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【後編】ITは多品種少量生産に不可欠

>>前編 

三菱重工の競争力を高めるために、ITはどう活用できるとお考えですか。

 当社は様々な製品・事業を擁しており、売上高は連結で3兆2000億円です。700種類くらいの製品を作っていますが、ガスタービンのような大きな規模の事業もあるものの、実は事業規模が100億から200億円ぐらいの製品が多いのです。こういう事業構成の会社で総合力を発揮するにはIT活用は不可欠だと思います。

 多品種・少量生産を手がける製造業の場合、一人の社員がカバーすべき業務範囲が極めて広いんです。量産品であれば、一度図面が出来上がれば、資材をまとめ買いして、工場も同じ作業を繰り返せばいい。これに対し、お客様のこういうものが欲しいという情報を、営業からサービスまでバリューチェーンを通して、製品なり、プラントなりに変えて、お客様にお届けして対価をいただくというビジネスです。仕事の範囲が広いということは、処理する情報量も非常に多いことを意味します。ITを使えば、情報を処理する負荷を激減できるはずです。

 今、全社で私がサブリーダーになって“ものづくり革新”活動を推進していますが、一番中心の活動は標準化、共通化です。もう少し正確に言うと、マスカスタマイゼーションとモジュラーデザインに基づく標準化、共通化です。

 マスカスタマイゼーションによって、お客様にとっては従来通り一品一葉のごとく見せつつ、コストを抑え品質も高めることを狙っています。お客様ごとに異なる製品も、実は共通な部分が多い。そこを標準化して、モジュラー化する。標準化とモジュラー化で図面が共通になれば、ゼロから計算して引き直す必要がなくなります。扱う情報量は3分の1になります。

 経営の目線で考えると、バリューチェーンを通る情報をいかにうまく少なくして、高品質のものをスピードを上げて作るかが勝負であり、その武器になるのがITだと思います。

経営課題を認識し、現場の改革をリードしていくことは容易ではありません。情報システム部門の人を現場に異動させたりもしているのですか。

青木 素直(あおき・すなお)氏
写真:乾 芳江

 いや、そこまではしていません。今、情報システム部門が利用部門とやっているのは、物がどのように流れているのか見えるようにすることです。例えば、技術本部の生産計画シミュレーションを行うグループと取り組んでいます。部品や製品などにRFID(ICタグ)を取り付け、いつどの工場やサプライヤー、パートナーにあるのかを把握します。これを活用して工場での組み立てをジャストインタイムにしたいと考えています。

 こうした情報システムの導入には資金が必要です。予算面から取り組むのが難しい事業部門もあります。そこで私が予算をつけて、「業務を標準化、IT化したいという事業部は手を挙げて」と募りました。評価をして確かに価値があり、全社の方向性と合っているものに社として資金を出すことにしました。始めた2003年の時点ではあまり提案が出ませんでしたが、2年目からは活発になりました。サプライチェーンのシステムから、前述のRFIDを利用したシステムなど、合計で200を超えています。

 全社のシステムは共通的にすればよいところと、それぞれの事業所の製品に特有の部分を分離し、できるだけ共通部分を増やすような形でまとめていきたい。グループ各社も基本的にはそれに沿ってやっていってもらおうと考えています。

国産ジェット機のMRJ(三菱リージョナルジェット)が注目を集めていますが、MRJを支える情報システムに求められるのはどのような要件でしょうか。

 MRJの開発・生産に当たっては、極めて多くのサプライヤーとリアルタイムに取引しなくてはなりません。それもサプライヤーは世界中にいる。資材調達のシステムがカギを握っています。

 現在、MRJの事業会社である三菱航空機と三菱重工の情報システム部門で話をしているところです。ここでも先ほどお話しした、マスカスタマイゼーション、モジュラーデザインは必須です。

技術者はついつい図面を書きたがる

標準化、共通化への意識改革は順調に進んでいるのですか。

 成果は少しずつ出始めています。ものづくり革新活動のサブリーダーとして、年に90回は各事業所を回って講演したり、指導したりしています。今日声がかれているのもそのせいなんですよ(笑)。国内のニーズはどんどん減退していっているなかで、グローバルに成長する企業にならないと生き残れません。実際にすでに海外のビジネス比率は50%を超えています。グローバル化を進めるうえで、標準化と共通化は不可欠です。

 ただ、技術者というのは、お客様の難しい仕様をいかにうまく設計するのかという点に生きがいを感じる。図面を書くのが仕事だと思ってしまう。本当は、お客様に満足してもらいながら利益を生むことが目的のはずです。だから、「図面を書くな」と言っています。図面を書けば設計費がかかるし、たくさん書けば間違いも入ってくる。少なくても10年は図面を変えなくても市場で競争力がある、そういった製品を開発したいと思っています。

三菱重工業 代表取締役 常務執行役員 技術本部長
青木 素直(あおき・すなお)氏
1972年九州大学大学院航空工学科修了。同年三菱重工業入社。一貫してガスタービンなどの研究・開発分野に従事する。2000年に技術本部高砂研究所長、05年1月に取締役技術本部長に就任し、06年4月より現職。06年5月に情報システム部門も統括する。中国精華大学の客員教授も務める。1947年11月生まれの60歳。

(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年5月19日)