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【前編】Salesforce over VPNでセキュリティの問題は解消,NTTと提携したインパクトは大きい

SaaS(software as a service)市場で世界をリードする米セールスフォース・ドットコム。5月にNTTコミュニケーションズとの提携を発表し,年内にもSaaS over NGN(次世代ネットワーク)の提供を予定する。一方,「Force.com」でプラットフォーム機能をネット経由で提供するクラウド・コンピューティングに乗り出す動きを見せている。同社の宇陀社長に今後の戦略を聞いた。

NTTコミュニケーションズと5月に提携し,同社の国際VPNを介して「Salesforce」を利用できる「Salesforce over VPN」を7月から開始した。

 最大の狙いは,VPNで接続したいというユーザーのニーズに応えることにある。企業ユーザーの中にはオープンなネットワーク,すなわちインターネットに対する不安感がまだある。企業ユーザーにSalesforceを説明しても「メリットはよく分かるが,社内のセキュリティ・ポリシーの関係でインターネット経由の接続では利用できない」と難色を示されるケースが多かった。

 しかし,今後はVPN経由で利用できる。Enterprise Editionの料金は1ユーザー当たり月額1万5750円。VPNで接続するために1ユーザー当たり月額1050円を追加する必要があるが,企業のセキュリティ・ポリシーが導入の障壁になることはなくなる。

 企業によっては,レスポンス向上の効果も期待できる。企業のネットワークは今,画像や動画の利活用で負荷が高まっている。ミッション・クリティカルな用途になるほど,ベストエフォートのオープンなネットワークを使うわけにはいかなくなる。

 ビジネス面では,密かに期待していることがもう一つある。地方自治体向けのサービス提供だ。実はNTTコミュニケーションズのVPNを直収したことで,政府の総合行政ネットワーク「LGWAN」(Local Government Wide Area Network)からSalesforceにアクセスできるようになった。

 Salesforceの「マルチテナント」と「カスタマイズ」という特徴は地方自治体での利用に向いている。LGWANの利活用を進めるうえで,非常にマッチするのではないかと考えている。

ユーザー企業の反応はどうか。

 先ほど説明したようにセキュリティ・ポリシーの問題が解消されるので,金融機関をはじめとした大企業の反応がガラッと変わった。また「NTT」と提携したインパクトも大きかった。セールスフォース・ドットコムを知らないユーザーは多いが,NTTのことは誰でも知っている。日本郵政公社(現在の日本郵政)のSalesforce採用もインパクトがあったが,それ以上かもしれない。日本では最終的に5割程度のユーザーがVPN経由でアクセスすることになるだろう。

NTTコミュニケーションズ以外の事業者が同様なサービスを提供する可能性はあるのか。

 NTTコミュニケーションズとの契約は排他的ではない。ただ,技術的な問題もあり,ほかの事業者に対して同じように接続するのは難しい。総合的な判断で1社にした。どうしてもということであれば,NTTコミュニケーションズの網を介して相互接続してもらうことになる。

5月の発表では,NTTグループのNGN向けに「Salesforce over NGN」(仮)を年内にも投入するとした。NTTのNGNに期待していることは。

宇陀 栄次(うだ・えいじ)氏
写真:的野 弘路

 技術的な細かい点はともかく,新しいビジネスの創出につながると期待している。今後はITだけでなく,ICT(情報通信技術)で通信との相乗効果が高まっていく。通信技術の進化はITの技術革新につながるので,我々からすると歓迎すべきこと。NGNはまだ概念的な面が強いが,今後はユーザーのニーズに基づいた具体的な活用法が見えてくるはずだ。

 高品質や高信頼,高セキュリティ,完全帯域保証型といった特徴をトリガーに新しい付加価値をユーザーにアピールしていけば,ビジネスの機会はどんどん広がっていく。

 もう一つ,期待している点は日本の国際競争力の強化。日本の企業は国内のことばかりを考えているが,その次のステップとして国際競争をもっと本気で考えるべきだ。極端な話,海外からどれだけ金を取ってくるか。通信で海外に進出するのは難しいかもしれないが,上位レイヤーのサービスと組み合わせたビジネスモデルであればチャンスは十分ある。

 そのためには通信事業者だけで考えても駄目で,やはりユーザーのニーズに基づいてネットワークの機能や品質を決めていくことが重要になる。そうすれば便利なサービスも自然に増え,うまく展開していくのではないか。

>>後編 

セールスフォース・ドットコム 社長兼米国本社上級副社長
宇陀 栄次(うだ・えいじ)氏
1956年生まれ。東京都出身。81年3月に慶応義塾大学法学部を卒業。同年4月に日本IBMに入社。大手企業担当の営業部門を経て,社長補佐,製品事業部長,理事情報サービス産業事業部長などを歴任し,情報サービス産業各社との提携や協業の事業責任を担当。2000年に日本IBMを退職後にIT企業の社長を務めた後,2004年3月に米セールスフォース・ドットコムの上級副社長に就任した。同年4月から日本法人の代表取締役社長。最近印象に残った本は,マルコム・グラッドウェル著の「The Tipping Point:How Little Things Can Make a Big Difference」。

(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2008年6月10日)