
広告業大手のアサツーディ・ケイ(ADK)はネット広告会社のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)と共同で2008年8月1日に、インタラクティブ広告事業における営業力強化などを目的にした「ADKインタラクティブ」を設立した。新会社の社長に就任した横山氏に、設立の経緯や今後の戦略を聞いた。
8月1日付で会社設立に至った理由は。
ネット広告はアドサーバーを使って配信する仕組みで、ターゲティングの精度が上がっている。リーチという軸で見るとテレビの方が圧倒的に高いが、(クライアントには)「アテンション」(注意)を買うのか「インタレスト」(興味)を買うのかという考え方がある。従来はコンテンツで(ユーザーの)アテンションを獲得して広告スペースを切り売りしていたが、状況は変わった。例えば、検索連動型広告はキーワードを入力して検索したときに、その興味・関心に沿った広告を出す。そうするとクリック率が上がり、そこから誘導する。アテンションを売るのでなく、インタレストを示したときに広告を送る。広告は「どこに掲載するか」から「誰に配信するか」にシフトしてきている。興味のある人だけに適切なメッセージを送るという流れが、パソコンやケータイだけでなく、IPテレビでも起こってくる。
だんだん「テレビが前提」ではなく、ネット(自社サイト)でブランデッドコンテンツを作ることがコアにあり、そのコミュニケーション設計をして、どういうチャネルで接点を持つか、その中の一つがテレビだという考え方に変わってきている。
なおかつ、クライアントサイドに立たないと設計ができづらくなっている。ブランドのターゲットプロフィルを十分理解していて、こういうプロフィルなのだからこのキーワードで検索した人を配信の対象にする、といったことを設計しないといけない。今、サイト利用者のデータはクライアントが持つ。ネット広告のノウハウを持った人間が直接クライアントにコンタクトしないと、きちんとした価値を提供できなくなった。だが、そうした人材は少ない。
こうした背景があり新会社を設立した。その企業戦略は、ほとんどが人材育成戦略ということになる。
新会社が育てる人材とは。
一つはネット系とマス広告系のハイブリッドの人材を育てること。もう一つは、Web活用で直接クライアントとやり取りする営業のインタラクティブプロデューサーを育てるということ。
後者で言うと、もうクライアント自身がプロになっている。自分でWebメディアを構築しているということは、自社メディアを持ち、マーケティング装置を持っているわけで、完全にプロ化している。今の広告会社は、クリエーティブなどのスタッフにはそれぞれの分野のプロがいるが、営業に関しては「マス広告は分かるがネットはちょっと」という人がまだ多くいる。その人たちがクライアントとスタッフのインターフェースになる。そうした「プロ-アマ-プロ」の構造では、物事が進まない。
プロ化しているクライアントに、プロの営業プロデューサーがコンタクトする構造を作らないといけない。今はクライアントが、モバイルのCRM(顧客情報管理)や、トラッキングによるROI(投下資本利益率)の検証、アクセス解析といったところを求める時代になっている。それをしっかり提供することで、トータルなキャンペーンを任せられ、お金にするという戦略が成り立つのだと思う。
我々はインタラクティブな領域をコアにして、マス広告、ブランド、セールスプロモーション(SP)などトータルで分かる人材を育成していく。それが新しいエージェンシーとしての戦略。インタラクティブ領域を攻略起点にして、(テレビなどを含めた)トータルキャンペーンを取るということになる。
ADK本体との役割分担は。

我々はキャッチャーボートと言っているが、機動力のある船が母船より先に行って魚の釣り方を実験する。後でどう合流するかは分からない。本体は大きくてかじを切りにくい。その体制はマス広告を売るために何十年かかけて作り上げてきたもの。簡単に変えることはできないので、そういう体制からいったん離れ、どうすれば戦略的なエージェンシーになれるかを我々が実験する。
新会社は、基本的にADKの営業をサポートする形で入っていく。まずはADK本体のアカウントマネージャーと、アカウントプランナーであるADKインタラクティブの人間が併走することでうまくいくのではないかと見ている。
ただし、我々が目指すのはプランナーというよりも、営業のプロデューサー集団。今はプランニング、プロデュースができない営業では仕方がない。インタラクティブを柱にした「T型人材」を養成することでADKグループとしてのパワーアップを果たすことが戦略になる。人の採用の機動力も本体より高い。
人材をどう育成するのか。経営目標は。
人材育成は、実践しかない。4~5年ネット広告にどっぷりつかった人をマス広告のトータルキャンペーンをプランできる環境に置いて、実戦で動いてもらうのが早い。優秀な学生を従来の広告代理店の中に入れるのではなく、いろいろなメディアがあって同じやり方では通用しない難しいネット環境で鍛えると、後が楽になる。新しいアドマンの育成になる。
新会社は当初、ADKから14~15人、DACから14~15人、そのほかも合わせて35~36人でスタートする。10数人を中途で採用して年内に40~50人体制にしたいと考えている。ハイエンドなところをこなせる人材、オペレーション部隊の両方が必要になる。
経営的には、まずネット広告で売り上げを立てる。ADK本体が扱うネット広告は、我々に一元的に発注される。初年度で60億~70億円の規模になる。
インタラクティブ領域で注目しているものは。
一つが行動ターゲティング。米国でも成長性が高いとされているが、検索連動型広告がテキストベースなのに対して、動画も扱えて表現力がある。テキスト広告は、スペックや理性的な訴えかけに対して広告が成立するというものが対象だった。動画で広告表現が広がるということは、それがエモーショナルなものに広がる。市場の対象が広がることになる。
ただ、行動ターゲティングという次世代型の商品はスキルがないと売れない。クライアントサイドのデータ、情報をそしゃくして、ブランドのコンセプトやターゲットに基づいてメディアプランに落とすことは、今はないスキル。それを売るための集団スキルの育成を今やらないといけない。
また、従来のコミュニケーションは送り手の論理でコピーに落としてきた。今もそれは大事だが、それだけでは通用しない。どんなキーワードがユーザーの琴線に触れるかを解析してメッセージを作らないといけない。送り手の思いでなく、受け手側からのコミュニケーション開発も重要なテーマになる。
(聞き手は,渡辺 博則=日経ネットマーケティング編集長,取材日:2008年7月30日)
横山 隆治 (よこやま・りゅうじ)氏