IPTVやマーケット・データ配信サービスを実現するマルチキャスト技術への感心が高まっている。そうした中,通信事業者が特に注目しているのは,「マルチキャストVPN」(MVPN)という最新のマルチキャスト技術である。通信事業者向けにマルチキャスト技術のプライベート・セミナーを開催するために来日した米シスコの技術者に,MVPNについて聞いた。
MVPNの標準化の状況はどのようになっていますか。
このドラフト名にある「2547」というのは,従来からあるMLPSベースのVPN「2547VPN」のことです。もともとの2547VPNでは,マルチキャストが許容されていません。サービス・プロバイダがユーザーにVPNサービスを提供する場合,ユーザーの拠点間をMPLSでトンネリングすることになります。ところが,マルチキャストが許容されていない2547VPNで,ある拠点から複数の拠点へマルチキャストで配信しようとする場合,前もって拠点間にトンネルを張っておく必要があります。
そこで,マルチキャストを利用する際に拠点間にダイナミックにトンネルを張ることができるようなオプションの仕様を追加するのが,このドラフトです。
MVPNの技術は既に使われているのですか。
MVPNにはいくつかの方式があります。一般的なマルチキャスト方式である「PIM」(protocol independent multicast)とトンネリング技術「GRE」(generic routing encapsulation)を組み合わせた方式は,5年前から当社の製品に組み込まれています。
一方,MPLSのラベル・スイッチング技術を使ったMVPNもあります。これには「mLDP」(multicast label distribution protocol)と「P2MP RSVP-TE」(point-to-multipoint resource reservation protocol - traffic engineering)の2種類があります。これらを搭載した製品については,現在開発中です。
MVPNは,既に多くのサービス・プロバイダや企業が,実際のネットワークに導入し,運用しています。特に多いのは,Tier1のサービス・プロバイダと,ファイナンシャル・サービス・プロバイダ(株価などのマーケット情報を顧客に配信する事業者)です。
現在IETFでは,サービス・プロバイダのコアにどの方法を使うのが良いのかを議論しています。現時点では,やはりPIMベースのMVPNの導入例が多く,最も成功していると言えます。ただし,これからユーザーの要求がどのように変わっていくのか,ラベル・スイッチングをベースにしたMVPNが受け入れられていくのかについては,もう少し時間が経たないと分からないでしょう。
日本のサービス・プロバイダも,MVPNを採用していくのでしょうか。
はい,そうなるでしょう。日本のサービス・プロバイダもMVPNに対して非常に高い感心を持っている聞いています。それが,今回来日してセミナーを開催した理由です。
かつては,通信サービスでのマルチキャストの利用は限定されていました。しかし,ここにきて,VPNサービスでマルチキャストをサポートしなければならないというニーズに,サービス・プロバイダは直面したのです。
先ほど説明したように,MVPNには3種類の方式がありますが,どの方式に興味を持っているかは,ユーザーの環境によってニーズが異なります(ユーザーであるサービス・プロバイダの網が純粋なIPベースかMPLSベースかによる)。私たちは,それぞれに応じて適切な方式を提案していきます。