースの一例です。

 顧客がプロプライエタリとオープンソースをうまく連携して使えるように支援する。これが我々の戦略です。

そのためには他のベンダーとの連携が欠かせませんね。

ロナルド・ホブセピアン氏
写真:中島正之

 ええ。コンサルティング・ビジネスを売却すると同時に、パートナーとの関係を再構築しました。最初に実施したのは、マイクロソフトとの提携です。マイクロソフト製品の層と、Linuxおよびオープンソース・ソフトの層との相互運用性を確保するのが狙いです。

 ほかにも数々の会社とパートナー契約を結びました。SAPは、当社のSUSE Linuxを推奨ディストリビューションとしています。少し前には中堅市場向け製品についても提携しました。デルやレノボ、HP(ヒューレット・パッカード)とは、デスクトップ機にSUSE Linuxを搭載することでグローバルに提携を結んでいます。

 IBMとはメインフレーム上で動くLinuxについて、密にパートナーシップを築いています。メインフレームの世界で、SUSE Linuxは世界の80%以上の市場シェアを有しています。ほかにアクセンチュアやキャップジェミニ、オラクルなどとも提携関係にあります。

 このように、我々は主要なパートナーと世界各地でエコシステムを構築していきました。それぞれの国には独自性があるので、各国にいるチームがそれぞれ作業にあたっています。一つのソリューションがすべて適用できるというわけではないからです。

Linux版「Silverlight」を開発

マイクロソフトとの提携では、どのような相互運用性を目指すのでしょうか。

 提携を結んだ時点で、我々が注力すべき分野は三つありました。まずSUSE Linuxで、仮想化したWindowsを独占的に動作可能にすることです。我々の研究所で、SUSE Linux上で動かすWindowsの性能チューニングを進めています。ちょうどそのデモンストレーションを実施したところです。

 二つ目の領域はシステム管理の分野です。管理ツールとプロトコルの共有化を図っていきます。もう一つの領域はオープン・ドキュメントに関してです。OpenXMLをベースにして、互換性の確立を狙っています。

 これら三つが元々考えていた領域です。現在我々は、マイクロソフトと共同で進められそうな領域がさらに15あるとみています。なかでも早く進んだのが、RIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)技術のSilverlightに関する取り組みです。マイクロソフトはSilverlightの相互運用性をもっと高めたいと考えていました。

 そこでノベルが開発したのが「Moonlight」です。これはSilverlightをLinuxで動作するようにしたものです。 .NETアプリケーションをLinuxで利用可能にするためのMonoフレームワークを利用しています。こうした数々のプロジェクトを共同で進めています。

マイクロソフトはノベルにとって競合でもあります。手を組むことに葛藤 (かっとう)はなかったのですか。

 いいえ、当社は20年の間、葛藤し続けましたよ。

 マイクロソフトと手を組んだ理由はとてもシンプルです。(マイクロソフトのCEOである)スティーブ・バルマー氏も私も、「顧客が最終的な勝者である」という点で意見が一致したからです。

 もちろん、マイクロソフトとノベルは様々な分野で競合します。我々はオープンソースの分野で顧客をつなぎ止めるために、これからも激しく闘うでしょうし、マイクロソフトも彼らのフレームワークに顧客をつなぎ止めるために激しく闘うでしょう。

 しかし、顧客がどちらの環境も管理したいと考えているとしたら、どうでしょうか。マイクロソフトと我々はともに「顧客はどちらの環境も使うだろう」と考えています。マイクロソフトがこのような考え方を打ち出したのは非常に重要だと思います。マイクロソフトの環境とオープンソースの環境は、ともに残る。であれば、二つの環境を橋渡しする部分を共同で実現したほうがよい。我々はこう考えたのです。

 マイクロソフトとの競合は今後も続きます。両社とも、顧客に自分のプラットフォームを選んでもらいたいと考えているわけですから。ただ、顧客がどのプラットフォームを選ぶのであれ、我々は顧客が望むサポートを提供するという話です。

一連の改革は功を奏していますか。

 ビジネスにおける実績を上げると、財務的な実績も向上します。2007年に、我々の売り上げは安定した状態になりました。過去7年間で初めてのことです。

 2008年第1四半期に、製品売り上げは前年に比べ9%成長しました。Linuxは65%、アイデンティティ管理は15%増でした。いずれも市場の成長率を上回っています。

 利益についても同様です。非会計基準(Non-GAAP)の営業利益は、2007年第1四半期はマイナス0.5%、第2四半期がプラス2.9%、第3四半期がプラス5.1%、第4四半期がプラス8%。2008年第1四半期はプラス10%となっています。

人と技術を「一つ」にする

会社の建て直しが進んでいるのはわかりますが、かつての「Novell」ブランド の強さを取り戻すまでには至っていないように感じますが。

 その通りです。1年半前に、ここまでお話ししたような戦略を敷いたわけですが、今年(2008年)、ブランドの見直しを始めたところです。

 実際のところ、「Novell」ブランドの認知度は全世界で85%に達しています。しかし戦略の変更を重ねてきたために、顧客はそのブランドが何を意味しているのかがよくわからなくなっていたのです。

 現在、我々の活動は「Making IT Work as One」というコンセプトに焦点を当てたものになっています。Novellブランドを「Making IT Work as One」ができる会社を表すものにしようとリポジショニングを進めているところです。

 顧客が我々をどう見ていたかを振り返ってみると、多くは「様々なネットワークを統合してくれる」というものでした。それが相互運用性や異機種混在環境に理解があるというイメージにつながっています。我々としては、こうした顧客が抱く期待と整合性を採った戦略を追求していかなければならないということになります。

 そこで我々は、エンタープライズ・インフラストラクチャ・ソフトウエアの会社としてリポジショニングを進めました。様々なITを「ミックスト・ソース」の形で調和させる。それによって、人と技術が「一つのもの」として作用できるようにする。その作業を、エコシステムを構成するバートナーとともに進める。こうしたコンセプトを目指しています。

 この戦略は、他の企業と大きく異なります。我々と同様のビジネスを展開する企業の多くは、技術の話しかしないからです。しかし、我々はオープンソース・コミュニティの主要メンバーですし、様々な顧客や株主もいます。こうした企業に属する人たちが、技術が作り出す新たなパラダイムのメリットを享受できるようにする。その支援をする企業になるべきだと我々は考え、ブランドの見直しを図ったわけです。

 まさに3週間ほど前に、ブランドの新たなポジショニングを本格的に立ち上げたところです。ですから質問はとてもタイムリーです。私はCEOとして、このポジショニングを今後3年から5年は一貫して持ち続け、広く認識させていくのが重要だと考えています。

(聞き手は桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年4月23日)

米ノベル 社長兼CEO
ロナルド・ホブセピアン(Ronald W.Hovsepian)氏
米IBMで17年以上にわたり、流通業界部門のワールドワイド・ゼネラル・マネージャなどを歴任し、2003年6月に北米地域社長としてノベル入社。その後、社長兼COO(最高執行責任者)として、セールスやコンサルティング/テクニカルサービスを含む全世界の製品開発、マーケティング、フィールド・オペレーションを総括。2006年6月から現職。45歳。