シックス・アパートは2008年12月に日本法人設立5周年を迎えた。この5年間でマーケティングにおけるブログの活用はどう変化したのか。さらに今後はどう変化するのか。同社代表取締役の関信浩氏に話を聞いた。
(聞き手は、杉本 昭彦=日経ネットマーケティング)
この5年間、ビジネス、マーケティングでのブログ活用はどう進んだのか。
最初に(ブログサイト構築ソフトの)「Movable Type」(MT)を使ったのは個人に近いEC(電子商取引)サイトだった。2003~2004年のころ、メルマガの代わりにブログを使おうと考えていた人が多かった。その中でも、アンティーク家具の「ロイズ・アンティークス」、照明器具の「てるくにでんき」など、ブログ化によりメルマガ以上の効果を上げたところが出た。ツールを一つ入れることでSEO(検索エンジン最適化)効果が上がり、売り上げが増える成果がすぐ出て、専門誌などを通じて広まっていった。
次に、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)のアリエールのブログ「除菌のアリエール困ったさんコンテスト」は、ブログを通じて「我が家の困ったさん」などのエピソードを募集する試みだった。売り上げに直接的には結び付かないマーケティングのためブログとしては、ほぼ最初の事例だ。
期間限定(2004年9月~12月)のブログだったことが、当時のブログに対する考えをよく表している。当時は皆、恐る恐るブログに取り組んでおり、「効果が出そうだったら続けるけど、何かが起こったら困る」と考えて、ほぼすべて期間限定だった。
アリエールの事例は、CGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)活用マーケティングの原点と位置付けられる。通常のコンテストなどで消費者からエピソードを募集するときは、メールや封書で送ってもらい審査員が受賞作を決めて公開する。例えば1万通の応募があっても、10の受賞作品しか公開されない。
ただ、公開された以外の作品も面白く、コンテンツになるはずだ。アリエールではそれをもったいないと考えて、過程をすべて可視化した。まさにCGMの発想だ。玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の中に面白いものがあるという考えだ。
日産自動車の「TIIDA BLOG」も息が長く、有名だ。
TIIDA BLOGはアリエールとほぼ同時期に始まった(2004年9月~)が、少し違うアプローチだった。中の人(日産自動車の社員)の気取らない語り口調で始まり、マスメディアには出ない裏話的なもの、編集後記、開発秘話的な記事を載せていった。
それまで、インターネット(の企業サイト)では「である調」で(マスメディアの)記事やカタログのように書いて、読み手のレスポンスをさほど期待しないものだった。
それに対してソーシャルメディアでは、読み手からレスポンスが出るように同じ目線で話す。自動車ディーラーの店頭で話しているような感覚だ。企業と消費者の関係から、もう少しフラットな関係になる。このTIIDA BLOGのあたりから、ソーシャルメディアとしての一つのマインドセット(ものの考え方、基本原則)が変わった。
ECでのブログ活用はメルマガに代わる手段として売り上げに直結していたが、アリエールでCGMの可能性を提示し、TIIDA BLOGはカンバセーショナルメディアの幕開けとなったと思う。
それ以降で息が長く注目されたのが、リコーの「GR BLOG」だ(2005年6月~)。カメラ好きの人にフォーカスした。マス広告はほとんど出さず、ネットとクチコミだけでマーケティングを展開した。フォーカスが決まっていると、ネットマーケティングが有効なことを実証した事例だ。
GR BLOGには、いまだに記事に対するトラックバックが集まる。企業のブログがトラックバックを受け付けることは、ブロガーへリンクを張ってあげることになる。参加している人にトラフィックという具体的なベネフィットを与えるのがポイントだ。写真を撮ってブログにアップしている人は、ほかの人に見てほしいから上げている。その写真を見てもらう方法として、GR BLOGが使われている面もある。