
「ネゴシエーションではなくコラボレーションによって顧客と価値を創造していく。それが本来の姿」。5月20日にITの活用を前提にしたコンサルティング会社「シグマクシス」を立ち上げた倉重英樹氏。三菱商事と、同氏が会長を兼務するRHJインターナショナルが共同出資する新会社で「成功報酬型のビジネスモデルを導入し、IT業界を変えていく」と宣言する。
新会社では「成功報酬型でコンサルティングを提供する」と宣言しました。発表後、どんな反応がありましたか。
大きく言うと二つです。一つはビジネスサイドから「倉重さんが言っていることはもっともなので期待したい」という反応。
もう一つは採用サイドです。我々はこれから大量に採用活動をしていく計画ですが、ポジティブに反応してくれていると思っています。
成功報酬型はコラボレーションの結果
成功報酬がなにかと話題になるのですが、私が目指しているのは、顧客企業とのコラボレーション。成功報酬はあくまで結果の話です。顧客と目標を共有して価値を創造すれば、報酬制度は必然的に成功報酬型になる。
これまでの企業間の取引はネゴシエーション(交渉)が中心でした。IT関連のプロジェクトは期間中ずっと、コンサルティング会社やITベンダーと顧客企業が交渉している。こうしたネゴシエーションをコラボレーションに変えたいのです。
コラボレーションとは、立場の違う人が目標を共有して活動を同期化し、そして結果を共有することです。目標を共有するから、今までの経験と知恵をお互いに出し合う。それによって価値創造が可能になる。
これに対し、ネゴシエーションは妥協点を探すだけ。いくら時間を費やしても価値を創造しない。高く売りたい人と安く買いたい人が値段を交渉しても、商品そのものの価値は何も変わっていないのです。
具体的に例を挙げて教えてもらえますか。
例えば、今は契約を結ぶときに、「在庫管理システム一式3億円」といったやりとりが一般的です。これを「一式3億円」ではなく「削減在庫の1%」の対価をもらうと決めるのです。
従来の契約では、契約時点で提供側と買う側のベクトルが反対になる。価格を決めた段階で提供側は、3億円の「売り上げ」が確定する。ところが買う側は3億円の「費用」が確定したことになります。支払う費用が決まったからには、手に入れられるものを最大化したいと買う側は当然考える。結果としてネゴシエーションに陥ってしまうのです。
一方、削減在庫の1%とすると「削減在庫を最大化する」という共通の目標を提供側と買う側で持てます。提供側は在庫を減らしたら売り上げが増えるし、買い手側は当然、在庫削減のメリットが大きくなる。
すると、「在庫を減らすためにはどうしたらいいか」と色々な知恵と経験を両者がぶつけ合うようになる。お互いに勉強になるし、仕事が楽しくなるでしょう。
ビジネスも技術も一括して請け負う
シグマクシスが提供するコンサルティングの特徴は何ですか。

顧客の課題に対し、解決に必要なビジネスとテクノロジを組み合わせて解決する「アグリゲータ」を目指します。ビジネスとテクノロジを直接、結びつけるのです。
アグリゲータは仮説を提案し解決策を出す。さらに課題を解決するための全体的なプログラムや、プログラムを達成するための個々のプロジェクトを提案する。システムを導入することもあれば、企業内の制度を変えることもある。企業組織を変革するチェンジ・マネジメントも提供しますし、システム導入後の運用を支援することもあるでしょう。
こうしたプロセスをすべて一括して請け負うのがアグリゲータです。プロジェクト管理、システムの設計や開発・導入、そしてコンサルティング能力が必要になります。
これらのプロセスすべてを1社で提供できる人員を確保するのは難しいと思うかもしれません。実は自社で持っていなくてもできるんですよ。不足分を補う人を探してくればよいのです。
初年度に300人を採用し、将来的には2000人に増員する計画です。そんなに大きくできますか。
当初の人員については、あまり心配していません。僕が作り出す面白い環境を楽しみたいと考える人が集まってくれそうです。2000人という数字は、新しいビジネスモデルでそれなりの存在感を示すためには必要なんですよ。そうじゃないと「あそこは小さいから、特殊な会社だからできるんだ」で済まされてしまう。プロジェクトの規模が拡大すれば、それなりに動員力も必要になる。規模は追求していきます。
倉重さんが目指す理念は理解できますが、IT業界でこれまで実現した企業はありません。なぜですか。
コラボレーションの実現に欠かせないのは、その相手です。実現しなかった一番の理由は、IT業界が予算を持つ部門と付き合っているからです。予算をベースに動いている部門の人は、成功報酬制度では予算が確定できない。新しいシステムやプロセスが利益をもたらす事業部門でないとコラボレーションは難しいでしょうね。
予算ベースで動く部門は、自部門の予算の範囲に抑えることが仕事です。相手が高く言ってくると、ネゴシエーションで抑えようとします。ところが新たなシステムやプロセスによりメリットを受ける人や、システムが稼働すれば新たなビジネスを立ち上げられる人は、1日も早くやってほしい。コストが10円高い、100円高いなんて関係ないんです。
>>後編
倉重 英樹(くらしげ・ひでき)氏
(聞き手は,桔梗原 富夫=日経コンピュータ編集長,取材日:2008年6月20日)