かたやプロ、アマを問わず、多くのアーティストが集まるソーシャルネットワーキングサービス(SNS)「MySpace」。かたや楽曲のエンコードからネットでのダウンロード販売、iTunesStoreやNapsterでの配信登録まで、自作の楽曲をインターネットで配信したいと考えるアーティストを支援する音楽配信サイト「viBirth」(ヴィバース)。その両者が手を組んだ。
2008年8月22日から、MySpaceはviBirthの音楽配信機能と連携した。これにより、MySpaceとviBirthの両サイトに登録しているアーティストは、viBirthで配信している自作の音楽をMySpace内の自分のプロフィールページでも販売できるようになる。今回のサービスの目的や開始した経緯について、MySpaceを運営するマイスペースの大蘿 淳司社長とviBirthを運営するブレイブの殿村 裕誠社長に聞いた。(聞き手は、平野 亜矢=日経パソコン)
まず、MySpace側から見た今回のサービスの目的は?
大蘿:米国でMySpaceが成功した原点に戻ろうということです。MySpaceには自分の「フレンド」一覧に、友達と同じようにアーティストを加える機能があります。こうした機能によって、アーティストとファンの関係がネットワークを通じて作れたところに米国のMySpaceの成功があったと思います。日本のMySpaceもこの原点に戻り、日本的な形で実現していくことが重要と感じました。その具体策の一つとして、viBirthと提携し、アーティストが自分たちの作ったものを直接ファンに届けられる場にしたいと考えました。
viBirth側の目的は?
殿村:viBirthを介して制作、配信される音楽のプロモーションにMySpaceを使えると思ったことです。viBirthの企画を立ち上げた当初は、音楽を制作、配信する機能だけでなく、SNSやブログなどプロモーションのための機能も搭載しようと思っていました。ですが、そこまで自分たちでゼロから実現するのがいいことなのかという疑問がわきまして。そこは、サービスとして既に成立していて多くのユーザーも抱えているMySpaceと組む方が良いと考えました。
今回のサービスによって、プロ、アマ問わず、アーティストはファンに自分の楽曲を直接販売できるようになります。これで音楽業界は変わるでしょうか。
殿村:多様化して、売れ方も、音楽の楽しみ方もロングテールになるでしょうね。今の音楽業界ではマーケティングに基づき、売れるものにアーティストを乗せていく形です。メジャーデビューして1年後に残っているアーティストがどのくらいいるでしょう。長期間、やりたい音楽を続けるのが難しい状況なのです。それに対しては、アーティストも冷めてしまっているところもある。ファンに直接届けられれば、この状況は変わるでしょう。
楽曲を自分で売れるとなれば、アマチュアミュージシャンの意識も変わるかもしれません。アマチュアミュージシャンは楽曲を趣味と割り切っていることもあり、コピーバンドが多いです。でも、売れるかもと思えば、オリジナルを作る人も増えると思いますよ。
大蘿:今までこの音楽は必要ないんだとあきらめていたものが配信されますからね。日本で受けないものが、違う国では売れるかもしれない。ただ、そのとき問題になるのは、ユーザーにどうやって見つけてもらうかです。検索というのも一つの方法ですが、人と人とのつながりでこそ見つかるものもある。そこではMySpaceのようなSNSが力を発揮できるでしょう。
殿村:音楽の表現手段が多様化する可能性もありますね。CDなどのパッケージで販売することが前提だと、音楽もその形に縛られがちです。1曲は5分、10曲でアルバム1枚というように。でも、流通の形が変われば、クラシックのように1曲数十分あるような楽曲や、短歌のように短い音楽も出てくるかもしれません。
SNSについては、当初のブームを経て、盛り上がりが一段落した感があります。今後、どのように展開するでしょうか。
大蘿:これからはSNSも個性の時代です。ユーザーは複数のSNSを、目的別に使い分けるようになるでしょう。社会的な場、趣味の場など、人間関係に“場”があるのと同じです。ただ、そうなるとそれぞれのSNSに日記を書いたり、情報をアップしたりするのは面倒になってきますよね。米国では1つのSNSに情報をアップすれば、それがほかのSNSに反映されるようにしようという動きが出てきています。日本でもそういうサービスが必要になりそうです。