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【前編】ネットは安ければよいという風潮,“受益者負担”がないと産業が疲弊

インターネット接続事業から,ブロードバンド広告,アプリケーション・サービス基盤へと事業の柱を増やしているNECビッグローブ。NGNでのサービス展開に向けた体制強化を図るとともに,2~3年のうちに起こるIPv4アドレスの枯渇,情報通信法,アナログテレビ放送の停波といったイベントを前に,サービス・インフラの刷新を進めている。昨年夏に就任した飯塚久夫社長に聞いた。

長年インターネットに携わってこられたが,最近の状況をどうとらえているか。

 BIGLOBEがサービスを始めたのは1996年。私は当時NTTに在籍しており,同じ年にOCNのサービスを始めた。日本でも米国でもオープンで自由というスローガンで始まったインターネットだが,10年余りが経過して,「ユーザーは,“自由”を少しはき違えている」と思うことがある。

 インターネットの開始当初は,仕掛け・仕組みが分かりにくかったせいか,ユーザーに「タダで通信ができる仕掛け」という印象を与えてしまった。だが実際は,通信事業者のインフラがあって初めて成り立つ。そしてインターネット接続事業者(ISP)が,ルーターやサーバーといった設備でTCP/IPベースのネットワークをしっかり作り,インターネットとエンドユーザーをつないでいる。それをエンドユーザーが見損ねた側面があったかもしれない。

 インターネットが社会インフラになった今,その周辺で産業力を維持できるか,あるいは発展できるかが問われている。その産業力としての視点が,日本のインターネット業界,通信業界にはあまりにも弱い。「何でも安ければいい,タダになるのがベスト」という風潮がまだ強い。

この風潮は,どういう問題となって表面に現れてくるのか。

 こうした中で出てきたのが,トラフィック増加問題だ。BIGLOBEでは毎年1.7倍の勢いで伸びており,世評の「3年で3倍」を上回る。設備増強をせざるを得ないのだが,コスト負担には耐えられなくなっている。これは,設備を持ってサービスをするISPに共通の悩みだろう。

飯塚 久夫(いいづか・ひさお)氏
写真:的野 弘路

 今やダイヤルアップ時代の従量料金ではなく,定額かつ低額になった。ユーザー一人当たりの収入は減る一方なので,接続事業で培った機能をSaaS (software as a service)基盤に体系化して,プラットフォームをユーザーに活用してもらう事業を一つの柱にしている。ブロードバンドで映像を流しているが,“映像はただ”という流れがあるため,ブロードバンド広告も手がけている。

 総務省が進めているインターネットの中立性議論の中でも出ているように,そろそろインターネットもサービスを利用した者が利用度合いに応じた費用を負担する「受益者負担」を取り入れないと,産業自体が疲弊する。最後にはエンドユーザーに負担が行くという認識を,日本全体で持って欲しい。

 こういう議論は,誰か一人だけが言い出してもダメ。総務省の議論の場で,インターネットを取り巻く料金が矛盾を来していることを,通信事業者が遠慮なく言って良いのではないか。

インターネットを含めて,通信の世界はどんどん変わっている。

 2010~2011年に,情報通信法やアナログテレビ放送の停波,IPv4アドレスの枯渇といった出来事が重なって起こる。つまり3年以内に,日本の情報通信を巡る環境は大きく変わる。我々もこの3年のうちに世間の大きな流れに対応できる大変革を図らないと,死活問題にかかわる。うまく乗れれば大きな新しい世界が開ける。

 例えばIPv4アドレスの枯渇を控え,IPv6に対応するとネットワークへの設備投資負担が増す。しかもグローバルIPアドレスが個々のモノに付けば,ターゲットとなるモノに直接アクセスできる。今までISPはNAT(network address translation)の役割を担うルーターやネットワーク側のサーバーの付加価値で料金をいただいていたが,それが不要になって,プロバイダの中抜きが起こりかねない。そのあたりを踏まえた新しいネットワーク・アーキテクチャの在り方が課題になっている。

 こうした状況に対応するために,ネットワーク基盤の変革を進めている。NGNと並行して,IPv6対応の準備も進めていく。例えば端末間のエンド・エンドの通信に伴って増す恐れがあるセキュリティの問題では,ボット対策などで無料,有料のサービスを提供して付加価値を出していく。

 現在,当社は2008~2010年の中期計画を実施に移しているところ。その中で変革をしっかり取り込んでいく。

 モバイルにも変革は必要。今後携帯電話だけではない新しいモバイル端末が出てくる可能性があり,そこにビジネス・チャンスがある。

>>後編 

NECビッグローブ
代表取締役執行役員社長

飯塚 久夫(いいづか・ひさお)氏
1948年生まれ。東北大学工学部電気工学科卒。東京工業大学大学院理工学研究科電子物理工学専攻を修了し,1972年に日本電信電話公社(現NTT)入社。技術調査部技術評価部門長,マルチメディアビジネス開発部担当部長などを経て,1999年に NTTコミュニケーションズ取締役ビジネスユーザ事業部長。同社の常務取締役先端IPアーキテクチャセンタ所長,NTTラーニングシステムズ代表取締役社長を経て,2007年6月から現職。趣味はアルゼンチン・タンゴの評論。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年6月5日)