
マネジメントコンサルティングからSI、アウトソーシングまでを手掛け、国内で成長を続けてきた。景気は減速しているが、企業の改革に伴う案件は減ることがないと見る。過去1年で、顧客の要望に合う開発部隊をそろえたことが好調の一因とも話す。2008年4月には初めて国内の中堅SIerのソピアを買収し、システム開発力をさらに高めた。
日本法人は好業績だそうですね。
組織変革や業務改革が関係した案件で、お客様から呼ばれることが増えています。経営の見える化を進める、これまで利用してきたパッケージを整理する、新興国でビジネスを展開する上で、高いコスト効率で拡張性を高める、といったケースです。
ERP(統合基幹業務システム)パッケージで単純にシステムを再構築するような案件では、あまり当社は強くないかもしれません。
顧客から呼ばれるコツは?
普段から、常に問題提起することです。
一つには、ビジネスのグローバル化やサプライチェーンの最適化といった経営課題があります。あるいはSOA(サービス指向アーキテクチャ)やSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などの技術にどう取り組むべきかといったことでも構いません。
そうすると、自然と顧客と会話が進んでいきますし、お客さんも我々も勉強する。タイミングが合った時に、ビジネスが生まれるのです。このサイクルがうまく回っています。
経営課題にまで踏み込んだ提案を作るのは難しいことです。
当社はずっとコンサルティングを手掛けていますが、確かにそういう面はあります。企業を経営したことがないのに、どうして有効なソリューションを考えることができるのか、とお客様に指摘されることもあります。当社に限らず長年、IT業界で言われ続けてきたことです。
説得力のある提案はどうやって生み出すのですか。
個人ではなく、アクセンチュアという組織が持っているノウハウを活用することが一つあります。それから、実際に提案する前に、本当に顧客に価値を生むものなのか、徹底して社内で議論することです。当社の伝統といいますか。「価値がない」と言われて、提案書を破られることもあります。
私も経験しました。これは本当に効きますよ。
コンサルティングだけでなくSIの分野も成長しています。
コストや品質の面で、顧客のさまざまな要望に応えることができる、システムの開発部隊を用意できたことが影響しているのでしょう。
顧客によって、SIの品質、タイミング、コストに対する要望はさまざまです。コストは高くてもいいから、とにかく早くというケースもあれば、コスト優先の場合もあります。2007年には、要望に応じて三つの要素をうまく組み合わせた提案ができるようになりました。
開発部隊を強化したということでしょうか。
オフショアに限らずニアショアも使いこなせるようになりました。オフショアの中心は中国ですが、インドやフィリピンにも拠点があります。ニアショアは北海道です。それから関連会社を含めた社員は3600人を超えています。
システム開発に対する顧客の要望が厳しくなっていませんか。
短期的にはコスト効率の向上を求められることもあります。納期通りにプロジェクトを完了させないといけないし、必ず顧客に成果を感じてもらうようにしなければなりません。これは当然です。
これを守る秘訣はありますか。
方法論を適用するのはもちろんですが、ソフト開発の品質向上のために社内で規定したQPIプログラム(Quality and Process Im-provement Program)を順守しています。QPIは、CMMI(能力成熟度モデル統合)よりも厳しいものです。
これらによって開発の各段階で厳しくプロジェクトの状況を確認していきます。それに当社は工事進行基準を採用していますから、プロジェクトの見積もりと進捗状況を正確に把握しなければなりません。
コンサルティング、SI、アウトソーシングの中で、特に力を入れている分野はありますか。
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写真:田中昌 |
お客様にはいずれも必要なものです。これまでは、比率の低かったSIとアウトソーシングに、重点をおいた面はあります。特にアウトソーシングに関しては、「システムを開発したら、もう関係ありません」という会社ではないことを示すためにも力を入れています。
国内の実績は公開していませんが、グローバルではアウトソーシングが売り上げの3~4割ぐらいです。残りがコンサルティングとSIです。
2008年4月には、中堅SIerのソピアを買収されました。どこを評価したのですか。
オラクルのビジネスアプリケーションとデータベースの分野で高い技術力があることです。
当社と補完的な領域でサプライチェーン・マネジメント・システムのノウハウがあることも評価しました。当社は経営戦略や計画系に強いんですが、ソピアは倉庫内の配送のオペレーション分野に実績がある。
創業者でもあるソピアの丸山和美社長と価値観を共有できていることも大きいですね。これからも、ソピアは別会社として残します。
中長期的にどういった企業を目指しますか。
国内では、SIerとして当社は大手とは言えません。規模は大きくしたいと思います。
アウトソーシングも重要です。ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)の領域ですね。ここでは一番になりたいです。
BPOは、日本ではまだそれほど根付いていません。
確かに現在はそうですが、将来性は高い。BPOは、単純にシステムの運用コストを安くするだけでなく、顧客の業務にさまざまな変革をもたらすことができます。当社ではトランスフォーメーションアウトソーシングと言っていますが、経営に大きく貢献するものです。
1時間当たりで価格が決まる従来型とは異なるビジネスモデルも実現可能です。成果報酬型で契約することもできるので、リスクはありますが、チャンスも広がります。
BPOの分野には御社ならではの強みがありますか。
グローバルで展開していることです。グローバル化した製造業と同じで、社内に限らず全世界から最適なリソースを選ぶことができるのです。
基本は組み合わせなんですよ。日本語が話せる人は世界中にいますし、言葉が分からなくてもできる業務があります。
SIerの中には、将来に悲観的な企業も少なくありません。
新興国には、豊かになりたいと考えている人間が50億人もいるわけです。そのエネルギーにはすごいものがあります。
豊かになろうという思いが生み出す経済成長は、世界中のビジネスに影響を与えることになるでしょう。大きなビジネスチャンスがあります。
この流れは今後、10年、20年にわたって続くものです。短期的には少し厳しくなることもあるでしょうが、中長期的には変わらないトレンドです。
国内の業界再編も進むでしょう。これまで、景気が回復していた間は、過去の十数年にわたって抑えてきた投資を取り戻せといった感じがありましたが、ほかにもITが貢献できることはいくらでもあります。
これから、ITにかかわる人間は活躍の場が広がる。忙しくなりますよ。
(聞き手は,中村 建助=日経ソリューションビジネス編集長,取材日:2008年4月30日)
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