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編集部 半導体の集積が進むことによって,高速な処理がどんどん安価にできるようになる「チープ革命」が起きています。そこで処理コストを議論する意味があるのでしょうか。

平宮 しかし,電力事情はどんどん悪くなっていますよね。

編集部 ASIC(特定用途向けIC)にロジックを収納していけば,ある程度電力の問題も解決するのではないでしょうか。

信州大学講師 平宮康広氏
信州大学講師 平宮康広氏

平宮 その辺は正直,良く分かりません。ただ,ネット・アドレスとホスト・アドレスの分離は,マルチキャストだけではなく,モバイルでも有効です。

 なぜかというと,現在のモバイルIPといわれているサービスは,結局IPパケットをIPパケットでくるむ,IPinIPという裏技を使わざる得ません。分離すればこうした手法を使わなくても済みます。

 ネット・アドレスとホスト・アドレスがそれぞれユニークなので,移動先で新しいネット・アドレスをつけてもホストのユニークさは保証されます。このため,ローミング・サービスもなくなります。ものすごくエンド・ツー・エンドに役立つ方法だと思います。

公文 グーグルの独占の問題はどう見ますか。

平宮 グーグルの問題は,どっちかというと自然独占ですよね。つまり,政治的に何かがあって,独占が生じてしまったわけではなく,多数のユーザーが使っているうちに独占が生じてしまったという形になっています。

公文 経済学上の自然独占は意味が違います。資源を誰かが持っていて競争が成立しない場合を言います。グーグルの場合は,誰が競争してもかまわないのだが,圧倒的に強くて競争にならない。ユーザーも支持している。結果として,一人のプレーヤーが独占しているという形です。これは最初から独占していたわけではなく,プロセスとして独占が生じているわけです。つまり,自然独占が生じるように運命付けられているわけではないのです。

 ただ一方で,知識というのは本来“自然独占”的ではないのかという議論は成り立ちます。つまり,圧倒的な知識を持っている人間がいれば,それが勝つのは自然だということです。知識の差は絶対で,なかなか競争できるものではないのかというわけです。

 これが本当かどうかは,私には今のところ結論はないですが。

平宮 米インテルのx86アーキテクチャは,全然優れていないが,これだけの市場を取ってしまった。グーグルがそれほどすごい技術を持っているかといえば,疑問が残る。もちろん,WindowsもすごいOSではない。高度な知識だから,独占が起きるというわけではないように思えます。

 とはいえ,インテルもマイクロソフトも,大きくなり影響力を持つようになりすぎました。もっと早い段階で分割すべきだったのではないかと思います。グーグルも同様なのであれば,独禁法を適用して分割すべきではないでしょうか。

編集部 独禁法を発令するというのは,競争状態がないから不利益だと規制当局が考えるからですよね。グーグルの独占によって,ユーザーに不利益が生じているのでしょうか。

平宮 独禁法には,競争状態の問題とは違う,別の側面があります。それは独占が技術革新の速度を落としている場合です。例えば,先ほどのFTTHの話なら(前編を参照),NTT東西のGE-PONシステムがFTTHサービスを独占しユーザーがこれに満足しているのであれば,あえて新しい技術を使ったFTTHサービスが出てこなくていいのかということです。

 同様にインテルのx86アーキテクチャがだめでも,それでユーザーが満足しているなら,新しいアーキテクチャが出てこなくていいのかという議論も考えられます。これをどう判断するかが問題です。

公文 私は技術革新のポイントこそが重要だと思っています。将来脅威になりそうな企業を買収して,技術革新の芽を摘むという問題がこれまでに何度も起こっているが,グーグルがこうしたことをやっているでしょうか。

平宮 そうですね。今のグーグルが技術革新の芽を摘んでいるとは思えません。むしろ,既存の独占を破壊していると言った方がいいように思います。

公文 検索エンジンを見れば,米国では80%を超えるようなシェアを持っています。これは大変な独占状態です。

平宮 しかし対抗馬として,Yahoo!やMSNがありますよね。彼らが,ユーザーに使ってもらえていないだけです。この背景には米ヤフーや米マイクロソフトが大もうけしたという反感があるのかもしれません。グーグルからもっとお金儲けのにおいがしてくれば,ユーザーは離れていく可能性はありますね。

公文 あとは,自分の情報がグーグルに集中することへの恐怖が大きくなると離れていく可能性があります。

平宮 やはり,グーグルが技術革新の妨げにならないなら,独占を認めるしかないと思います。技術革新の弊害になるようなら分割を議論しないといけないでしょう。

公文 私も同じ意見です。

多摩大学情報社会学研究所所長/多摩大学教授
公文 俊平(くもん しゅんぺい)
1935年高知県生まれ。1957年東京大学経済学部卒,59年同大学院修士課程修了。1968年米国インディアナ大学経済学部大学院にてPh.D.取得。東京大学教養学部教授を経て,1993~2004年国際大学グローバル・コミュニケーション・センター所長。2004年4月より多摩大学教授・多摩大学情報社会学研究所所長就任。現在に至る。現代は第三次産業革命と第一次情報革命が同時進行しているという観点にたって,近代社会システム,特に情報社会の研究に取り組む一方,情報社会では,営利に携わる企業と,知的影響力の獲得をめざす智業が互いに共働するという持論に則して,“智業=企業共働プログラム”の推進に力を入れている。また,情報社会では,地域の情報化・ネットワーク化が不可欠という観点から「CAN」(コミュニティ・エリア・ネットワーク)の構築を提唱し,その普及に努めている。主な著書として,「情報文明論」(1994年,NTT出版),「情報社会学序説」(2004年、NTT出版)など。他に共著として,「文明としてのイエ社会」(1979年,中央公論社)がある。
信州大学非常勤講師
平宮 康広(ひらみや やすひろ)
1955年富山県生まれ。1970年日本大学卒。民間企業でオペレータ,プログラマ,システムエンジニアを経て,1989年に電子学園日本電子専門学校で専任講師になる。同時期,JICAの専門家としてポーランドに1年間赴任。ヨーロッパの技術者との交流を通してxDSLの可能性を知る。帰国後,xDSL事務局を主宰し,長野県伊那市でxDSLのフィールド・トライアルを実施。長野県協同電算に協力し,日本初のADSL商用サービス開始を成功させる。2000年より信州大学工学部の非常勤講師。2001年ソフトバンクBBで技術本部長に就任し,Yahoo! BB網の設計・構築の指揮を執る。同時期,長野県協同電算のバックボーンネットワークの更改にも技術顧問として参加。MPLSベースからMAC in MAC(EoE)ベースに変更する計画を立ち上げ,作業に参加する。また,長野県栄村でIPマルチキャストによる地上波再送などの「IP放送実験」に参加した。2005年にソフトバンクBBを離脱。現在は,新しいFTTHサービスとIPマルチキャスト,IPモバイル・サービスの構想を練る日々を送る。